容疑者
◯四月六日 放課後 ファミレス
ファミレスで、新開さんと芳川さん、美夜でくだらない話をしていた。
主に月見ヶ丘中学の学校生活について根掘り葉掘り聞かれた。別に隠すような話はないので、聞かれた事を答えていった。
「それじゃあ、二人は寮のルームメイトなんすね。」
「そうそう。」
「何だか、噂には聞いてましたけど、月見ヶ丘の生徒は、私達と住んでる世界が違うって改めて思いました。」
芳川さんは少し呆れた声を出す。
「そう?特に2人と変わらないと思うけど。」
そう言うと、新開さんは少し唸って思案する。そして口を開く。
「PPって職業自体が特別なんすよ。過去にタイムスリップするなんてタブーを公的に許可されている職業って、ほとんどないじゃないっすか。」
「確かに、一般人は絶対にタイムスリップ出来ないか。」
美夜の言う通り、現時点で公的に過去へタイムスリップ出来るのはPPと研究者くらいだ。それ故に、PPになるのは難しい。
「やっぱり、PPになるための学校は一般学校と比べて特別なんだなって。寮生活もそうですし、今聞いた学校の話殆ど一般校じゃありえないっすよ。」
「私が知ってるのは、月見ヶ丘中学校一位の一ヶ瀬さんとか。」
「ああ、あの人ね。」
腕の痛みを思い出し、露骨に嫌な顔をしてしまう。
「他にも有名校の上位の人は、PPに興味ない人でも皆知ってますよ。」
「PPは良くも悪くも目立つからね。」
美夜はうんざりした様子で紅茶を飲む。そして、思い出したように声を出す。
「そう言えば、さっきの不良達大島さんがどうのこうのって言ってなかった?」
新開さんは斜め上を見て思い出そうとする。
「全然覚えてないっす。」
「私もです。」
2人とも申し訳なさそうな顔をする。
「間違いなくではないけど、言ってたような気がするなぁ…、くらい。」
かなり自信がないので、曖昧な返事になってしまう。
「大島って名前に心当たりはない?」
「大島…、大島…。私のクラスに大島君はいますけど。」
中学一年生がさっきの不良のボスなわけはないだろう。
「多分違うだろうね。」
ですよね、という顔を二人ともする。
「何か情報収集したいけど、そういうのに詳しそうな人って…、あ。」
美夜は何か思い当たったようだ。
「誰か心当たりがあるの?…あ。」
美夜と顔を見合わせ、渋い顔をする。
貴船美々。
彼女なら、何か知っているかもしれない。
◯四月七日 昼休み
「話の流れから察するに、大島普の事かと思います。」
昼休みに、教室で美々に昨日の出来事を説明すると、直ぐに推測を提示した。
「何者なの?そいつ。」
「端的に言えば、この辺りの不良集団のボスといったところです。東海高校3年生で、一連の事件を指示してる可能性もあります。」
「何でこんな事をやってるんだろう?」
「それは私も分かりません。」
昨日、新開さんと芳川さんに絡んできた不良のボスが大島で、そいつが最近学生に喧嘩を吹っかけるように指示している。あくまで可能性だが…。
「そいつに聞けば何でか分かるかも。」
美夜と目を合わせて頷く。
「でもどうしようか…。」
美夜は腕を組んで思案する。
接触する方法は、強引なものはいくつか思い付くが、自然なものは思い付かない。
「美々が知り合いだったりしないよね?」
「まさか。」
そうなると、足を使っての調査しかないか。
「ありがとう美々。でも、何でそんなに情報通なの?」
「SNSを使えば近辺の情報収集は可能です。」
迂闊にSNSは始められないなと改めて思う。