4-7 ラスボスが登場して
この島に来て六人目に出会う人間。これまでの法則性から彼女もまたこの島に迷い込んだ、というか何者かに連れてこられた人物なのだろうか。
いやはや、まさかこんなロリな娘が全ての黒幕ということもないだろうし。
「あっはっはっはっは!! よく来たな、愚民ども!! 妾こそがゲームマスター、お主らを拉致しこの地に閉じ込めたのは、何を隠そうこの妾なのだ!!」
すみません、どうやら彼女が全ての黒幕みたいです。
にわかには信じ難いですが……まぁ、状況証拠的にもそうなんだと思う。
ただ、何というか緊張感みたいなものは全くないよね、うん。
「……えーと、仮に君が黒幕だったとして何が目的でこんなことを?」
「ふん! そんなの知れたこと! 妾が お も し ろ い からだ!!」
「ふむ、なるほど。まぁ、それはさておき。ひとまず鷺ノ宮を返してほしんだけど。そのあとに俺たち全員を日本に戻してもらえると助かります」
壮大な目的があるかと思いきやそんなこともない。
何というか、力を持ってしまった子供みたいな印象。彼女が言っている事を真に受けても仕方ないので軽く流しておく。
よく分からないけど俺たちを連れ去った確固たる理由もないようだし、交渉次第では難なく日本に帰してもらえるのではないだろうか。
「妾も見くびられたものだな。なんの対価もなくそれに応じると?」
「えーと、何か欲しいものでもあるんですか?」
まぁ、ほいほいとは応じてもらないよな。
仕方ないのでまずは彼女の要求・要望を確認してみることにする。
「当然だ! 妾が欲すのは愉悦! 人と人が醜く争う様を見て酒を呷りたいのじゃ!」
「ゲームマスターさん、未成年がお酒飲んじゃダメですよー」
「妾は酒を飲める年齢じゃ! そういう設定なのだ!」
渚の指摘にゲームマスター(笑)がプリプリと怒っていた。
うーん、やっぱり緊張感がないなぁ。一応、全ての元凶らしき人物がいるというのに、あまりにも空気がほんわかしすぎている。
「困ったな。わりと俺たち団結力が強いと思うし、今から君が望んでいるような展開は起こらないと思うけど……」
「あっはっは!! 何もわかってない! わかってないなぁ! 人間の本性は追い詰められた時にこそ剥き出しになるのだ! 本当の修羅場の前で同じことを言えるのかぁ!?」
「言えるとも。俺はみんなを『信頼』しているからな」
「ふん! 口だけでは何とでも言える! 今から妾とのゲームでそれを証明してみせよ。お主らがゲームに勝てばそこにいる鷺ノ宮咲を解放してやるぞ」
ゲームマスターが天井に向かって指を差す。
すると突然、照明か何かで天井が明るく照らされる。
そこには鎖で繋がられた大きな鳥籠のようなものがぶら下がっており、そしてその鳥籠の中にはぐったりとした様子の鷺ノ宮がいた。
「鷺ノ宮!! (咲ちゃん!!)」
「あまりにも暴れるから、ちょーっとばかし折檻させてもらったぞ」
「おい、鷺ノ宮に何をしたんだ!」
「鷺ノ宮咲。江古田俊介が何をされたのか、と聞いているぞ。気になっているようだし答えてやったらどうなんだ?」
ゲームマスターは鳥籠の中の鷺ノ宮に声をかける。
……ん、自分で答えればいいものをなんで鷺ノ宮に水を向けるんだ?
「そ、そ、そんなこと言えるわけないでしょー!!」
なんか鷺ノ宮の息が荒い。というか、折檻をされたというわりには元気があるな。
大事でないのなら何よりだがどうも腑に落ちないな。
「あっはっはは!! だろうな、口が裂けても言えんだろうなぁ。妾があんな醜態を晒したらとてもじゃないが表を歩けんぞ」
「ほ、本当に何をされたんだ!? 鷺ノ宮!?」
「だから聞かないでー!!」
え、本当に何をされたの? も、もしかしてなんかエロい感じのやつ? 私の体を穢すことはできても心までは絶対に屈しない! みたいな!
「ゲームマスター! ……その、なんだ。無いならないで仕方がないが、折檻の様子ってのは動画に残っていたり……」
「もちろんあるのじゃ」
「なるほどぉ。ふむふむぅ。よし、言い値で買います!」
「江古田くん!?」
何だろ、このワクワク感。同級生がA○女優になったような気分。
「すまんっ……! 鷺ノ宮っ……!」
「ふざけないで! 絶対に見ちゃダメだからね! 見たら絶交だからね!?」
「なんかお主らゲームの前から仲悪くなってないか?」
「甘いぜ。そう簡単に俺たちの絆は引き裂けない!!」
「どの口で言ってるの、江古田くん!?」
鷺ノ宮のツッコミは健在だ。この様子を見るにトラウマレベルの体験をした、ということではないように思える。それならひとまずはよかった。
「————さて、冗談はこのくらいにしようか。なぁ、ゲームマスター?」
「え、江古田くん……!」
先程までの言動は全てが演技・ブラフ。
鷺ノ宮の無事を確認するためにわざと会話のきっかけを作ったのにすぎない。仲間の折檻されているシーン、そんなもの見たいなんて微塵も思わないさ。
「ふん、さすがにこんな動画でお主らの関係を崩すのは無理じゃったな。では、この動画は削除させてもらうぞ」
「………………あぁ! 構わないさ!」
「江古田くん、今の間はなに?」
男の子にはどうしても抗えない本能があるんです。許してください。
でも俺ちゃんと拒絶したから! 理性で判断したから! むしろ褒めてくれ!
「まぁ、そんな面白い映像でもないんじゃがな。鷺ノ宮咲の周りに百匹の猫を配置して、それに対して鷺ノ宮咲がただただデレデレしているだけの映像じゃし。まぁその時の破顔っぷりは見せ物としては面白かったのじゃが」
「何で言うのよー!!」
鷺ノ宮は真っ赤な頬を隠すために手で顔を覆っていた。
えーと、つまりなんだ。あんなにアダルティックな感じ出しといて、つまりアダルトビデオじゃないってこと……? ただのアニマルビデオってことだよな……?
「騙したな、ゲームマスター! 俺は許さない……お前だけは絶対に許さん!」
「え、妾そんなに悪いことしてなくない!?」
ちくしょう、男の子のピュアな心を弄びやがって。
こちとら箸が転んでもエロいと思う年頃だぞ。地図帳の『エロマンガ島』や『漫湖』でもキャッキャできるくらい想像力豊かで可愛らしい(?)んだからな。
「さぁ、早くしろ! どんなゲームでも受けて立つぜ!!」
それを弄んだ罪、その身を持って償わせてもらおう。
「ま、まぁ、落ち着くのじゃ。ま、まずはルールを説明させてくれ。……それとそこに隠れている秋津朱利と下井草優! ゲームは江古田俊介、小川渚に其方ら二人を加えた四人に参加してもらう。コソコソしていないでこちらに来るのじゃ」
「あははー、バレてましたかぁ」
「……江古田くん、目を狙ってもいい?」
「だから落ち着くのじゃ! 何でお主らはそんなに好戦的なんじゃ!?」
秋津さんの発言にゲームマスターはたじろいでいた。
あれ、意外とイニシアティブはこっちが握っている感じだな。このゲームマスターもとい黒幕、何というか迫力とか凄みみたいなものが一切ない。
もちろん見た目とかもあるだろうが……荘厳な喋り方に対して発言内容がいちいち庶民的というか常識人っぽいんだよな。
「俊介、本当にあの子が黒幕なのかな?」
「いやー、どうなんだろう。けど、まぁ嘘つく理由もないような」
「何にせよ、よかったですよー。あんな感じなら、ゆう達だけでも何とかなりそうじゃないですかぁ」
「江古田くん。いつでも目を狙う準備はできてるから」
秋津さん、優ちゃんも合流。これで四対一の構図。まどろこしいゲームとかしなくても力技でいけそうな感じがする。
「……お主ら、妾のことを舐めているな! 後悔しても知らぬからな! お主らを生かすも殺すも妾次第ということを忘れるな!」
「みんな、一応警戒はしておこう。あんな見た目でも人間五人をこの島に拉致できるだけの何かしらの権力や能力があるのは間違いない」
これまでの状況を全て彼女によって仕組まれているというなら只者ではないことは間違いない。見た目に騙されて油断するのは危険かもしれない。
「さて、ようやく話を聞く気になったな。……それでは始めるぞ。主らの絆を試すゲーム『クイズ・鷺ノ宮咲の一○のコト』を!」
『…………』
なんか一昔前のバラエティ番組でやっていたようなやつだ。
もっとこうライ○ーゲームとか、カ○ジとかで出てきそうなプレイヤー同士の裏切りを誘発するような趣味の悪いゲームがくるかと思っていた。
思った以上にほのぼのしていて正直拍子抜けである。
「な、なんじゃ! その顔は! 何かゲームに不満でもあるのか!?」
「……いや、うん、大丈夫なんで続けてください」
正直ゲームの難易度は低い方がありがたいので、余計なことは言わないことにする。
「そ、そうか? なら続けるぞ。今から妾が鷺ノ宮咲に関する質問を一○個させてもらう。お主らが質問に過半数の六問以上答えることができたら勝ち。逆に言えば、五問目を間違えた時点で負けが確定するということじゃな」
「なるほど。ルールはわかった。それで、俺たちが負けた場合はどうなるんだ?」
「お主らの記憶消す。そして何度も何度も何度も繰り返すのだ。五人の関係性が崩れるまでずっとずっと。今回は全員が団結することができたようだが、記憶がなくなったら次はどうなるか。仲違いをして憎しみ合うかもしれん。もしかしたら流血沙汰になるかもな。妾はその様子をじっくりと観察させてもらうぞ」
「……趣味が悪いな」
記憶を消す、果たしてそんなことができるのか。……いやきっとできるんだろうな。そもそも俺はこの無人島に連れて来られた経緯を覚えていない。
何かしらの処置が施された、と考えた方が良いのだろう。
目の前の少女にはそれを可能とする力がある。
それは俺たちが短い時間で築き上げてきたものを破壊し、蹂躙し、冒涜するような行為だ。下手をしたら命を奪う以上に残酷なことだと思う。
みんなと過ごした時間があるから今日の俺がいる。そしてこれからも変わっていける、そう思っている。
だから、それを奪われるなんて絶対に許容できない。あってはならない。
こんな悪趣味なやつの実験動物なんかになってたまるか。
「あっはっは!! どうした、先程までの威勢はどこにいったんじゃ!?」
「え、そんなことでいいの?」
「……渚?」
「だって、そうでしょ。記憶を消されたって、ボクたちはまた同じように仲良くなるよ。そりゃ、出会う順番は前後するかもだし、若干時間もかかるかもだけど」
何を当然のことを、とでも言いたげに渚は飄々と言葉を紡いだ。例え記憶がなくなっても今回と同じように仲良くなれると。
たしかに渚の言う通りかもしれない。
記憶を消したって俺たちの人格が変わるわけではない。俺たちはみんな凸凹だから。何度繰り返してもきっと上手くはまってしまう、そんな予感がある。
「————そうだな。このゲームどうやったって負けはないな」
「あっはっは!! 楽しみが一つ増えたぞ。妾に負けて記憶を消されたお主らが諍いを起こしたときに、今の言葉をそのまま伝えてやろう!!」
「それにそもそもゲームにも勝つさ。付き合いの長さは関係ない。俺たちは本質的な部分で繋がっているからな。どんな問題でも答えに想像はつく」
「ふん、もはや言葉はいらんな。江古田俊介、小川渚、秋津朱利、下井草優。各問に制限時間はない心して答えよ!」
『……………!!』
ゲームマスターに相対する俺たち四人、そして鳥籠の中にいる鷺ノ宮、全員が息を呑む。
俺たちの絆をかけた一大勝負が始まった。




