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3-3 変な五人が集まって

「江古田くん。そろそろ魔物が出るエリアだから気をつけて」

「了解」


 鷺ノ宮の言葉を受けて、手にしている石槍を強く握りしめた。

 先程のスライムによる苦い思い出がある。どんなにこちらが平和を訴えていても相手が好戦的であれば全く意味がないのだ。俺は専守防衛の姿勢を崩すことにした。

 やられる前にやる。攻撃は最大の防御だ。……これ別にあれですからね、特定の国のこととかじゃないですからね? あくまで個人の話ですよ。


「それにしても鷺ノ宮もよくここまで一人で戦ってたよな」

「なによ、狩りは男の仕事で女は黙って家事でもしてろっていうの? そんなこと言うとツイッ◯ーにいるあたしのフェミニスト仲間が黙ってないからね」

「違う違う! なんなのその被害妄想!? 男女とか関係なく、シンプルに一人で戦っているなんてすごいなって!」

「ふふ。ごめんごめん、冗談だから。さっきまで江古田くんに振り回されてたからね。その仕返しってことで」


 鷺ノ宮は舌を出していたずらっ子の顔をする。女の子のこういう顔好きです。

 だけど、フェミニストジョークはやめてほしい。心臓に悪いので。ツイッ◯ーにいる無数のフェミニストに突撃されたらと考えると震えが止まらない。


「まったく、結構根に持つタイプなんだな……鷺ノ宮って。まぁいいや。とにかく魔物を一人で倒してきたのはすごいと思う。あのスライムでもかなり強かったし」

「江古田くん、スライムなんてこれから戦う魔物と比べたら大したことないからね?」

「え? は? あのスライムが大したことない!?」


 冗談じゃない。あのスライムでも中型犬以上イノシシ未満くらいの戦闘力はあったのに。あれよりも強い、それこそ熊レベルの戦闘力とかだと太刀打ちできないぞ。


「あ、ほら噂をすれば」

「————あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁああ(失禁)!!」


 なんと、鷺ノ宮が指差す方向にドラゴンがいました。

 人の三〜四倍はあろうである体躯。その体は明らかに硬そうな鱗で覆われ、鋭そうな牙と爪が怪しく光り、赤い目はぎょろぎょろと動いている。

 一目見て「こいつはやべぇ」と分かる出で立ちだった。

 俺は当然のように失禁し、ズボンをびちゃびちゃにしている。


「ちょ、ちょっと! 江古田くん汚い!」

「んなこと言ってる場合か! 逃げないと殺されるって!」

「何のために槍を貸したと思ってるのよ……」

「いやいや!? さすがにこの槍でドラゴンを相手にすると思ってないからな!? こんなの戦車に素手で殴りかかるのに等しいぞ!?」


 勝てるわけがない。スライムから明らかにインフレしすぎだろ。もっとゲームバランスをしっかり考えて欲しい。こんなのクソゲーもいいところだ。


「安心して。こいつ見かけほど強くないから」

「……なるほどな。所詮は見掛け倒しってことか。やれやれ、ビビって損したぜ。俺に出会ったのが運の尽き。悪いがこいつには俺の初陣を飾るための踏み台になってもらおう」

「そんなおしっこ漏らした状態で格好つけられても……」

「う、うるさい!」


 俺としたことが見かけに騙されたぜ。

 よくよく考えれば、鷺ノ宮の態度を見ればこいつが大したことないのは一目瞭然だった。こいつが強敵なら鷺ノ宮がこんなにも冷静でいられるわけがない。

 所詮はハリボテってことだ。サッカーで鍛えた力を見せつける時がきた。いいじゃないか。自分の力でドラゴンを狩る、勇者にでもなった気分だ。


「鷺ノ宮、手出し無用だ。こいつは俺が狩る」

「うん、じゃあよろしく」


 鷺ノ宮が俺一人に任せたことからも確信した。このドラゴンは弱い。俺一人でも十分倒せるってことだ。

 こいつのせいで女子の前で失禁してしまった。その汚名を返上させてもらう。


「GYAOOOOOOOOOOOO!!」


 槍を構えた俺に対してドラゴンは威嚇するように咆哮を上げた。

 ふっ、迫力は十分だな。だが、俺の敵ではない。


「いい言葉を教えてやるぜ。弱い犬ほどよく吠えるってな!!」


 ドラゴンの懐に潜り込むため、俺は駆け出した。五○m七秒台の神速で。

 そんな俺の動きに反応してドラゴンが火を吹いた————え、火を吹く!? いやいやちょっと聞いてないけど!?

 ……いや慌てるな、これも所詮見掛け倒し。俺は冷静にその攻撃を避ける。


「ハッ! 落ち着いてりゃ大したことないな。止まって見えるぜ」


 難なくドラゴンの火炎ブレスを回避した。結構熱かったけど無傷ではある。

 ……俺が回避した地点を見ると、高温のためか地面が真っ赤になっていた。ねえ? これ本当に大丈夫なんかな? ちょっと不安になってきたんだけど。

 だが、もうドラゴンは目の前。今更怖気付いても仕方ないだろう。それに鷺ノ宮の様子を見ろ。ぜんぜん心配そうにしていない。


 江古田くんなら大丈夫でしょって顔をしていた。

 鷺ノ宮はまともだ。仲間が強敵に挑んでいて、あんな余裕な振る舞いはできないはず。だからこそ安心してドラゴンに立ち向かうことができる。


「いくぞおおおお!!」

「GYAOOOOOOOOOOOO!!」


 槍を突き出した状態で再び走り出す。ドラゴンの咆哮など物ともしない。

 それからドラゴンは尻尾を振り回すなどして抵抗を見せたが、それも難なく回避することができた。無駄なあがきってやつだな。俺はドラゴンの懐まで迫り、駆け出した勢いのままドラゴンの体に槍を突き立てる……!


 ——————ポキン。槍が折れた。


「ふぇええ?」


 槍は折れたというのに、ドラゴンの表皮には傷一つない。全くの無傷。


「江古田くん! 何やってるの! その槍作るの大変だったんだからね!」

「ごめんごめん! あれ、おっかしいな」


 これじゃまるで俺の攻撃が効いてないみたいじゃないか。

 仕方ない。試しにドラゴンを蹴ってみよう。えいっ!


「いてえええええええええええええ!!」


 見た目通りめっちゃ硬い!! 

 こんなの剣や銃でも貫通できるかどうかだ。

 ……つまりどういうことなのか。考えれば考えるほど冷や汗が出てくる。


「GYAOOOOOOOOOOOO!!」

「認めよう、今はお前が強い!」


 俺はおしっこを漏らしながら、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら、ドラゴンから背を向けて必死に走り出した。死にたくなぃぃぃいいいいいいい!!

 結論。このドラゴンは見た目通り強いです。


「江古田くん何してるの!?」

「逃げるんだよ! こんなの勝てるわけないだろ! 鷺ノ宮、さすがに今回の冗談はタチが悪いと思うぞ!?」


 なにが”見かけほど強くない”だ。

 めちゃくちゃ強いよ。人は見た目で判断しちゃダメって言われてきたけど、やっぱ見た目が怖い人は怖いよ! まぁ、今回は人じゃなくてドラゴンだけどさ!


「冗談なんて言ってないから! このドラゴンでも強さは普通くらいで、もっと強いのがゴロゴロいるからねー!」

「これより上!? もうそれは人間の手には追えないよ!」

「まぁ、いいわ。じゃあ江古田くんはそこで大人しく見てて。落ち着いて対処すれば本当に大したことないから」


 そう言って、鷺ノ宮はドラゴンの方へと歩みを進める。

 そして手に持っていた弓をゆっくりと構えた。


「やめろ、鷺ノ宮! それ以上は危——————」


 瞬間。世界から音が消えた。

 分かったことは二つだけ。

 鷺ノ宮の放った弓矢が凄まじいエネルギーのようなものを纏っていたこと。

 ドラゴンの体に大きな風穴が空いていたこと。


「ほらね? 大したことないでしょ?」

「……………………」


 空いた口が塞がらない。放心状態です。


「あれ、どうしたの? そんな呆けた顔して。これでも初級魔法なんだけど……」

「初級でこの威力!? おかしいだろ!?」


 この際、魔法とかそういう概念へのツッコミは置いておく。もうこの島では何が起きてもおかしくはないし、魔法とか異能だってあるんだろ。

 だけどな。何というかバランスがおかしいと思うんだよ、色々と。


「え、あたしの魔法の威力がおかしいって、弱すぎって意味よね?」

「強すぎておかしいって意味だ!」


 うわ、やばいな。なんかすごくまずい気がする。なんだろ、うまく言葉にはできないんだけど、いろんな人に謝らないといけないような、そんな予感だ。

 とりあえず心の中で土下座はしておく。正直流れも無理やりだし。鷺ノ宮も分かってやってる節がある。いくらなんでも急に鈍感になりすぎだと思うんだ。

 それからも鷺ノ宮の快進撃は続いた。

 バンバンと敵をなぎ倒していく鷺ノ宮。なんなのこいつのチート能力。


「あれ、またあたしなんかやっちゃいました?」

「まるで将棋ね」

「お前絶対わざとだろ!!」


 これ以上は本当にまずい。俺は長生きしたい。ここで死に急ぐ必要はないと思う。とりあえず謝罪原稿だけは用意しておかないと。今度菓子折り持っていきます。

 ……この島を出たら切腹最中を買いに行こう。

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