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一.

よろしくお願いします。

夏蘭(カラン)お前と雪兎(セツト)との婚約が決まった。これを機に長年の溝を埋めるよう努めるんだな」


「む、無理ーーー!!セツトとこん…うえ〜

口に出すのも気持ち悪い、ぜっ〜〜たい無理だってパパあーー!!」


 夏蘭(カラン)は金髪の腰まである長い髪を振り乱して父親の腰にしがみついてイヤイヤと首を振った

 それはもうこの世の終わりとでも言ったように顔面蒼白でエメラルドの瞳を潤ませて…いや、既にぼろぼろと大粒の涙を止めどなく流し死ぬ程嫌がった


 夏蘭(カラン)の父親である夏ノ神(ナツノカミ)は腰に巻きついた夏蘭を引きずりながら上座まで歩き夏蘭の腕を振り解いてドサリとあぐらをかいて座り豪奢な肘置きに肘を立てた。


そうして泣き崩れる娘を一瞥すると眉間を揉み深い溜息をついて夏蘭を一喝した


「お前達のその態度が里の空気をめちゃくちゃ悪くしてるのだと再三注意したのを聞かなかったのが悪い!

このままじゃ人の世の季節の移ろいが乱れに乱れて八百万(やおよろず)の神々の逆鱗に触れるのがわからんのか!?

お前ら里を、四季ノ里(シキノサト)を潰す気か」


 父の言葉に唇を引き結んだ夏蘭は床に突っ伏してそれ以上何も言えなくなった


 夏蘭は末端の神の子だ。人の世の森羅万象を司る八百万の神々の中の四季節の神に仕える末端の神々の住まう里『四季ノ里』に生まれ育た夏ノ神(ナツノカミ)の娘だ


 この里は四季節の神様達の代わりに人の世の季節の移ろいを司る重要な役割を担っている


 春、夏、秋、冬の四つの季節の神々で構成され力を合わせて季節をコントロールしていて

 四つどの季節の神力が欠けても季節は正しく機能しないし、微妙な神力の波長の乱れが季節の移ろいを乱してしまう、繊細で集中力のいる仕事を任されているのが夏蘭達末端の神々なのである


 人の世で名を馳せる神々は何をしてるのかって?

 んん…まあ、末端の統率…最近どうよ?とか、ちゃんとやってるー?みたいな感じでたまに視察、監査して日がな一日遊んで…イヤイヤイヤ、

末端何ぞには到底想像もできないお仕事をされていて忙しい方々です、はい…と、まあ、そんなわけで末端の神々はそれなりに重要な使命を持って生きているわけである



 そんな生まれの夏蘭だが、この度同じ四季ノ里に住まう冬ノ神(フユノカミ)の息子雪兎(セツト)と婚約する運びとなった


 カランとセツトは同じ年に生まれた神の御子で幼馴染でもある、神力の使い方もわからないうちから一緒に修行と鍛錬を重ねてきた仲間なのだが…

な、はずだが…破滅的に仲がよろしくない


 それはもう、物心つく頃からお互い毛嫌いしあう仲なのだ


 夏蘭は綺麗な金髪の長い髪に

エメラルドの瞳のスレンダー美人、

 雪兎は銀髪の長い髪を結った碧眼の美丈夫で

体格も引き締まって背も高い

 二人ともが外見に問題がある訳でもない


 ならば性格の不一致か、といえば、そーゆうんでもない。

 夏蘭も雪兎も明るく快活、思考や発想がいつも似通うし、好きなものも大体被る

 気が合わないわけでもないはずなのに二人は互いに距離を置きたがり、同じ空間にいるといがみ合う


 この二人といると里の神々は皆一様に困惑する

(なんでこんな波長が合いそうな二人がこんなにまで仲が悪くなったんだ)と、

 皆が二人の幼い頃からの様子を話し合い

何がきっかけでこうなっているのかと探った


 だが、きっかけなどはじめから無いのだ


 夏蘭と雪兎は出会った瞬間からずっと二人だけにしかわからない抗えない不快感を互いに抱いているのだ


 そう。ズバリ、生理的に無理!!って感覚に陥っているのだ


 それは神特有の神力から始まり


 体臭、声質といった生理的な部分にまで至り


 終いには目を合わせるのも苦痛といったような

 人格が嫌いとかよりもうどうにも救いようがないものだった


 側にいると鼻につく体臭が不快で、ひどい時は吐き気さえする、声音は遠くからでも耳に入れば耳障りでイラついてしまう


 特にひどいのは神力だ

 交代制の数人の神で円陣を組み波長をあわせて神力を四季玉に送るのだが円陣に二人がいようものなら

 夏なのに雪が降り、冬なのに気温40度の猛暑日が

 一週間続き人の世はその度にニュースやネットやらで騒ぎ立て大混乱である


 夏蘭が「ちょっと、あんたマジいい加減にしてよね!なんで毎回私の波長にからまって乱すのよ気持ち悪い!」と怒号を飛ばせば


 雪兎が「それはこっちのセリフだ、いつもいつも陣の一番距離が離れた位置にいるくせになんでわざわざ四季玉の上から被さってくるんだ!ウザすぎる!」と言い返す


「はあ!?それはこっちのセリフだし!」


「はあ!?お前がわざとやってないでどうしたらこーなるかよ、」


「「あ゛ーーーー!!声ウザい!うっとうしい!

 本当もう無理!限界だ!」」


 同時に吐いた言葉はひどいものだったが奇跡的にも息ぴったりに言葉を重ね合う二人に、同じ円陣を組んでいる者達は

(あんな難易度高いハモりできて本当は仲良しではないのか?)


(これは人の世で聞くツンデレてやつなのでは?)


(二人省いてやったほうがよくね?)


(…なんかわからんが八百万の神々からクレーム来ないといいな)


 などなど口には出さ無いが皆(あーあ、またか)と思って困惑し、この二人が陣を組む日は里の皆が『ハズレ日』と言って里全体が重たい空気に陥るのだ


 その度に里を回って謝罪する夏蘭と雪兎の両親はほとほと疲れてもう仲良くさせようとするのは諦めてとことんシフトが被らないように合わないようにしたら良いのでは?

と話し合い4人で上層階の高天原(たかまがはら)へ赴き四季節の神々に相談したが


夏担当の神、筒姫様は

「諦めたらそこで試合終了だよ!」とスポ根みたいな返しで否と申し、


冬担当の神、宇津田姫様は

「もう荒療治でさ〜婚姻とかさせちゃって、一発やっちゃえば良くな〜い?犬猿の仲の二人が婚姻て人の世で流行ってるぞ」と完全に面白がっている、


 春担の神、佐保姫様も秋担の神、竜田姫様も1095日分のシフトスケジュールを変更とか面倒いと言って却下した


 そうして、双方の両親が決断したのがいきなり婚姻、ではなくとりあえずリハビリ的な感じで婚約させようという選択だった



 雪兎も父から聞いた日はこの世の終わりという感じで婚約拒否した


「無理だ!絶対に無理だ!シフト被った日のストレスどんだけあるともってんだよ、婚約なんてして一緒にいる時間増えたら禿げる、病む」


「神は病んでも復活早いから平気だ」


「寿命削れる」


「千年以上ある命だ、多少削れたって平気だ」


「それでも親かよ!頼む、取り消してくれ!

 夏蘭だけは絶対に無理だ」


 雪兎は必死になって父である冬ノ神に縋ったが覆る事は無かった


「夏蘭は良い子だ。悪心も無く落神(おちがみ)になる要素もない、見目も美しい、何がそんなに気に食わない」


「俺達は合わないんだ…生理的に」


 雪兎が暗い顔をして呟くのを見て訝しむように冬ノ神が言った


「同じ四季節の神で生理的に不快に感じるなど聞いた事が無い、しかしそれが事実なら夏蘭の内面をみて歩み寄ってみる事だな」


 そう言って冬ノ神は襖を両手でスパンと勢いよく開け広げ雪兎を一人残し部屋を後にしたのだった


 ◇◆◇


 夏蘭と雪兎の婚約が整い二人が里公認の婚約者同士となった次の日、二人は両親に言われて神処(茶屋)で合う事になっていた


 夏蘭はどうせ雪兎は嫌がって来ないだろうと思って二人分の食事を楽しんでやろうと時間通りに神処にやってきたが予約された席にはすでに雪兎が座って待っていた…いや、待っていた訳でもなく…


「うっそだろ!?お前何来てんだよ!お前が来ないと思ってたからきたのに」


 心底嫌そうに雪兎が椅子を引いてのけぞった



「うあ゛ーー!なんでおんなじ事考えるかな?

 あんたさ、いつも考えかぶるんだからさ、裏をかいて行かないって選択できなかった訳?」


「まんまその言葉お前に返すわ」


(え〜〜どうすんのよこれ?帰る?でも私が帰ったらこいつが一人美味しいとこどりじゃない?)


 夏蘭が突っ立ったまま動かないでいる為茶屋の

 猫耳ウェイトレスがオロオロと困った様子で二人を交互に見る、それを見て雪兎が溜息して夏蘭に声をかけた


「おい、そんな所にいつまでも突っ立ってたら店の迷惑だ。さっさと帰るか席に座るかしろ」



「う、うるさいわね!誰があんたに言われたからって帰るか!座ったろうじゃない」


 どかりと椅子に座って夏蘭は長い足を所狭しと横に突き出し組んでみせた


「チッ、座るのかよ!」


「はん、その手にはのらないのよバカめ」


「うっ…お前、今日匂いきつ過ぎ頭われそう…」


 雪兎があからさまに顔を逸らし仰け反る


「うっ…えふ…あんたこそ、きっつい…頭ぐわんぐわんして吐きそう」


 夏蘭は掌で口と鼻を覆って俯いた


「ダメだ…やっぱ俺帰るわ」


 気分悪そうに席を立とうとする雪兎に夏蘭が待ったをかけた


「ちょい待ち、そう言えば私パパからこんなんもらって…あんたの分もあるからやるわ」


 そう言って夏蘭は長方形の手持ちカバンからあるものを取り出して雪兎に差し出した


「こ、これ知ってるぞ!あれだろ、人の世で最近頻繁に見るようになった…」


「「マスク」」


 こうして声が自然に重なるのはこの二人においては良くある事である


 二人は無言でマスクをつけてスーハーと呼吸を整えた


「はあ、凄いなマスクてやつは、ちょっとだが楽になった。夏ノ神様にお礼いっといてくれ」


「私が匂いが苦手だって話したらくれたのよ、それより、お互いこの婚約絶対に無理でしょ?ここは協力してなんとかするべきだと思うのよ」


 お互い声も耳障りな為出来るだけ夏蘭は声のトーンを落として問いかけてみた

 すると雪兎もその配慮に気づいたようで聴く耳を持って対応する姿勢を見せはじめる


「それな、俺も思った。親父達に話した所でこの婚約は解消されない、別の方向から働きかけるしかないな」


 雪兎も夏蘭と同じように声のトーンを落として話す、二人がこんなにまでまともに会話のキャッチボールを頑張った日は無かった、

両親達の思惑は少しは歩み寄りに繋がったように思えた、

 それも悲しいかな婚約解消同盟という仲良しとは真逆の絆で結束してるのだが、


 とにもかくにも二人の関係に未だかつて無い変化が起き始めたのだった






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