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01 ビオラ、決意する

とある小説を読んで触発されました。

展開が似ていると感じると思います。目を瞑って!

少しづつ、オリジナルになりますから。

「僕は君の事が死ぬほど好きだ!だから、お金を貸してほしい」


 この一言で目の前の男がどれだけどうしようもない人間か分かる。


 ビオラにとって告白というものは男性がするもの。それは小さい頃に読んだ本の中のプロポーズが影響している。

 どの本もロマンチックで男らしくて、心躍るものであった。だから、男性からの告白というものには少し特別なものを感じていた。

 だから、こんな。所属する見慣れた商会ギルドの受付前で、商談用の応接室から出てきて、お金をせびるついでに告白されるというのはとても不愉快なものであった。

 死ねばいいのに。


「それはどういう意味でしょう?」


 ビオラは訝しげに尋ねた。この男の真意など興味は無いが。


「今月は開発費がかさんでね。ピンチなんだ。だから、お金を貸してほしい」


 どうしようもない男、リュドナイはチャームポイントと呼ばれている栗色の瞳をキュッと引き締める。

 

「ビオラ、愛している!」


 無意識に力を込めていた、この右手を本能のまま振ることができればどれほど気持ちよかっただろう。



 剣と魔法、それに冒険者に騎士とよくあるファンタジー。

 ビオラ・ハウスマンは魔導具師(まどうぐし)として有名な家系の出身だ。


 父が名付けてくれたビオラ。花言葉で「誠意」「信頼」を意味する。

 商人として、忘れてはいけない理念として名付けてくれた。

 こう思うと、私の将来というものは小さな頃から決められていたのだろう。

 それもあってか、今は父の魔道具師を継承している。


 父、グラジオ・ハウスマンは一代で魔導具師として歴史を変えた男だ。

 この世界では、魔力を持つ者が魔石を使って魔導具を動かす。

 これは、魔石をエンジンとすると、魔力提供者がスターターの役割となっている。この世界にエンジンはまだないが。

 魔力を持たない者には動かすことができない。


 しかし、父が開発した『雷魔石(らいませき)』の新たなエネルギー『電気』を使えば魔力を持たない者でも魔導具を扱うことができる。

 ハウスマン製の魔道具でなければならないという欠点はあるが、今では『電気』というものが王国中で受け入れられている。

 一家に一台『雷魔石』である。



 その父の販路を開拓した親友がいる。

 17歳の頃に、親同士の勝手な口約束で許嫁とされた先程の男は、その親友の三男、末っ子である。

 堂々と胸を張り、さも当然のような顔をする、リュドナイ・ハルトマン。

 彼もまた、魔導具師となっている。

 『雷魔石』を発明したビオラの父に憧れ、一攫千金を狙っているらしい。


 動機が不純であるのは今に始まったことでは無い。それはこのどうしようもない性格のせいである。

 しかし、ハルトマン商会の宣伝力は王国一であり、その三男坊。魔導具開発や販売を任されており、顔も良く、頭もいい優良物件。

 性格させ目を瞑れば後悔しない相手なのだが、ビオラの目は瞑ることができなかった。


 ビオラは大きくため息をついた。見せつけるように。

 しかし、相手の態度は一貫しており、ビオラは頭を抑える。

 お金をせびってくることは今に始まったことでは無い。

 ハウスマン製の魔道具が売れているのはハルトマン商会のお陰だと言われてしまえば何も言えないのだ。


「わかったわ、いくら?」

「金貨5枚」


 金貨5枚。分かり易く言うと金貨1枚が10万円相当だ。

 一つ下に大銀貨、これは1枚1万円相当。銀貨1000円、銅貨100円、半銭銅貨50円といった感じだ。

 つまり50万円をすれ違いざまに要求してきているのだ。


「何に使う?」

「『雷魔石』対応の空調調和設備の開発」


 いわゆるクーラーである。

 魔石を使ったクーラーは存在するが、使用者が限られ、高級品だ。

 一部の貴族や王族の屋敷の限られた部屋にしかまだ無い。

 王都の夏は熱中症や脱水症で亡くなる人も多い。

 人命救助の為に開発しているそうだ。建前上は。


 しかし、今日は商会ギルドで納品している『雷魔石』と『関連機器』の確認に来ているだけだ。

 今の金貨袋の中は銀貨2、3枚前後しかない。


「後で持っていくわ。今日は工房にいる?」

「いや、飲みに行くつもりだから、酒場かな?」


 日の高い内から飲むのか。ビオラの頭の痛みが強くなる。

 別にお酒が嫌いというわけではない。むしろ好きだ。

 去年20歳を超え、ほどほどに飲むようになった。

 開発の手が止まった時に晩酌程度に飲んでいる。


「『バッカス』?」

「そうだ、分かってるな」


 飲むつもりもないのに入る酒場ほど楽しく無いものはない。

 ビオラは今日は厄日と切り替えて話を続ける。


「それじゃあ、お昼ご飯を食べてから行くからゆっくり飲んでて」

「よろしく」


 そういうと、リュドナイは商会ギルドを出て行こうとする。

 そして、出ていく時に。


「そうだ、ビオラ。雷魔温水器(らいまおんすいき)の火災の件、せいぜいがんばれよ。もしかしたら商標無くなるかもな」


 そう言って、出て行った。

 扉越しに聞こえる笑い声は怒りを通り越して、呆れてしまった。




 ビオラはリュドナイの消えた商会ギルドで一人茫然としていた。

 

 去年、父が亡くなった。珍しい雷魔石が採掘できたと聞きつけ鉱山を見学に行った。

 その日の夕方、工房に入った一報は、落盤事故での父の死の知らせであった。

 珍しい雷魔石のあった地層の脆弱性、支保工の設備の問題などその後に入った知らせは多かった。

 ビオラは葬式や書類の整理、ハウスマンの工房の当主になる手続きなどで、涙を流す暇は無かった。


 葬式で思い出すのはやはりリュドナイだ。

 挨拶ほどほどに言い放った。


「グラジオさんも亡くなったし、『雷魔石』の商標名義二人に変えよう。婚約者同士なんだから」


 それ前までは婚約者と呼ばれても、幼馴染と呼ばれても何も思わなかった。

 あの時から、彼を人間とは思えなくなった。嫌悪した。


 ただ、仕事で彼と関わらないということは出来ず、ずるずる来ている。

 ハルトマン商会を盾に近づいてくる。

 お金をせびられる。


 当主となり、ハルトマン商会の脅しに怯え、商品のクレームに怯え、開発の遅延に怯える日々。

 『魔石専売(ませきせんばい)』の妨害も受け、『雷魔石』対応の新型魔導具の売れ行きも悪い。

 日に日に売り上げが落ちている。

 

 「変わろう」

 

 ビオラはきゅっと、受付の方に目をやる。

 

 家のため、工房のため、自分のために変わろう。

 嫌なことは嫌と、好きなことは好きと言えるように。

 父の残した『雷魔石』と父から教わった『魔導具師』はビオラの誇りだ。

 十分、一人でやっていける。


 だから、やりたいようにやってみよう。


 ビオラは受付へと堂々と歩き始める。


 それは、日の高い夏の日差しが痛い日の事であった。

多くの作品の中からこの作品を見つけていただきありがとうございます。_:(´ཀ`」 ∠):

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それでは第二話以降もお楽しみください٩( 'ω' )و

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