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2-3 出会いに感謝して

「ここが自分らのキャンプ地です」


 特に会話がないまま海岸まで到着した。

 鷺ノ宮さんはセーラー服を着ていることからも、おそらくは同年代だとは思っているが、ちょっと気難しそうな感じがするので適度な距離感を保っている。

 学校のクラスで絶対一軍に所属しているようなキラキラ女子。俺のような道化にはちと眩しいというか、怖くてあまり話しかけられないというか。


「朱利さーん、起きてくださーい。紹介したい人がいるんですー!」


 未だに眠っている秋津さんに渚が声をかける。


「あの人があなた達の仲間? す、すごい格好してるのね……」

「はい、秋津さん……秋津朱利さんって言います。あの格好にはちょっと事情がありまして……あの人最初全裸だったもんで、自分のシャツを着てもらってるんですよ」


 鷺ノ宮さんは秋津さんの格好(裸シャツ)に驚いていた。俺や渚はもう見慣れてしまったが、はじめて見る人からすれば驚くのも無理はない。


「にわかには信じ難いけど……、あの格好を見たら否定できない……」

「物分かりがよくて助かります」


 説明しているこっちもおかしいとは思っているからな。


「そういえばあなたの名前も聞いてなかった。なんていうの?」

「あ、自分は江古田俊介って言います」

「江古田くん、ね。まぁ詳しい自己紹介やここにやってきた経緯については、秋津さん(?)が起きてからにしましょ」

「ですね」


 鷺ノ宮さんはとても落ち着いていた。本当に同年代とは思えない。

 ちらりと制服に目をやると所々汚れていて、彼女の滞在期間が俺たちよりも長いことを指し示していた。俺たちが想像できないような苦労をしてきたに違いない。


「俊介ー! 朱利さんが起きないー!」

「今行く!」


 渚からの応援要請に応じることにする。

 まったくもうどれだけ寝起きが悪いんだ、秋津さんは。


「肩揺すってもぜんぜん起きなくてさー」

「んー。秋津さーん、起きてくださーい! 起きないと胸揉みますよー!」

「…………」


 秋津さんは目を覚まさない。やれやれ、じゃあ仕方ないな。致し方なく秋津さんのおっぱいを揉むことにする。

 ふぅ、いくら揉んでも飽きないなぁ。


「ちょ、何してるの!? あなた!?」


 そんな様子を見て、鷺ノ宮さんは素っ頓狂な声をあげた。


「え、普通におっぱい揉んでますけど……」

「悪びれもなく!? あなた自分がしていることがおかしいって感覚はないの!?」

「……あ、そうか。普通はダメなのか。秋津さんが当たり前のように揉ませてくれるから完全に感覚が狂ってたわ」

「じゃあ、ボクのやつ揉んどく?」

「んー、だな」


 仕方ないので、渚のおっぱいを揉むことにした。


「ちょ、ちょ、あなた達なにしてるの!? 倫理観バグってるの!?」


 鷺ノ宮さんがヒステリックに叫んでいる。さっきまでの落ち着きは何処に。


「あ、鷺ノ宮さんには説明してなかったのか。こう見えて渚は男なんです」

「えへへー。お恥ずかしいことにそうなんですよー」


 渚の胸を揉みながら事情を説明する。

 きっと渚の性別を正しく把握してなかったから混乱しているのだろう。


「なるほど、なら問題なし……? ————いやいや!? おかしいでしょ! 仮に渚さん? くん? が男だとしても今この状況で胸を揉んでいい理由にならないから!? むしろ同性の方が異常性が高まってる気がする!」

「鷺ノ宮さん。それは今のご時世では……ちょっと差別的なのでは?」

「い、いいんだ……、俊介。多様性を認めるということは、それに否定的な意見も受け入れるってことだからさ……ボクは大丈夫だから」

「な、渚……っ!」


 俺は思わず渚を抱きしめてしまう。

 どんなに多様性を認めるような風潮があったとしても、不可解なものを拒絶するという人間の本質は変わらないのだ。

 人間は理性で本能を押されることができるが、すべての人間が理性的なわけではない。

 渚のような人への偏見はなくならない。それは仕方ないと思う。だから、俺はただ渚を抱きしめる。ここにいていいよと伝えるんだ。


「鷺ノ宮さん……っ! 言って良いことと悪いことがありますよ!」

「あ、あたしが悪いの!? ちょっと待って、混乱して頭が変になりそう!」


 鷺ノ宮さんは頭を搔きむしりながらその場にうずくまってしまう。

 自分が口にしたことの罪深さを自覚してくれたみたいだ。


「もう大丈夫。渚にひどいことを言う人はいなくなったよ」

「俊介、ありがとう。俊介がいなかったらどうなっていたか。……じゃあ、続きしよっか?」

「そうだな」


 再び、渚のおっぱいを揉み始める。


「いやいや!? やっぱりあたしはおかしくないって! 論点ズラすのやめてくれる!? あたしが問題にしているのは性的少数者のことじゃなくて、江古田くんの行動だから! 男女や性的嗜好問わず日中堂々と相手の胸を揉むのはおかしいでしょ!」


 先程まで頭を抱えていた鷺ノ宮さんが復活した。

 マイノリティー差別を訴えることで、議論を明後日の方向に持っていく手法が通じないとはなかなか手強い。なるほど、鷺ノ宮さんなかなかやるな。


「……うるさいわね」


 俺と鷺ノ宮さんによる大声の応酬にさすがの秋津さんも目を覚ました。相変わらずご機嫌はななめのようだけど、また寝てもらうわけにはいかない。


「秋津さん、起きてください。実は紹介したい人がいるんです」

「……紹介したい人?」


 秋津さんは目をこすりながらあくびをしている。

 うむ、今日もかわいい。まるで猫みたいで一つ一つの動作が愛らしいな。


「はい。自分らもさっき会ったばかりなんですが……こちら鷺ノ宮さんです」

「はじめまして、鷺ノ宮咲と言います」

「……はじめまして。わたしは秋津朱利」


 二人はぺこりと頭を下げて簡単な挨拶をした。

 秋津さんはまだ眠そうではあったが、話はまともに聞いてくれそうだ。


「よろしくお願いします。それであの……さっきからこの男があなたの、その……、胸に触れていたのですが、大丈夫ですか? もしかしてこの男に脅されてるとか」


 まったく人聞きの悪い。まるで俺が性犯罪者みたいな扱いではないか。

 しかし、焦って弁明する必要もない。

 鷺ノ宮さんにも理解してもらおうじゃないか、秋津さんの変人さを。


「別に問題ないわ。減るものじゃないし」

「なるほど」


 鷺ノ宮さんは笑顔になる。が、それも一瞬。


「あなた達、三人とも狂ってますよ!? あたしパニックなんですけど!? 全員日本の義務教育を受けているんですよね!?」


 鷺ノ宮さんは発狂した。


「いやいや、渚と秋津さんはおかしいけど俺はまともですよ」


 ツッコミ担当として今の発言は見逃せない。

 これまで変人二人をうまくコントロールしてきたのは間違いなく俺だ。


「えーそれはないよー。俊介や朱利さんよりボクの方が全然まともだよー」

「わたし、いきなり全裸になるような人を二人以外に知らないわ。二人は変よ」


 なぜか反論してくる二人。

 こ、こいつら、自分が変人だって自覚がない……だと!?


「ちょ、ちょ! 何言ってるんすか! さすがに俺が一番まともですって!」

「いや、俊介だけはないね! 間違いなくボクだよ!」

「二人とも自覚がないのね、かわいそう……」


 各々が相手の方が変人であると主張する。誰一人として折れない。


「安心して! 三人とも十分変だから!!」

『え?』


 鷺ノ宮さんがきっぱりと言う。だが、俺たちはその発言に驚きを隠せない。

 いや、他二人が驚いているのは謎だけどね?


「その反応からもう変なんですって!」


 それから五分くらい誰が変人なのかについて言い争いをしていた。

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