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二.

 それからの夏蘭達はマスクという人間の発明品によりなんとか会話の場を保つ事に成功して、声を落として会話を続けた


 遠目では完全に怪しい二人である


「別の方向ってなると、やっぱり上層階の神々に直談判かしら?」


「俺達みたいな半端もんな神に会ってくれるわけ無い」


 雪兎の言葉に夏蘭はむっとして半眼で雪兎を見た、まともに目線を合わせると更にイラついてしまうので雪兎の首元に視線を向ける

喉仏が上下しているのを無心で見つめながら問いかけた


「じゃあ、他にどうするってのよ」


「神同士の婚約や婚姻には掟がいくつもあると聞いた事がある、まずはそれを調べるんだ

 その掟を破る事によって婚約の解消をもちかける」


 雪兎にしては良い考えだと夏蘭は思った

が、どうせ顔を見てもドヤ顔してんだろうしスルーする事にした、視線はできるだけ合わせない方が良い。雪兎の喉仏は見ていても不快では無いしふよふよと上下に動いて丸っこいこれ単体として見れば木霊(こだま)のようでなんだか可愛くもみえてくる


 (もうこの丸いのが雪兎でいいんじゃないか?)


「掟ね…調べるっても、

基本神は全知全能って事で記憶力抜群だから記録とか個々に残さないし、神から神への言い伝えで大概が成立してるからなぁ

私達が聞けるレベルの古株の神ってなると、パパ達の世代しかなく無い?

 後はみんなご隠居して別階層いってるか転生しちゃってるし」


 夏蘭がぼーっと見ていた雪兎の喉仏が飲み物の入ったグラスで隠れたので夏蘭は、んん?と少し上に視線をむけた、すると雪兎はマスクをしたままマスクの下からストローを差し込んでちゅーちゅーと何か飲んでるでは無いか


「…コーヒー注文してたんだよ、お前もなんか飲んだら?」


 何でも無いように雪兎がいうので夏蘭もアイスティーを注文した

 それと同時に予約時に頼んでいたであろう食事も運ばれてくる

 飲み物は先程の雪兎のように飲めば良いとして、食事はどうするか…夏蘭はアイスティーを飲みながら考えていた


「よし、隣の席空いてるな、俺こっちで食べるから、

仕切り挟んでるしこんくらい距離開けば大丈夫だろ」


 そう言うなり雪兎は食事の乗ったおぼんをもって隣の席へ移動する


 少し間を置いて夏蘭はマスクを取り、スンと鼻をきかせる


「まだちょっと匂うんだけど…」


 眉間を寄せつつそれでも食事に箸をつけ食べ始める

 雪兎も同じようにマスクを取りはらい鼻に手をつく


「ったく、この距離でも匂うとは…寧ろこうなったいま、どこまで離れたらお互いの匂いが気にならなくなるのか適正距離がしりたくもなるな」



 仕切りの先からの雪兎の言葉に夏蘭も「同感」と一言だけ返すのだった

 ある程度の距離を持って互いが互いを不快に思っているということを認め配慮しあえばこの二人は意見が割れる事は無いらしい

 だからその後の話し合いは意外にもスムーズに進んでいった

連れ同士で仕切りを挟んで距離を取り会話する姿は異様で周囲に近寄り難い雰囲気を醸し出していたのだが、幸い誰も二人を咎める事は無かった


 食事を済ませた二人は話し合いで決めたように夏蘭が自分の分の勘定をささっと雪兎の席のテーブルに置き、先に店を出て

時間差で雪兎が二人分の会計を済ませ店を出る

そうして次の目的地で合流するといった感じにスムーズに行動した


 夏蘭達が次に行く場所は『(いにしえ)保管庫』だ。

 この世の全ての神々が行き来する道『竜脈神道(りゅうみゃくじんどう)』の内にあって唯一神々が残した古の記録を保管してある場所である

 

 夏蘭や雪兎のように末端の神の子は神と言うにはまだまだ半端な身で竜脈神道を通っていける場所は限られている、それでも(いにしえ)保管庫だけはどの階層のものでも自由に入る事が可能だ。


 夏蘭と雪兎は神の婚約についての掟を調べる為に

一番確実で手軽そうな(いにしえ)保管庫へ行く事に決めたのだった



 ◇◆◇


「雪兎ー、いい方法見つかった?」


「…ダメだ…掟は確かにいくつもあるが…どれも破るにはリスクが高すぎる…」


 二十畳程ある保管庫で端と端に分かれて神の婚約についての掟に関係する巻物や書物を調べていた二人だが完全に行き詰まっていた


「…どれも破った時の制裁がひどいね、

 落神(おちがみ)扱いで人の世に落とされるとか〜」


「みたかよ、二十年アルパカとして生きるって制裁くらう掟もあったぞ」


「みた〜!!他の神とデートしちゃいけないってやつでしょ、一番簡単に破れそうな掟だったけど、もし知らないで実行してたらと思うとゾッとするわね、可愛いけど、なりたくはないわ」



「流石神の掟、人の世なんてレベルじゃないな、甘かった…どうする、完全に行き詰まったぞ」



 二人はお互いが見えない離れた場所にいるがほぼ同時に溜息をつき天を仰いだ


「はー、ちょっと休憩しない?こうも手詰まりじゃ別方向からまた策を考えないとだし」


 夏蘭が出した巻物を棚にしまう


「だな、にしてもここ本当誰も来ないな、神ってみんなつくづく調べたりしないんだな〜」


 雪兎が出した書物を棚にしまう


「お前ここいろよ、おれは外で休憩してくるから、

 同じ空間に長時間いるのきついしな」


「あー、うん、後匂いも2時間が限界ね、入り口あけて竜脈の気を循環させよう。空調整えてから再開ね」


「了解、半刻したら戻る」


 会話内容をいつも通りな感じに訳せば


 お前と同じ空間にこれ以上いたくない、ストレス


 あんたの匂いがこもっててしんどい、換気したい


 なんだが、それで一々言い争うような気力がもう二人には無かった、淡々とやり過ごすのがこれ以上HPを削らない唯一の方法だと互いに理解したらしい




 雪兎が保管庫を出ていった後入り口を開けたまま換気をしていた夏蘭は壁端にある長机に肘をついて背もたれの無い丸椅子に座って長い脚を組み此度の婚約について考えていた


 そもそも、神とは本来人以上に自由が尊重され、恋愛も婚姻もしたければすればいいし、する気がないならべつにしなくてもよい種族だ

 万物の神々の内には神同士で交わらなくとも次代の神を生む力を持っている神もいる、

 寿命が一千年〜数億万年まである神々は神を増やす行為を義務として定めていないしむしろ婚姻したり子供をつくる神のほうがずっと少ない、子が欲しければ作って良いし婚姻を望むならしたら良い

だから本来ならば婚約だって親神に強制などされない世界なのだ


 だから夏蘭は思った

(婚約はあくまで私達がうまく里で立ち回れるようにする為の荒療治で、今日みたいな感じの距離感でやってけるならパパ達も嫌がる私達を無理矢理婚姻

 なんてさせないんじゃないか…)


 婚約解消がどうにもならない時はおとし所をみつけて雪兎とうまくやっていこう、夏蘭はそんな風に考えていた。


 側にずっといるのはしんどいがそもそも生理的な部分を抜きに考えればそこまで嫌なやつではない、それは夏蘭もずっと前からわかっている事だった


 神としてのお勤めで神力の波動が合わなくて反発し合う事はあってもそれ以外に意見や価値観があわなくて許せないなんてことは無かったし

 雪兎がする事や考える事は真っ当で夏蘭はいつも雪兎のくせにと思いながら納得したり賛同する事の方が多い、生理的に受け付けない以外で夏蘭には雪兎を嫌う理由は無かった


「何で雪兎だけが、こんなダメなんだろ…」


(あっ…れ?)


 ふと口から溢れた自分の言葉に夏蘭はひっかかりを覚えた。口にしたらますます奇妙に思えたのだ


 自分だけでなく、雪兎も同じように感じているこの不快感に理由があるとしたらどうだろう?

 神々の内でも稀なケースで引き起こる何か…

 あるいはなんらかの呪縛があって自分達だけがこんなにも互いを受け付けないのだとすれば、理由など何も無かった今までより何か少しでもスッキリするんじゃないだろうか


「何で今まで考えてこなかったんだろ、そうだよ、良く考えてみたら不自然なんだよこんなのは…」


 他の神には到底理解されない不快感

 それなのに雪兎だけが自分が感じている不快感を理解できるのだ。それも寸分違わず同じように…

 そんな事がなんの理由もなく起きるなんて、その方が可能性とすれば限りなく低い、理由があると考えたほうがしっくりくるではないかと夏蘭は雷にうたれたように思い至った


「これだわ、調べるのなら!」


 夏蘭は慌てて立ち上がり先程とは違う

『神々の受ける呪い』、『神々の古伝』、『神々の誕生』など片っ端から調べはじめた


 しばらくして雪兎が戻ってきて真剣な顔で巻物をみる夏蘭に声をかけた


「…うわ、お前。必死だな…よほど婚約解消したいんだな、まあ、気持ちはわかるが」


 と、どん引きした顔で言う雪兎に夏蘭は振り向いて


「雪兎!解消は後まわしにして、私達のこの長年苦しめられてる理由について調べてみない?」


 夏蘭がニヤリと笑いそれを見た雪兎が目を丸くする


「理由?」


「そう、この忌々しい呪いのような感覚にもし理由があるとしたら?って考えたの。

 私達しか感じ取れないこの生理的不快感にもし名目があるとしたら、興味そそられない?」


 雪兎と夏蘭は互いの瞳をしっかりと合わせていた

 それは何年、いや、何十年ぶりのことであろうか…


 神々の世に産声をあげて誕生した時より夏蘭も雪兎も二百年は過ぎている


 それまでの間にこんなにもお互いをはっきりと見つめた事は一度とさえ無かった…

 二人は見つめ合いーーーーそうして…




「「 見んな!イラつく! 」」


「眼が潰れる〜」と顔を逸らし眼を両手で隠す夏蘭


「やべー、頭に直にくるなんっだこの不快感は!」

 とその場にしゃがみ込んで頭を押さえる雪兎


 まあ、多少結束力が芽生えた所でこの二人は何ら変わらない


しばらく悶えた後平静を取り戻した二人はそれ以上何も言わずに互いに黙々と己の忌々しい生理的不快感に繋がる何かに名を持たせるべく記録を探るのだった











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