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2-6 出会いに感謝して

「じゃあ、あたし達の拠点に案内するから」

「あたし『達』?」


 ようやく機嫌を直した鷺ノ宮が口を開く。

 しかし、その発言にはどうしても聞き捨てならない単語があった。

 てっきり鷺ノ宮単独で行動していると思っていたのだが……、他にも仲間がいるようなことを示唆する発言が飛び出す。これは突っ込まざるを得ない。


「あ、言ってなかったっけ。実はもう一人女の子と行動してたのよ。歳はあたしや江古田くんの一個下で……まぁ、なんというか。うん。見てもらえばわかると思う」


 言葉を濁す鷺ノ宮。

 なんだよ、はっきりしてくれよ。めちゃくちゃ怖いじゃんか。


「訳アリってことだよな……。上手くやっていけるのか……」

「正直なんとも。特に江古田くんという男子にどういう反応を示すか」


 そんなこと言われるとめちゃくちゃ怖いんですけど。

 なんでピンポイントに俺なのか。考えられる理由としては……。


「もしかして、俺がイケメンだから?」

『ハッ』

「三人ともひどくないすか!?」


 渚、秋津さん、鷺ノ宮は乾いた笑いをする。まさしく嘲笑といった感じ。

 ツッコミ待ちではあったけどこの反応はダメージがデカイす。


「江古田くんはイケメンではないわ」

「ぐはっ!!」


 歯に衣着せぬ秋津さんの指摘。秋津さんは純粋だからこそ物言いに容赦ない。

それが分かっているからこそ余計にダメージがある。


「いやーね。俊介ってそこまで顔立ち自体は悪くないじゃん? だから冗談で言ってるのか、本気で言ってるのか分かりづらいんだよね。本気なら身の程を知れって感じだしー」

「ぐはっ!!」


 渚の諭すようなダメ出し。これがまた心を抉る。

 直接的に言われるより案外こっちの方がキツイかもしれない。


「あたしからは何も言わなくていいよね?」

「はい……」


 これ以上はオーバーキルです。メンタルが持ちません。


「さて、冗談は江古田くんの顔だけにしといて、そろそろ移動しましょうか」

「ひで!?」


 きっちりトドメを刺されました。


「あ、その前に! 魚獲るために設置した罠だけ確認してもいいかな!?」


 そういえば完全に存在を忘れていた。渚に言われて思い出す。

 ついさっきペットボトルを使った簡易的な罠を仕掛けたのだ。期待はできないが確認するだけ確認してみるか。

 俺と渚は二人を待たせて罠を仕掛けた場所に向かった。


「俊介! なんか動いてるように見えるよ!」

「マジか!?」


 なんとあの簡易的な罠に小魚が数匹かかっていました。

 俺と渚は思わずハイタッチをする。生きるために食材を得る、人生初の経験だった。

 腹の足しになるかは微妙だが、普段あたりまえのように食べている食材を自分で手に入れたということがミソだ。とにかく達成感が半端ない。


「やったね、これも俊介の機転のおかげだよ!」

「いや、うん……まぁ、よかったよ」


 そんな風に言われると照れる。自分が集団の一員として貢献するという感覚。社会的な動物である人間にとっては何事にも変えがたいものだ。


「さっそく、朱利さんや咲ちゃんに見せにいこう! みんな喜んでくれるよ!」

「だと、いいな」


飛び上がりたくなるくらい嬉しい気持ちを我慢してクールに応じた。

 俺は人の感情をよく観察するようにしているが、自分自身の感情はあまり表に出さないように努めている。感情は相手を推し量る指標であると同時に、自分という人間をさらけ出す弱点でもあるから。感情というのは諸刃の剣だ。


 渚がいいやつであることは間違いない。こんなに気が合うやつはなかなかいない。

 ……だからこそ怖いのだ。自分という人間をすべて晒すことが。

 そんな暗いことを考えながら、秋津さんと鷺ノ宮と合流した。渚は得意げに「見て、この魚! 俊介が捕まえたんだよ!」と捕獲した魚を俺の功績だと喧伝する。


「江古田くん、すごい」

「ただの変態かと思いきや、やる時はやるのね」


 そして、秋津さんと鷺ノ宮はそれを素直に褒めてくれた。

 トクン。トクン。胸のあたりが温かくなる。————ここにいてもいいんだ。


「ふははは! 女ども! 俺を崇め奉れ! 頭を垂れろ!」

『…………はぁ』


 女性陣の褒めて損したというため息。……これでいい。

 素直に褒められるのは照れくさい。だから俺はふざけるんだ。きっとこの性格は直らない。そういう病気なのだ、これは。もしかしたら呪いかもしれないが。

 閑話休題。

 鷺ノ宮を交えて四人になった一行は、まだ見ぬもう一人が待っているであろう拠点を目指して歩き出した。


「なぁ、鷺ノ宮。森の中に入ってるがこのへんには例の魔物はでないのか?」

「まだ検証は済んでないけど、森の中でも魔物が出るエリアと出ないエリアがあるの。あたし達の拠点は今のところ魔物が出たことない場所にあるから安心して」

「本当にゲームみたいだな」


 こういう言葉が適切かは分からないけど『都合が良い』というか。


「咲。魔物ってどんな種類がいるの?」


 続けて秋津さんも質問する。

秋津さんは俺たちのように実物を見ていないから、気になるのも無理はない。


「基本的にはド◯クエに出てくるようなやつばっかですね」

「おいおい……」


 色々とやばすぎるだろ。この島、ちょっと著作権について甘く考えすぎだぞ。パロディーというレベルじゃないからな。もうモロだもん、モロ。


「その魔物って、倒すと消滅してしまうの?」

「そうですね、あたしが倒したやつは全部そうでした」

「……残念ね。せっかく魔物がいるなら、どんな味か確かめてみたかったのに」


『…………』


 全員一斉に押し黙る。その様子に秋津さんは驚いて目をパチクリしている。可愛い。

 けど、時々発するサイコパス発言が怖いです。

この人、興味本位でなんでもしちゃいそうなんですもん。


「あ、あと鹿とかうさぎも見たことありますね! 獣は狩ったことないですが、あっちは消滅しないんじゃないですかね!」


 変になってしまった空気を鷺ノ宮が必死に取り繕う。

 こいつ見た目はギャルのなのにわりとしっかりものというか……、空気を読める人間なんだなぁ、とあらためて思った。

本人は嫌がるだろうけど俺とタイプが近い気がする。


「わたし、動物を捌いたことないわ」

「たぶん、全員ないですよ。俺たちは解体された肉をスーパーで買うだけですから」

「ボク、血見るのはいやだな〜。けど命を頂くってのはそういうことなんだよね……」


 遠くない未来。俺たちは動物を解体して食べる必要があるかもしれない。

 皮を剥ぎ、内臓を取り出して、血を抜く。考えただけでも寒気がする。

 でも、この現代社会のどこかでそれを実際にやっている人がいて、俺たちはその恩恵を受けることで肉を食べることができているのだ。


「そ、そういう事態にならないうちに絶対脱出するの! ……ってほら、話しているうちに拠点が見えてきた」


 鷺ノ宮が指差す方向には大きな洞穴があった。

 これが彼女が一週間近くを過ごしてきた拠点か。雨風をしのぐという意味ではこれ以上のロケーションはないかもしれないな。


「そういえば、もう一人は拠点で何をしているんだ?」

「…………なにもしてない」

「は?」

「だから、なにもしてないって言ったでしょ!?」


 あらためて言われても理解不能だ。


「いや、俺たちって今サバイバル状態だよな? 猫の手も借りたい状況で、人ひとりをプー太郎として放置している余裕ってあるのか?」

「仕方ないでしょ! 優はそういう子なんだから!!」


 なぜか逆ギレしてくる鷺ノ宮。どうやらその子の名前は『ゆう』というらしい。だかそんなことは今はどうでもよくて、まず白黒はっきりさせておきたいことがある。


「え、つまり……鷺ノ宮は一週間近くニートを養っていたってことか!?」

「うっ、で、でも! 野放しにするわけにはいかないでしょ!?」

「たしかにそうだけど……さ」


 これは大問題だ。こんな絶体絶命な状況に追いやられて、未だに食料調達や生存活動に協力していない穀潰しがいるなんて、さすがにまずいだろ。


「あたしだって何とかしたかったけど、なんだかんだ言いくるめられちゃって……」

「後からきた俺たちがとやかく言うのもあれだけど、ちょっとワガママすぎるというか、この状況をちゃんと理解しているのか疑いたくなるぞ」

「で、でもね。優は時々優しいの! それにあの子はあたしがいないと駄目なの! あたしがちゃんと支えるから……あんまり強く言わないであげて!」


 彼女は悪くないと必死に訴える鷺ノ宮。その様子はさながらDV彼氏を擁護する彼女、ニートの息子を甘やかす母親のようだ。共依存という沼にはまっている。


「鷺ノ宮、余計なお世話かもしれないけど彼氏はちゃんと選べよ」

「なんで急に彼氏の話になるの!?」


 自覚はなし、と。……なるほどな、重症だ。


「ま、いいや。どちらにせよ、優ちゃん(?)にはきちんと伝えないとだよな……。これから団体行動をする上でそういうのはよくないと思うんだ……」


 鷺ノ宮のダメ男ホイホイな一面については一旦置いておこう。

 まずは目の前の問題をなんとかしないと。


 しかし、誰かに説教をする……俺みたいな人間がどのツラ下げて他人に物申せというのか。そんな権利あるのか、俺に。

 それに正直怖いんだ。誰かを叱る、そんな恐ろしいことを実行するのが。


「殴るしかないわ」

「は?」


 俺が押し黙っていると、秋津さんがバイオレンスなことを口にする。


「言うなれば調教ね。サーカスの動物だって最初から芸が出来るわけじゃないもの。ちゃんと体に教えてあげるのよ」

「うーん、たしかに。ボクもある程度の『指導』は必要だと思うんだよね。ほら、監督やコーチが怖いからちゃんと練習する、ミスをしないみたいな。緩みきった集団では結果は出せないような気がするんだよねー」

「二人とも怖すぎるって!? 時代は令和だよ!? もっと平和的に!」

「江古田くんの言う通り! 暴力はダメだからね!?」


 渚も秋津さんも、のほほんとしているように見えて意外と怖いこと言うな。

 まぁ、理屈としては分かるんだけどね。

 子供の頃、悪いことをすれば父親に殴られたし、中学時代のサッカー部では”そういうこと”も当たり前のように体験した。これは難しい問題だ。暴力という手段は最低だと思うが、有用な場面が存在するということもたしかではある。

 しかし、それでも暴力という手段は肯定されてはいけないと思うが……。


「そうね。話し合いだけで解決かもしれないし。最初はそれでいい」

「ボクもひとまずいいよ。話し合いで解決できるならそれが一番いいからね!」


 納得したように見せかけて、この二人は暴力という手段を放棄してないぞ!? 

 いざとなったらやってやるというのが言葉尻から容易に推察できる。

 鷺ノ宮と目を合わせるが、彼女もそれを理解しているようで「この二人をなんとかして!」という視線をガンガン送ってきた。

 無理です、この猛獣を手懐けるの俺には不可能だ。


「ま、まぁ、一度話し合ってみよう! な、鷺ノ宮!?」

「ゆ、優が素直に聞いてくれるか……それ次第。あの子、口は達者だから……」


『…………』


 怖い、振り向きたくない。

 渚と秋津さんが放つプレッシャーが背中にビンビン刺さる。そして聞こえてくるポキポキと指を鳴らす音。こいつらヤる気満々だ。


 ————優という子の運命は俺の説得にかかっていた。

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