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六.

「私と雪兎が(つがい)とかありえないですから! 目もろくに合わせれないんですよ!?」



「全くだ、俺と夏蘭が番なんて絶対ありえません!

 お互いの体臭が生理的に無理で触れるどころかまともに横に並ぶ事すら出来ないのに」



 夏蘭と雪兎は内心ドギマギしながらもお互いに、

いや、絶対にある訳ない!

と必死になって主張した



 周りの里の者達がなんだ、なんだ?と騒ぎをききつけ集まってくる


(あああー、パパまでこっちに来る〜〜)


(やばい、どんどんギャラリーが増えていくぞ

 早く違うって証明しないと…)



「お柱様、いかがなされた?もしやうちの娘が何か不敬でも?」


 夏蘭の父、夏ノ神が心配顔で輪の中に来てしまった


「雪兎、お前が何か問題を起こしたのでは無いか?

 お柱様、一体何が…」


 雪兎の父、冬ノ神までやって来て、二人がやばいと思った時にはもう遅かった


「夏ノ神、冬ノ神、其方達の子が犬猿の仲な理由がわかったぞ! どうやら二人は当たり神であったようだ」


 二人にはお構いなしに竜田姫が告げる

 豆鉄砲をくらったように目を丸くして父親達は固まり、しばらくしてともに歓喜の声をあげた


「なんですと!? それはまことにございますか」


「そうか、 自分の子がまさか当たり神だなどと考えも及びませんでしたが、それなら確かに辻褄が…なんと、これは驚いた」


 驚くだけの夏ノ神とは違い冬ノ神は当たり神についてそれなりの伝承を受け記憶にはあったようで完全に信じたようだ


 そんな父の様子に雪兎が赤面し詰め寄った



「何納得してんだよ! 犬猿の仲で当たり神って普通に考えておかしいだろ?何で誰も突っ込まないんだよ、番だぞ?番なら相手に何かしら魅力を感じるはずだろ」



「そ、そそそうだよ、話しが全くもっておかしいし、お柱様達も何でそんなきめつけちゃうんですか!?」


 夏蘭も頬を林檎のように真っ赤に染めて物申す、

 もはやお柱様だとか不敬とか考える余裕も無くなっている



「いや、確定出来るだけの条件が全て揃っているからな…」


 キッパリと言い切る竜田姫はこの場において一番当たり神について詳しいようだ


 夏蘭はごくりと喉を鳴らし覚悟を決めて問うた


「条件…とは?」


 雪兎もごくりと喉を鳴らす

 二人の様子に竜田姫が説明してやろうと二人に向き直った、周囲の神々も皆が話しを聞く姿勢だ


「まず、初めに、夏蘭の容姿と香りだ

 神に美形は多いが、夏蘭はとくに男神ウケする容姿が見事に揃っている、そして微かに香る桃の香り、これは夏蘭が生まれた時から邪気を払う力を持っている証拠であり当たり神の女神であると裏付けるなによりの証拠だ。当たり神の条件の一つと言っていい」


「そう、夏蘭ちゃんの桃の香りを嗅いだものはみんな邪気を祓われて穏やかになるはずなのだけど、雪兎くんだけは例外で夏蘭ちゃんの香りを不快に感じるのでしょう?そして、夏蘭ちゃんも同じように不快に感じるそれも条件と言って良いわ」


 佐保姫が両手を重ねて

おっとりと微笑み穏やかな口調で続ける、竜田姫はバトンタッチと言った感じでそのまま説明を佐保姫に委ねた


「当たり神は番の香りに酔う、と言う話を聞いた事はあるかしら?ああ、そもそも当たり神って知ってるのかしら!」


「まあ、少し知ってます」


「存在と、そのくだり程度なら」


 夏蘭も雪兎も今現在ここにいない春香をふと思い出しすぐに頭から消し去った

 二人の知識はまんま春香から聞いたものだ



「あら、若いのに博識ね

知ってるなら説明が楽だわ、つまりね、

番の香りに酔うっていうのは、まんま、その通り酔うのよ、まるでお酒に酔った時や強い香水に当てられたような不快感が襲うらしいの。

初見で相手の香りに惹かれて酔いしれるなんて思いつきそうだけれど、じつは全く逆なのよ、これを知るのは高天原に住まう上層階の神くらいね、当たり神自体がとってもレアだから末端まで伝承が行き届いていないのが現状なのよ」


 なんとゆうことだろうか、

 夏蘭も雪兎も、もう思いあたり過ぎて話を聞き入るしか無くなって目から鱗の連続だ


「番の香りを受け付けないのは番を認識しやすくする為だ」


 竜田姫が確信をつくように佐保姫の後に述べた


「当たり神はいくつものギフトともいうべき

加護と祝福を授かりうまれおちる

 故に女神も男神も見目よく他者を惹きつける、女が香りで惹きつけるように男は美声を持つとされている、女神が香りで邪気を払うように男神は声質で邪気を払うことができる。

 だから両者共に注目を集めやすい存在だ。

 その為に、よりはっきり番である相手を他者と分け意識できるように番だと認識するまでは逆に相手を不快に感じるように本能にからくりが仕掛けられた状態で生まれるんだ」


 二人はもう納得せざるを得ないような気持ちになっていた


(雪兎が、私の番いーー?)

 番だと認識したら何か変わるとでもいうのかと夏蘭は少しの好奇心と、ほんのちょびっとの期待を胸におそるおそると言った感じでゆっくり雪兎を伺う


 それとほぼ同時だろうか、雪兎も唐突に夏蘭の存在が気になり出す

(夏蘭と俺が当たり神? 春香では無く、俺が?)

 もし、それを認めたら自分達はどうなるのだと雪兎も考えていた。今までの問題が全て解消されて、その後には何か芽生えるとでも言うのかと雪兎は淡い期待を抱き、だけれど二百年というすれ違った日々はそんな簡単に覆るものでも無いとも思った。

 だけれどそれよりか単純に好奇心が優っていた、雪兎は意を決して夏蘭に視線を向け…


 顔を上げた先で互いの視線が交わった


 次の瞬間、ドクリと二人の心臓が大きな音を立て血がたぎり、細胞がざわめくような衝動が走る


 エメラルドの瞳と碧眼の瞳の先でチリリと音を立て何かが光って爆ぜたような感覚を覚えたのは夏蘭と雪兎二人だけだ



「「…!?」」


 今まで二百年、数秒と視線を交じわす事もままならなかった二人に衝撃が走る


「…あんたの顔がちゃんと見れる、ムカつかない」


「…ああ、お前の緑の瞳も、ちゃんと見れる」


 まるで何かの呪いが解けたかのように二人は見つめ合う


 二百年ずっと互いをまともに見る事が出来なかった日々を取り戻そうとでもいうのか、単なる好奇心からか、それとも二人が一対なる番い神であるからか


 あるいは…そのすべてーー


 二人は飽くことなく互いを見つめ合ったままになった


「ああ、始まったか、祝福すべき、当たり神の誕生だな」


 宇津田姫さまがニヤリと笑う


「番神が認め合うこのレアな瞬間に立ち会えるなんて視察来た甲斐があったね〜」


 によによと笑う筒姫様の言葉にその場の皆が一様にその瞬間に立ち合おうと目を輝かせた



 夏蘭と雪兎は引き寄せ合うようにゆっくりと互いの距離をつめていく


 一歩、二歩と進む度にカラダの内側から

 パチン、パチン、パチンと何かが弾けて瞬くように

 心が震え耳の奥で音が鳴る


 ドクン、ドクンと鼓動が跳ね上がり、ふわり

 雪兎の鼻腔を芳しく甘い桃の香りがくすぐった


「ああ、これか、本当のお前の香りは…桃の、甘い香りだ」(これは確かにやばいな、俺の好み過ぎるだろ、てゆうか、良くみたらこいつめちゃくちゃ可愛くないか…)


 トロンと熱に浮かされたような瞳で夏蘭を見つめながら雪兎が囁くものだから、

 その声に夏蘭の胸がきゅ〜〜と甘くしめつけられる


「雪兎の香りも気にならない、それに、あんたの声も…」(めっちゃくちゃ好きな声質…てゆうか雪兎ってこんなイケメンだったの?)



 ふたりの距離が触れ合えるほどに近づいて

 夏蘭も雪兎も引き寄せ合うように互いに手を伸ばしあう

 もはや沢山の神々に見届けられ、しかも互いの両親までがガン見している事さえ頭から抜けている


 完全に二人の世界に入っていた


 周囲の神々も祝福ムードで二人を見つめていたのだが、しかし、

 この後、どこまで続くんだ?と皆がふと思い始めたその時だったーー


 部屋の入り口から夏蘭達、同世代が聞き慣れた声が

 降り注いだ


「こちらに四柱様がいらっしゃると聞いて馳せ参じました、春ノ神の息子、春香、拝謁願いたく存じます」


 ムードぶち壊し隊の参上にこの場にいる同世代の神々に激震が走る


 一番来ちゃ駄目な時に

 一番来ちゃ駄目なやつが来た!



 同世代の神達が目を合わせてどうする、どうすると焦っている中、


 夏蘭と雪兎はーー


(うわーーうわーー!!うそでしょ!?こんな大勢に囲まれてるのに完全に正気を失ってた! 恥ずか死ねる〜〜)


(やばかった、完全に思考をこいつ一人に持ってかれてた、春香、何しに来たかわからんが助かった…あのままだったら公衆の面前でなんか色々やらかしてた)



 我に帰り俯いて、羞恥に縮こまるのだった



















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