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3-5 変な五人が集まって

「みんな、ただいま」

「大収穫だぜ! ……全部、鷺ノ宮の功績だけど」


 渚、秋津さん、優ちゃんにゲットした食材を自分の成果のように見せびらかす。しかし、鷺ノ宮にギロリと睨まれたので小声で訂正しておきました。

 すみません、男の見栄ってやつです。

 帰りは特に魔物が出ることもなく、トラブルなく拠点である洞穴に戻ってこれた。


 しかし、食材を抱えて整備されていない森の中を歩くのはなかなかの重労働だ。まともな食事にありつけることをモチベになんとか耐え切ったが空腹&ヘトヘトです。

 これまでの人生でここまで空腹を感じたことは一度もない。一日三食も食べられることがどれだけ幸せなことだったが、あらためて思い知らされた。


「二人ともおつかれー! ボクたちもできる準備は進めたよ!」


 そう言って、渚は下処理をした魚や皮をむいた果物、水で綺麗に洗った野草などを見せてくれた。よかったよかった、やっぱり渚に任せて正解だった。


「俊介さん! 俊介さん! やばいんです!」

「ど、どうしたの優ちゃん?」


 普段マイペースな優ちゃんが何やら取り乱している。


「朱利さんが頭おかしいんです!」

「うん、知ってるよ?」


 太陽を中心に地球が回るように、秋津さんの頭がおかしいのは自明の理だ。

 しかし、まぁ出会って間もない優ちゃんが取り乱すのは無理もないか。いきなり秋津さんとの共同作業なんて可哀想なことをしてしまったな。


「江古田くん、その返しはいくらなんでもヒドいんじゃ……?」

「逆に問うぞ、鷺ノ宮。秋津さんはまともか?」

「……ノーコメントで」

「ふっ、逃げたな」


 雄弁は銀、沈黙は金とはうまく言ったものだ。


「周囲との距離感の取り方が江古田くんとは違うの! あたしは!」

「おい、そういう話をみんなの前で……!」


 ちょっと煽りすぎた。鷺ノ宮が少し暴走気味だ。

 今現在の江古田俊介像を守るためにも必死に口止めをする。

 ほら、マジックっていうのはタネも仕掛けもないように見えるからいいわけですよ。仕掛けが分かったら興ざめするでしょ。俺はタネ明かしはしないスタンスなんです。


「じー」

「ど、どうした? 渚」


 不意に渚の視線を感じた。なにやら不満そうでいわゆるジト目をしている。


「なんか俊介と咲ちゃん……急に仲良くなってない?」

『へ?』


 俺、鷺ノ宮はぽかーんとする。


「狩りに行く前と後で全然違うというか」

「そんなことないと思うけど……な、鷺ノ宮?」

「う、うん。別に普通よ!」


 渚の指摘通り、たしかに距離は縮まったと思う。

 しかし、その経緯がちょっと説明しづらいというか……俺と鷺ノ宮の根幹に関わる部分なので口にするのが憚られるのだ。


「ほら、アイコンタクトなんかしちゃって……もしかしてヤっちゃった?」

『してないから!』


 相変わらず渚の思考はピンク色だ。

 安心してほしい。俺はちゃんとチェリーだから。

 君を忘れない、曲がりくねった道を行く。……スピッツが好きです。チェリーは童貞応援ソングだと思っています(ちがう)。


「なんかボクとしては複雑だなー、俊介が他の女の子と仲良くなっていくのー。だってだって、最初に俊介とキスしたのはボクなんだよ!」

「ちょ、渚!」


 たしかに事実だけど! あれが俺のファーストキスだけど!

 そういうセクシャルな話題はこういう場では……。


「……江古田くんどういうこと?」


 ほら、なんか鷺ノ宮が無表情になってるし。こわいこわい!

 絶対怒ってるやん。理由は何だろ、俺への嫉妬? 渚への嫉妬? ……いや、それはないか。なんにせよ、鷺ノ宮にとってあまり好ましくない事実だったということだ。

 こういう時の対応は一つしかない。


「……ノーコメントで」


 雄弁は銀、沈黙は金です。鷺ノ宮の戦法を使わせてもらいます。


「ぐぬぬ……自分も言ってしまった手前、深く追求できない……」


 変なところで鷺ノ宮は真面目だった。

 あぶないあぶない。とりあえず命拾いした。

 しかし、直後に鷺ノ宮は「今後はふしだらなことは絶対禁止だから!」と高らかに宣言する。さすがは風紀委員長です。


「……俊介、次するときはバレないようにシよっか」


 渚に耳打ちされる。いやん、耳がくすぐったい。耳は感じやすいのぉ!

 しかし、どうやら渚はルールを全く守る気はないようだ。さすがだ。

 大丈夫か、俺。

 渚の誘惑に耐えることができるだろうか。ジェントルマンになったとはいえ、俺が高校生の健全な性少年であることに変わりはない。

 まぁ、なるようになるか。うん大丈夫。きっと、たぶん、おそらく。


「あのーあのーみなさん。ゆうのこと忘れてませんかー?」

「あ、いや……ほんとごめん!」


 そういえば、優ちゃんが「朱利さんが頭おかしいんです!」と口にしてから、話が始まったのだった。いつの間にか脇道に逸れていましたね。完全に失念しておりました。

 優ちゃんは不満そうに口を尖らせているので、謝り倒して機嫌をなおしてもらう。


「まったく、こんな粗末扱いを受けたのは久しぶりですよー」

「あのね、優ちゃん。そんなつもりはなくてね」


 先程から平身低頭で許しを乞うているが、優ちゃんはぷりぷりと怒っている。完全にヘソを曲げてしまった。そんなところも可愛いと思ってしまう信者ですが。


「なんか自己肯定感さがりますぅ。ゆうって何も取り柄ないからなぁ」

「そんなことないって!」

「えーじゃあ、俊介さんから見てゆうの魅力ってなんですかぁ?」


 これあれだな。自虐しているフリをして、他者から肯定的な言葉をもらいたい承認欲求の塊みたいな女子がやる常套手段だな。歌舞伎町のトー横にいそうな感じ(偏見)。

 しかし、それが分かった上で彼女の掌上で踊ろうじゃないか。いくらだってバカな男を演じよう。なぜなら、俺は彼女のファンだから。


「優ちゃんは可愛い! それにおっぱいがでかい! ……あとおっぱいがでかい!」


 とにかく褒め倒した……つもりです。


「俊介って女の子の褒め方下手くそだよね」

「下手というより普通に最低というか。全部見た目のことばっか。これが江古田くんのモテない理由の一端よね」

「ちょっとそこの二人! リアルなダメ出しやめて!?」


 渚と鷺ノ宮が視界の端で嘆息していた。

 いや、だって、生まれてこのかた女の子のことを褒めたことがないんですよもん。モテない男っていうのは経験値がたまらないから、いつまで経っても上達しないという……。


 RPGでも最初はスライムを倒してだんだん強くなっていくわけで。

 これが俗にいう非モテスパイラルというやつだ。この渦に巻き込まれると簡単には抜け出すことができない。この負の連鎖から脱出する方法を発見できれば、いとも簡単にノーベル賞を受賞することができるだろう(できない)。


「えー嬉しいですぅ! 見た目だってゆうの構成要素の一つですから。褒められたら素直に嬉しいですよぉ。けどけどー、俊介さんは胸ばっか見過ぎですよ? あんまり、えっちぃのは『メッ!』ですからね!」

「えへへへへ」


 俺は頭の後ろを掻きながらニヤニヤした。

 もう、なんでこんなに可愛いの? 意味分からんから(キレ気味)!


『うわ、きもちわる』

「おい、お前ら!」


 そんな様子に渚と鷺ノ宮がドン引きしていた。

 我ながら気持ち悪いとは思うけどさ、声に出さないで欲しかったです。優しい嘘ってあると思ってるんですよ。すべてを伝えることが優しさではない。

 真実は時に残酷だったりするじゃないですか。それに知らない方がいいことだって。


「てかてか、違うんですって! ほんとに朱利さんがやばいんです!」

「いけね、また話が逸れるところだったね」

「詳しいことはゆうの口からは説明できない……というか、したくないので。みなさんついてきてもらっても大丈夫ですか?」

「了解。ったく……今度はなにやったんだ、あの人」


 秋津さんのやることだからぶっ飛んでいるのは間違いないが、とにかく実際に見てみないことには判断ができない。

 俺たちは黙って優ちゃんの後に続いた。

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