1-5 文明から切り離されて
「わたしは秋津朱利。埼玉県に住んでいる高校三年生。気がついたらこの場所に来ていたわ。一部記憶が欠如していて、ここがどこなのかも把握できてないの」
どうやら、秋津さんも俺たちと同じような境遇にあるようだった。年は一つ上だが、同じく関東圏に住んでいる高校生という点では共通している。
俺と渚も自己紹介とここに来るまでの流れについて説明する。ちなみにこの時点で三人とも全裸のままである。気分爽快だ。
「そう。やっぱり、あなたたちも同じような状況なのね。うーん、どうしましょ…………なんだか眠くなってきたわ」
「ちょ、ちょ! いくらなんでもマイペースすぎますよ! 結構、危機的な状況にあると思うんですよ! 俺たち!」
秋津さんはまったりとしたペースを崩さない。本当にこの状況を理解しているのか、と問いたくなるくらい淡々としていた。
この人めちゃくちゃ顔立ちは整ってるけど、性格はだいぶ変わっているぞ。
「大丈夫。根拠はないけどきっと大丈夫。…………たぶんだけど」
「そこは自信持って言ってくださいよ! とにかく、ここで出会ったのも何かの縁ですし、一緒に帰る方法を探しましょう?」
「そういえば、一ついいかしら」
「……どうしました?」
秋津さんはきょとんとした表情で問いかけてくる。
年上ながらそのきょとん顔が可愛らしいな、と思ってしまう。初見では無愛想な印象を受けたが、一つ一つの動作が愛らしくなんというか小動物みたいな人だ。
「わたし、どうして裸なのかしら?」
「こっちが聞きたいですよ!」
さっきから目のやり場に困っていたのだ。
謎の光に覆われていてもそれ以外は肌色一面。年頃の男子には目の毒だった。
さっきからゾウさんがパオーンしないようにめちゃくちゃ我慢している。
「それと、なんであなたたちも裸になる必要があったの?」
「そこは俺たちがおかしかったです!」
これに関しては返す言葉もない。ノリと勢いでやってしまいました。
「まぁ、あまり気にしてないのだけど」
「そこは気にしてくださいよ……花も恥じらう乙女が」
やっぱりこの人もおかしい。
「わたしお腹すいたわ」
「急に! 欲求に正直すぎませんか!?」
「俊介ー、ボクもお腹減ったー! このままだと俊介のこと食べちゃいそう!」
「落ち着いてくれ、ボケを渋滞させないでくれ! ……けど、たしかに食料の確保は急務だったからな。このへんをキャンプ地として食料探しますか」
話は秋津さんと合流する前まで戻る。そもそも、俺と渚は暗くなる前に寝床と食事を確保しようという話をしていたのだった。
「わたしハンバーガーが食べたいわ」
「あるわけないでしょ! 乳揉みますよ!」
「別に揉んでもらっても構わないわ」
「では、喜んで」
もみもみ。もみもみ。
ありがたく生おっぱいを揉ませてもらった。とても柔らかかったです。
けどなんだろう。この虚しさは。もっとこう恥じらいがあってほしかった。ここまで機械的な反応をされてしまうとエロい気分になりにくい。
もみもみ。もみもみ。
おっぱいっていうのは簡単に揉めないから価値があったんだなぁ。
俺は即物的なエロに走ったせいで、エロの本質を見失ってしまった。エロとは本来秘められているからこそ価値があったのだ。全員全裸の世界で人はおっぱいに興奮するだろうか。
もみもみ。もみもみ。
……やっぱ取り消します。おっぱいは柔らかくてエロいわ。
そこに論理とか大義とかは全くなくただただエロい。おっぱいはおっぱいだからこそおっぱいとしての意味があるのだ。
「俊介! いつまで朱利さんのおっぱい堪能してるのさ! そ、そんなに、おっぱいが触りたいならボクのも触っていいんだからね……?」
「ふむ、では失礼して」
渚が不満そうに口を膨らませているので(かわいい)、俺はやれやれとため息をつきながら、渚の真っ平らなおっぱいに手を伸ばす。まったくやれやれだぜ。
もみもみ。
結論。男の娘のおっぱいも意外といいかもしれんぞ?
「はぁ……はぁ……、そういえば朱利さんの服ってどうしようか?」
渚は鼻息を荒くして、早急に議論するべきだったテーマに切り込む。ちなみに渚がこのような興奮状態にあるのは、俺が全力で胸を揉みしだいたからである。
さっきから目がとろんとしていて、色気をむんむんと醸し出している。えちえちだ。
「わたしはこのままで大丈夫だけど」
「ダメです! さっきから俊介のゾウさんがパオーンしっぱなしなんですから!」
「いやん」
いつのまにかゾウさんが猛々しくなっていた。やっぱりこの状態を見られるのは抵抗がある。ほら、大きさとか色々バレちゃうじゃない?
とりあえず、秋津さんにはスポドリの運搬に使っていた俺のYシャツ着てもらうことになった。いわゆる裸シャツってやつだな。
正直、全裸よりこっちのほうがエロい。
俺のゾウさんがより勇ましくなったのは言うまでもなかった。
「日が沈んだら何もできなくなってしまうので急ぎ対応しましょうか。食料もそうですが、あと火がないと厳しいですよね。獣対策や調理の観点からも」
「わたしコンビニでライター買ってくるわ。……やっぱりお金がないから無理ね」
「そもそもコンビニがないんです! 我々が文明から切り離されたことを自覚してください!」
「でもどうするー? ボク、火起こしなんてやったことないよー」
そう、そこが問題なのだ。
現代日本で暮らしていて火起こしの方法なんて学べるわけがない。というか学ぶ必要がない。ガスコンロを捻れば火が出るような生活をしていたのだから。
「なんとか頑張ってみる。子供の頃見ていたサバイバル番組を思い出して」
「わかった。じゃあボクと朱利さんで食べられそうなもの探してくるね。もしかしたらポ◯リみたいに木に生えてるかも」
「おーけい。それじゃあ手分けしよう」
「えいえいおー」
秋津さんが無表情のまま掛け声をかける。……この人が年上だとは到底思えない。
純粋無垢というか、世間知らずというか、行動がいちいち幼く可愛らしい。今はこの秋津さんの天然ぶりが救いだった。冷静になったらいくらでも絶望ができそうだから。
俺たちは各々動き出した。
「さて、まずは火起こしの道具を集めないとだな」
二人が食料探しに言った後で、俺は一人悩んでいた。
やみくもに動いても体力を消耗するだけなので大まかな方針は決めたい。
まずは火起こしに必要なのは木の板と木の棒……だった思う。摩擦を起こして火種を作るのだ。そして次に必要なのは燃えやすいもの。綿や乾燥した木の枝葉。
火種をこれらに移して着火させる、というのが火起こしの流れだったと思う。
詳しい人間からすれば所々間違っている箇所もあるだろうが、今は本もスマホも手元にないわけでこれを試してみるしかない。