3-4 変な五人が集まって
「ふぅ、そろそろ帰りましょうか」
「だな」
ようやく鷺ノ宮による魔物無双もひと段落した。
ドラゴン、アンデット、悪魔、ありとあらゆるモンスターがほぼ一撃で消滅に追い込まれる様には、若干……いやかなりドン引きしている。いくらなんでも強すぎだ。
こういう時、鷺ノ宮みたいなキャラクターは、植物型のモンスターの触手に縛られてあられもない姿になってしまうみたいな展開が定石だろう。
ということで、そのシーンを脳内で妄想するので担当絵師さんすみません、イラスト化をお願いできますか?
セーラー服貧乳ギャルが触手でいい感じに責められてる感じで。欲を言えばスカートがちょっとだけめくれ上がって、パンツが見えそうな感じだと有難いっす。
ちなみに、ここで大事なのはあくまで『見えそう』ってところです。パンツが見えちゃうとそれはそれで萎えちゃうんすよね。見えそうだけど見えない感じが唆られます。
それでもなおパンツを描かれたいということであれば、色はピンクでいかがでしょうか。
ギャルが黒いエロいパンツを穿いているの、たしかにいいです。なんなら大好物です。よくそういう動画にお世話になっております。
しかし、しかしです、奥さん(誰?)。
見た目はギャルっぽいけど中身は乙女系女子よくないですか?
ギャルっていうのはいわばATフィールド、心の鎧なんですよ。内側にはとてもピュアな心が隠れています。
それをパンツで表現しましょう。パンツは心の色ってよく言うでしょ(言わない)。
だからこそここはピンク一択です。可愛い感じのピンクがいい。
え、白? それはないですよ! 白っていうのは狙いすぎです。
鷺ノ宮のようなギャルは白はやりすぎだと思って敬遠しているでしょう。
それに意外とピンクとか好きなんです、こういうタイプの女子は。あんまり表には出しませんがね。それが鎧ですから。
水色なら及第点。それはちょっとアリかなと思います。そこはセンスですね。ということで、大変お手数をおかけしますが、ご対応のほど宜しくお願い致します。
一緒に天下を取りましょう。
「それにしても、江古田くんが魔法を使えないなんて思わなかった」
「普通使えないだろ!」
もしかしてあれか、これはもしや童貞いじりか。
暗にお前は三十歳まで童貞だろ、ということを示唆しているんだな。これはハラスメントだ。チェリーボーイハラスメント、略してチェリハラ。
チェリハラで訴えてやる!
今の時代、なにかとコンプライアンスにうるさいからな。いやほんと最近はなんとかハラスメントって増えましたよね。怖くてなにもできなくなりそうです。
「ごめんごめん。優も使えてたからてっきり江古田くんも普通に使えると」
「まじで!? 優ちゃんも使えるのか。……なるほど。だからあんなに余裕そうにしていたってことか。なんか色々と納得した」
あんな凶悪なドラゴン相手に一人で立ち向かわせるってどんな鬼畜だよ、なんて思ったりもしたが、俺も魔法が使えると本気で勘違いしていたというわけだ。
いや、まじで一歩間違えたら死んでたからな。冷や汗が止まらない。
そういえば、渚と秋津さんはどうなんだろうか。
二人は魔法なんて使えるような素振りは見せてなかったが……。帰ったら二人がそういう能力を使えるのか確認してみるか。
「まぁ、結果オーライということで。お目当の品も手に入ったし」
「……まさか本当にバーモン◯カレーが落ちてくるとはな」
鷺ノ宮が言っていたように、魔物は消滅する際にアイテムを落とすことがあった。
体感でいうと一◯%くらいの確率だろうか。
たしかバーモン◯カレーを落としたのはゴーレムだったような気がする。
あいつには鷺ノ宮もちょっと手を焼いていた。まぁ、それでも三発くらい矢を打ち込めば普通に倒せていたが。
事前に手強い……という話は聞いていたが、あれもまるっきり嘘ということではなかったようだ。ちなみにだが鷺ノ宮が手こずるということは、俺なんかにはどうしようもないことを意味します。三秒で地面とのサンドイッチだ。
「それに地味に衣服が手に入ったのも有難いよね。同じ乙女として秋津さんにあんな格好はさせられないもの」
そうなんです。お忘れかもしれませんが、秋津さんは現在俺のYシャツ一枚で行動しています。いわゆる裸シャツ状態ってやつですよ。
さすがに慣れてきたけど思春期の男子にはちと刺激的すぎる。
しかし、鷺ノ宮は重大なことを忘れている。たしかに衣服は手に入ったが……。
「いや……衣服って”あれ”のことか?」
「”あれ”以外にないでしょ?」
「いやいや!? あの金色の全身タイツのことだよな!? さすがにあれを秋津さんに着せるのは可哀想だろ!」
秋津さんなら「全然問題ないわ」なんて言って当然のように着ちゃいそうだけど。
いくら何でもあのビジュアルは……それに全身タイツは全身タイツでいろんな部分が強調されて、ちょっとエロいことになりそうだし。
「違う違う、あれは江古田くんが着るべきでしょ」
「そういう魂胆かい! いやだよ、断る! それに俺が着てるのは男子用の制服だろ。他に着れるやつがいないじゃないか」
「江古田くんの制服を渚くんが着て、渚くんのワンピを秋津さんが着る。はい、これで解決」
ちくしょう、そういえば渚は男だった。
「どうしてそこまで俺に着させようとするんだよ!」
「……っぷ、ふふ、いやだって、ふふふ……江古田くんが一番似合いそうだし?」
「笑いながら言うのやめてもらえる!? めっちゃバカにしてるよね!?」
鷺ノ宮は堪えきれずに笑っていた。完全にバカにしている。
俺のような二枚目男子に三枚目まがいのことをさせるとは何事だ。
「あはは、いや、うん……ふふっ、ごめんごめん。でもさ、実際問題あれを女性陣や渚くんに着させるのもどうかと思うでしょ?」
「……まぁな」
それを言われるとどうしようもない。
「ってことでごめんだけど、お願いできる? 非常事態だし」
「仕方ないか……。じゃあ、次に男用の服が落ちたらそれを回してくれよ」
鷺ノ宮の言う通りだ。今は全員で協力していかなければ。
それに今は二枚目半男子も悪くない。言うなれば面白い美男子。完璧じゃないか。これはまさにこの江古田俊介にふさわしい呼び名だ。
ファサー、前髪をかき上げる。
「うん、そうしましょ。あたしも笑わないように頑張るから」
「それは最低限のマナーだからな!?」
せっかくクールに決めていたのに台無しだ。……というか、もしかして俺ってみんなの中で三枚目の認識なのかも(いまさら)。
「とにかく、みんなも待っているし少し急ぎましょうか」
「はぐらかされた……。まぁいいや。このルーがないとカレーも完成しないし」
「まだ魔物が出るエリアだから警戒は怠らず」
「ほいよ」
それからしばらく周囲に気を配りながら歩いていると、俺は気になるものを発見した。
「なぁ、鷺ノ宮」
「どうしたの、江古田くん?」
「あそこになんか遺跡みたいのが見えないか?」
俺は発見した対象を指差す。森の緑に覆われて分かりづらいが、石を積み重ねた建造物のようなものが見える。
この島に来てはじめて発見した人間の痕跡。なにか色々と分かるかもしれない。
「どこどこ————って、顔近い!」
「そっちから近づいてきたんだろ!?」
鷺ノ宮に理不尽に怒られる。とばっちりもいいところだ。
俺の目線に合わせるために顔を近づけてきたはいいが、よくよく考えたらめちゃくちゃ顔が近いよ、恥ずかしい! みたいな感じだった。
たしかにな、俺もちょっとはドキドキしたけどね。
肌めっちゃ白……とか思っちゃったし。
女の子に話しかけられただけで好きになっちゃう童貞にはなかなかのインパクトだ。
「……ごほん。で、遺跡ってどこ?」
どうやら仕切り直すみたいだ。
ここは素直に従ったほうがいいよな。揶揄うと怒られそうだし。
「ほら、あそこ」
「あ、ほんとうだ。なんか人工物があるね」
ようやく鷺ノ宮も対象を確認してくれた。やはり俺の見間違いではないようだ。
もしかしたら脱出へのヒントが隠されているかもしれない。
「どうする、確認してみるか?」
「いえ、また今度にしましょうか。二人でっていうの危険だし、江古田くんも食材を抱えているでしょ? それに今の時間からだと日暮れを意識しながらの探索になるでしょ。どうせ調べるなら午前中から全員でやったほうがいいと思う」
言われてみれば、俺は両手いっぱいに魔物が落とした食材を抱えていた。こんにゃく、里芋、サツマイモ……いやいや全部芋じゃんっていうツッコミはさておき。
たしかに、両手が使えない状態で探索するのは危険だ。それに人数が少ないと何かあった時のフォローもできないからな。
「鷺ノ宮の言う通りだな。冷静な判断で助かるよ」
「それに暗がりで江古田くんと二人になったら何されるかわからないし」
「何もしないから! どんだけ信用ないの、俺!?」
「今までの自分の行動を思い出して?」
「——本当にすみませんでした!」
「これからの江古田くんの行動に期待してます」
「任せてくれ!」
よし、俺はこれから心入れ替えるぞ! ジェントルマン・俊介になる。
レディーファーストですよ、これからの時代。
ちなみにレディーファーストって、女性を前面に立たせることで急な銃撃を予防するために実施されていた、みたいな説があるんですって。
さすが紳士、すげぇや(皮肉)。
でも、僕は違いますよ。女性を尊重します。現代版レディーファーストです。
セクハラとか絶対許しません!! 断固反対!!
————数時間後に発言をひっくり返すようなことをするとつゆ知らず。