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2-8 出会いに感謝して

「で、俊介。自己紹介も済んだことだし本題に入ろうよ」

「ほ、本題?」

「忘れたとは言わせないよ? 優ちゃんと話し合うんだよね?」


 渚はニコニコとした顔を崩さずに目的を思い出せと迫ってきた。……不自然なくらいな笑顔についつい尻込みしてしまいそうになる。

 そうでした。優ちゃんが実はキラリだったということで頭がいっぱいになっていたが、そもそもサバイバルに非協力的な彼女を説得するという話だった。


「でも、ほら、まだ会ったばかりだし、もう少し様子を見ても……」

「江古田くん。顔と腹、どっちにしたほうがいいと思う?」

「なんで殴る前提なんですか! ちょっと落ち着きましょう!?」


 渚と秋津さんは本気だ。

 まずい、なんとかして優ちゃんを守らないと。こんな天使みたいな子を暴力の渦に巻き込むわけにはいかない。彼女は僕の太陽なんだ。


「タイムタイム! ちゃんと話すんで! ね!?」


 一旦、二人を落ち着かせる。ドードー。まるで猛獣だ。

 まったく、鷺ノ宮も見てないで止めてくれ。目を合わせると「江古田くんの仕事でしょ?」とでも言いたげだった。


「ちょ、江古田くん!?」


 猛獣二匹……二人を鷺ノ宮の方に押しやる。

 二人の手綱は鷺ノ宮に握ってもらうことにしよう。あとは任せた。


「優ちゃん、ちょっといいかな?」

「どーしましたー?」


 優ちゃんは相変わらずニコニコとしている。

 こんな純粋無垢な子に説教じみたことを言うのは気が引けるが、これも偏に彼女の身の安全のためだ。後ろの猛獣たちが牙を剥かないように。


「その……さ。俺たちって今結構ピンチなわけじゃん? だからさ、みんなで協力していかないといけないと思うんだよね」

「ゆうもそー思います!」

「だよね。だから、役割分担というか一人一人がしっかりとさ、みんなのためになるような活動をしていかないとだよね?」

「はい! だからゆうは拠点の警備をしっかりやります!」


 いわゆる自宅警備員というやつだな。まぁ、要はニートである。そんなのは仕事でもなんでもない。こんなので後ろの三人が納得するはずもないだろう。

 優ちゃんは結構図太いな。

いまや動画配信者もプチ芸能人みたいだし、我が強くないとやっていけないところもあるのかもしれないが……。


「そうじゃなくてさ。ほら、もっとこう料理とか、洗濯とか、掃除とか————」

「ねぇー、俊介さぁん」


 俺の言葉を遮って優ちゃんはこちらに接近してくる。

 そして、耳元でやたら甘い声を出す。思わず背筋がゾクゾクする。


「な、な、なに!?」

「ゆう、ほんとに家事とか苦手なんですよー。そういうのは全部ハウスキーパーさんにやってもらってたんでー。だからもっと他のことで貢献したいですぅ」

「……ほ、他のこと?」


 めちゃくちゃ顔が近い。

憧れの人にこんなに接近されて平然としていられるわけがない。

 緊張のあまり心臓が早鐘を打っている。ドキドキしすぎて性的興奮を覚えている暇もない。なので安心してください。リトル・俊介も可愛いままです。


「例えば……俊介さんのためにあんなことやこんなことを」

「あ、あんなことやこんなこと!?」


 それってどんなことまで許されるんだ。ABCでいうところどこまで? さすがにCはないと思うが、Bくらいならいけるってことか? 憧れのキラリと?

 ……いやいや、ダメだ。この無人島で生きていく上で必要なのは全員の団結だ。こんな色仕掛けに引っかかって和を乱すわけにはいかない。


「ゆうが相手だと嫌……ですかぁ?」

「ぜひ、お願いしたい」


 あのキラリに上目遣いで懇願されて断れるわけなかった。

 団結とかどうでもいいわ。俺はおっぱいを取る。アイムアオッパイヒューマン。


「これで交渉成立ですね……! じゃあ、ゆうが毎日肩たたきしてあげます!」

「思ったより健全だった!? ちょっと待て待て!」 

「もう変更は受け付けませーん」


 優ちゃんは耳を塞いで「聞こえませーん」と繰り返している。その様子は大変愛らしいのだけれど、このまま納得するわけにいかない。

 俺は肩たたきより胸もみもみがいいんだ!!


「さすがに肩たたきだけじゃ仕事とはいえないでしょ!」

「……でも、俊介さんがいいって言ってくれたじゃないですかー」

「それは、ほら……もっと違うことを期待していたというか……!」

「違うことって具体的にぃ?」

「いや、まぁ、それはほら! 優ちゃんだってわざと誤解するような言い方したでしょ!」


 あれは分かった上での発言だ。健全な男子だったら絶対に誤解する。


「えー、ゆうよくわかんないですぅー」

「ぐぬぬぬ」


 この小悪魔め! ちくそう、それでも可愛いからと許せてしまう自分がいる。

 こちとら投げ銭機能で十数万円(バイト代)は貢いでるからな。根っからのファンなのだ。ちょっとやそっとで嫌いになれるわけがない。


「でも、そうですねー。今後もゆうのこと助けてくれるっていうなら、そういうことも考えてもいいかもですぅ」

「なんなりとご命令ください。お嬢様。靴でも舐めましょうか?」


 今日から僕は彼女の奴隷です。


「あ、靴は大丈夫ですよー。汚いんで。……じゃあ、さっそくなんですけどー。後ろの渚ちゃんと朱利さんをなんとかしてもらえますかぁ?」


 なんかさりげなく毒を吐かれた気がしたけど……今は気にしないでおこう。

 後ろを振り返って渚と秋津さんの様子を確認する。


『ジャブ・ジャブ・ストレート』


 二人は血気盛んにシャドーボクシングをしていた。

 もうボコボコにする気満々みたいだ。やばい、俺の交渉が失敗したとなったら……。


「……わかった。うまく説得してみるよ」

「俊介さん、さっすが〜。頼りになりますぅ」


 いいように使われている感は否めないが、これもおっぱいのため。


「あのさ、二人とも」

「あ、俊介。話は済んだ? どう、彼女もしっかり働いてくれそう?」

「いや、それが……」

「わかった。じゃあボコすわ」

「待ってくださいって! ほら、彼女にも色々ペースとか適正があるじゃないですか?」


 正直ちびりそう。この二人めちゃくちゃ怖いよ。

 目が血走ってるもん。なんでこんなにも好戦的で暴力的なんだ。


「ボクも役割分担は大事だと思うよ。……けど、まさか自宅警備員なんて認めないよね?」

「そ、それはもちろん!」

「江古田くん。じゃあ、優は何することになったの?」


 肩たたき、なんて口が裂けても言えない。

 仕方がないな。こうなったらもうやるしかない……!


「かかってこいよ! 猛獣ども! 三秒で沈めてやるぜ!」


 こちとら小中とサッカーで鍛えてきたんだ。見るからに文化系の二人に負けるはずがない。

 ファイティングポーズをとって応じる。どこからでもかかってきやがれ!


「おそいよ、俊介」

「なっ!?」


 瞬きをした瞬間だった。————いつの間にか、眼前に渚がいたのだ。


「もう、ボクの間合いだよ」


 後ろに下がろうとしたのだが、渚の伸ばした手が襟首をつかんだ。そして、俺の体は宙に浮く。渚は体を丸める勢いを使って俺を投げ飛ばしたのだ。

綺麗な背負い投げである。

 気がついたら地面に叩きつけられていた。


「ッツ!!」


 衝撃が来る。だが、不思議と痛みはなかった。

 もしかしたら渚が手加減をしてくれたのかもしれない。


「俊介。こう見えてもボク、柔道初段なんだ」

「く、黒帯だと!?」


 こんなに可愛らしい見た目をしているのに、そんな特技までを持っているとは。

 しかし、思い返せば出会った頃からわりとパワー系な一面はあったな、と思う。それでも、いくらなんでも、見た目とのギャップが激しすぎるだろ!


「降参する?」

「男には絶対に逃げちゃいけない場面がある。それが、今だ」


 負けられない理由がある。守りたいものがあるなら、手に入れたいものがあるなら、戦わないといけない。

 俺は優ちゃんを————いや、おっぱいを守る!


「江古田くん。そういう『男には』みたいな発言は性差別だからね。女にだって逃げちゃいけない場面はあるんだから」

「それ指摘するのは今かな、鷺ノ宮!?」


 今は何かとジェンダーに関する問題が取り沙汰されているからな。

 発言一つに気を配らないといけないのだ。


「なに、女は黙って家で家事をしてろって言うの? なんて前時代的な! そういう男性側の意識があるから日本の男女格差は埋まらないんだからね!」

「俺、何も言ってないよ!?」


 雉も鳴かずば撃たれまい……なんて言いますが、鳴いてないのに撃たれました。

 今はちょっとした失言で詰むことも多々ある時代。発言一つ一つに注意をしないと、とは思っていたが、こうやって曲解されてしまうともう何も言えないぞ。


「ねえ、江古田くん。選んで欲しいの」

「な、なんですか。秋津さん」


 俺と鷺ノ宮のやり取りを静観していた秋津さんが口を開く。

 秋津さんは突拍子もないこと言い出すのでつい警戒してしまう。


「優に適切な仕事を与えるか、江古田くんが痛い目に合うか」


 ……なんだ、警戒しすぎて損したぜ。


「ふっ、そんな脅しには屈しませんよ、秋津さん。こう見えても暴力には耐性があるんです。大事な人を守るためなら、いくらでもこの身を捧げますよ」


 俺はクールに髪をかき上げる。今の俺、最高にかっこいいぜ。

 どんなに痛くてもそれが一過性のものなら耐えることができるはず。おっぱいのためならそれくらい安いものだ。ノーペイン・ノーオッパイだ。


「わかった。じゃあ江古田くんの睾丸を破壊するわ」

「へ?」

「睾丸を破壊するわ」


 秋津さんは同じ言葉を二度繰り返す。……破壊する? こうがん? こうがんって……あ、そうか。キンタマってことか。————ん、いやいやいやいや!!


「ちょ、待ってください! このゴールデンボールには未来の子種、一億匹以上のこどもたちがいるんですよ!? あなたはそれをわかって破壊する気ですか!?」

「……江古田くんには必要ないでしょう?」

「必要ありますよ! なんでそんな、さも当然みたいな顔してるんですか! それは暗に俺が一生童貞であると!?」

「今は結婚したくても三四○万人の未婚男性には相手がいない、という男余りが発生中よ」

「なぜ今そのデータを持ち出すんですか!?」


 まるで俺がその三四○万人の一人という言い草ではないか。


「それと純粋に睾丸を踏み潰してみたい、という欲求もあるわ」

「やめて!? やばすぎですって! その願望!」


 そんなこと純粋に思わないでほしい。

全国の男子諸君、もし秋津さんを見かけたらすぐに逃げてください。


「じゃあ破壊を開始するわ」

「鷺ノ宮たすけて!」


 秋津さんは本気だ。この人クレイジーだから絶対に実行するぞ。

 ここは同じ常識人の鷺ノ宮に助けを乞うことにする。彼女なら生殖器の大切さを分かってくれるはずだ。


「……べつに江古田くんの遺伝子は残らなくてもいいんじゃないかな」

「ひでぇ!?」


 俺のことは嫌いになっても、遺伝子のことは嫌いにならないでください! 

パパンとママンからもらった大事な生命の設計図なんです。


「江古田くん、覚悟はいい?」

「優ちゃん、ごめん! 最初は簡単な家事でもいいから頑張ってみよう! 俺がちゃんとサポートするから! ね!?」


 優ちゃんに土下座&懇願をすることで大事なタマタマを死守させてもらう。

 俺の前言撤回に秋津さんは残念そうにしていた。この人本当に怖いです(泣)。

 ……しかしまぁ、自分一人だった最初と比べ随分と大所帯になったな。これからこの五人でこの無人島で生活をしていくというわけだ。


————いよいよ本格的なサバイバルが始まろうとしていた。

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