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ハルゼロバン  作者: 柳瀬
3/5

決起

◯四月七日 夜

 ベッドに横になり、ぼんやりと思案していた。

 不良に喧嘩を吹っ掛けるように大島が指示していたとして、その理由は一体なんだろうか。不良集団を組織的に行動させして、武力を誇示するためだろうか。一体誰に?

 「腕の調子はどう?」

 同じくベッドに寝そべった美夜が質問してくる。

 自分の腕を見ながら答える。

 「もう問題ない。その辺も考えてくれてたのかも。」

 「優しさかな?」

 「舐めてるのよ。」

 美夜は声を出して笑う。きっと、私の負けず嫌いを笑っているのだろう。

 トントン、とドアがノックされる。

 「どーぞー。」

 美夜が気の抜けた声を返事をする。

 月見ヶ丘の生徒は基本、寮生活をしている。PPを育成する学校全てがそうではないが、我が校は校則も厳しく、寮での生活も生徒を律するためだ。全国でも有名校であるからが故なのか、非常に生徒に厳しい環境だ。

 部屋は広いが、二人一組で割り当てられる。レイアウトは任されており、前の住人が置いていた家具を使ったり、仕切り壁もありを2部屋にしたりする人達もいる。

 私達の部屋は、お互いに初期のレイアウトから模様替えするのが面倒という理由で、特段部屋を分けていない。

 同じ寮で生活している友人が、部屋を訪ねてくる事は珍しくない。勉強の話や、くだらない話も、色々話をする事がある。

 誰が来たのだろうと、寝そべった体から顔だけを持ち上げて見る。

 「げっ、貴船美々(きふねびび)。」

 美夜が思わず本音を溢す。

 「“げっ”の意味は分かりませんが、私をフルネームで呼ぶのは流石です。」

 美々が部屋にやってくることはよくある。一緒に寝ようとしてきたり、写生のモデルをしてくれと言ってきたりと、様々な欲求を満たしにやってくる。その都度、理由は述べずに嫌だと断り帰ってもらっている。それでもめげずに何度もやってくるが…。

 「何か用?」

 美夜は携帯を見たまま言うが、適当なわけではない。美々の嗜め方を理解しているし、美々は美夜の足を舐めようとしたり、撫でようとしてきたり、身体を狙われるため警戒しているのだ。

 「お二人とも、部屋着は随分とルーズですね。」

 美々は酷く落胆した顔をしている。

 美夜は寮のルームメイトのため見慣れているが、基本的に上下スウェットだ。今は4月だが、まだまだ寒さがある。私は部屋着にまで気を遣いたくないと思い、適当なジャージだ。

 それに対して美々は、何故か制服姿でやってきた。

 「皆こんなもんでしょ?」

 「あまり美しくないですが…。折角お二人とも美しい名前と容姿があるのに…。」

 何やらぶつぶつと呟いているが、あえて聞き流す事にする。そうすることが、最善だと学んだのだ。

 ちらりと美夜を見ると、美々には興味なさそうに、ベッドに仰向けになり携帯をいじっている。

 「そう、それはまた次の機会にして。」

 美々が閑話休題する。別の機会が二度とこないことを祈りつつ、話に耳を傾ける。

 「昼間に話をしていた件、私にも協力させてください。」

 「いだっ!」

 ごつんと鈍い音がしたと思ったら、美夜が驚いて携帯を顔面に落としたようだ。

 「何で!?」

 美夜は飛び起きて美々に質問する。

 私もどうしたもんかと腕を組んで、思考を巡らせる。

 「私もPPを志す人間です。知ってしまった悪を見逃す事を正義とは思っていない。ただそれだけです。」

 美々は腰に手を当て、胸を張って答える。

 「まあ、拒みはしないけど…。」

 美夜がそう言う。

 「ありがとうございます。それで、何処から調査しましょうか。」

 「大島って人に会うのが早そうだけど、何処にいるかも分かんないし。」

 美夜は起き上がり、携帯を器用にくるくると回す。

 「東海高校に在籍していますが、流石に中学生がずかずかと他校へ押し入るのは気が引けます。

 美々の言う通りだ。

 「うーん。」

 三人揃って唸る。

 素直に不良が大島の居場所を教えてくれるとは限らない。足で稼ぐには厳しいものがある。

 一度、大きく溜息をする。

 不意に、私の携帯が鳴る。

 芳川さんからだ。

 「もしもし。」

 「すみません色紙さん、助けてください!」

 直ぐに携帯をスピーカーにして2人にも聞こえるようにする。

 「どうしたの!?」

 「ちゃんと声は聞こえたか?」

 芳川さんの声ではなく、聞いた事のある男の声になる。

 「誰?」

 「忘れるなんて酷いなぁ、昨日はぶっ飛ばしてくれたじゃないか。」

 思い出した。昨日、新開さんと芳川さんに絡んでいた不良の片方だ。

 「あんた、何してるわけ?」

 美夜が低い声で尋ねる。こんなに怒ってる美夜は初めて見る。

 「おっ、もう一人もいるな。君達のお友達二人とっ捕まえてきたから。」

 「何のために!?」

 「いいからいいから、返してほしかったら今すぐ北区の廃ビルまで来な。」

 「良い?二人に手出したら殺すよ。」

 既に通話は切れている。

 「あいつら、何のために…!」

 「お二人に恥をかかされた為、やり返すつもりなのかもしれません。それか、ボスの大島が直接出てくるのかも。」

 「好都合、あいつらぶっ飛ばして、大島もぶっ飛ばして、二人を助けよう!」

 ベッドから飛び起きる。

 「ちょっと待ってください。愚直に突撃するのはちょっと…。警察に連絡するとか…。」

 「大丈夫大丈夫、その辺の不良だったら私達三人もいれば十分でしょ。」

 指の関節をぱきりと鳴らしてみせる。

 「でも四季、私達が月見ヶ丘中学生と知った上で誘ってるんだよ。何か策があるんじゃない?」

 一度思案してみるが、奴らが私達に対抗できるビジョンが浮かばない。

 「たぶん、数にものを言わせる作戦だと思う。それなら問題はない。」

 美夜と美々は顔を見合わせて、少し悩んだ後頷いた。

 急いで着替え、寮を飛び出す。門限は過ぎているが、気にしている余裕はない。

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