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帰省  作者: John
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親友 思い出の回想

目を覚ますと時刻は10時45分を指していた。本を読んで夜を更かし就寝が遅くなったのと電車に揺られ疲れていたのもあったのだろう。それらの理由を差し置いて長年寝付き慣れたベッドのマットがふかふかだったのが心地よい眠りを誘発し遅い目覚めに繋がった。ベッドからリヴィングに向かうとデニスは読書、アンは観葉植物の鉢植えの手入れをしていた。シャーリーが「おはよう」と言うとデニスとアンも「おはよう」と返した。「昨晩は遅かったのかい?」とアンが聞くと「昨日、貰った本をちょっと読んでたらね」とシャーリーは言った。デニスは黙々と読書をしているが読んでいる本を見てシャーリーが唖然とする。「父さん、また『怒りの葡萄』読んでるの。あたし、父さんがその本を読んでるの10回以上は見た事あるわ」デニスはぶっきらぼうに「おもしろいもんはおもしろい」と言い放ち読書に集中する。アンはその様子が滑稽だったのか一人クスクスほくそ笑んでいる。もう、こんな時間なのでブランチになってしまった。シャーリーはキッチンでトーストと昨日の残りのシチューを食べる準備をする。アンが気を利かせて三人分のドリップコーヒーを入れてあげる。トーストが焼けあがりシチューも温もり皿によそう。コーヒーをアンが入れてあげるといい香りに包まれた。デニスにコーヒーを渡すとシャーリーが食事している対面に腰を掛けコーヒーを啜る。「今日は何時頃出掛けるんだい?」「そうね。17時か18時くらいかしら。母さん、あたしに手伝う事あったら遠慮無く言ってちょうだいね」「ああ、そんなに気を遣わなくてもいいんだよ。ゆっくりしてお行き」ブランチを食べ終えるとシャーリーは少し自分の部屋で読書に耽る。40分くらいしてから母は何かを強制してくる事はないと解っていたので自発的に掃除機を掛ける。「おや、掃除してくれるのかい。済まないねえ」とアンが有り難そうに言う。リヴィング、キッチン、父の書斎、両親の寝室、自分の部屋、最後に妹の部屋を掃除した。妹の部屋に入るのは4年ぶりくらいだろうか。あまり物が散乱していない部屋。ベッドに洋服箪笥、勉強机、その横にテニスラケットとシューズが立て掛けられてあった。そのテニスラケットとシューズを見てシャーリーは16の時に家族みんなでエイミーのテニスの大会に応援に行った事を回想した。エイミーはシャーリーと違って運動能力に優れ闊達な少女だった。シャーリーは喘息の持病があり医者からはスポーツはしないように釘を刺されていた。なので読書と勉強に勤しんでどちらかというと内向的な少女だった。シャーリーとエイミーは年子でみんなで応援に行ったその大会はエイミーのテニスのキャリアで最も優秀な成績で終わったものだった。ノースダコタの州大会でエイミーはベスト8まで勝ち残っていた。州都のビスマークでベスト4に勝ち残る大会は催された。シャーリーはそんな活躍目覚ましいエイミーを見てジェラシーを感じつつ羨望の眼差しを向けていた。だが、それは嫌悪から来るものではなく自分に持ってない才能をエイミーがただ持ち合わせていたというだけの事であった。皆で声が枯れるほどの声援を送ったが僅差で敗れた。その惜敗に涙を流して悔しがっていたエイミー。妹が明けっ広げに感情を爆発させたのはその時が最初で最後だった。その後の大会はベスト32の壁を超えるのが精一杯だった。なので、あのみんなで応援に行った大会は尚更鮮明に覚えている。そんな昔の思い出を回想していたら軽い喘息の発作が出てきた。おそらく埃を吸引した事で出てきたのだろう。掃除機を片付け拡張剤を吸引しに部屋に戻る。吸引して15分くらい座っていたら少し楽になってきた。キッチンでアンがTVを見ていた。「母さん、ちょっと紅茶を入れてくれないかしら」紅茶は喘息の症状を緩和してくれる作用があり子どもの頃に発作が出てきた時にはよく母が入れてくれた。アンはシャーリーの表情を見てすぐに察知する。「発作が出たんじゃないのかい。ほら、ここにお座んなさい。すぐに入れてあげるからね」アンが紅茶を入れて、その中にたっぷりと蜂蜜を入れてシャーリーに差し出す。「シャーリーがゆっくりと飲むとさっきより随分と楽になった。「大丈夫かい?」とアンが心配そうに尋ねる。「ええ、母さん、ありがとう。さっきより随分と楽になったわ」「そうかい。それは良かったわ。父さんはバッファローの交配の件でちょっと出掛けたわ。ジェニファーの家にはどうやって行くんだい?」「ジェニファーが車で迎えに来てくれるから大丈夫よ。ちょっと出掛ける準備をしてくるわね」と言って部屋に戻る。着替えやタオル、歯ブラシなど必要なものだけ昔使っていたショルダーバッグに詰め込みいつ迎えに来てもいいように玄関に置いておく。時刻は16時30分を回っていた。キッチンに戻るとデニスが早速、昨日シャーリーが手渡したニット帽とマフラーを着用して帰って来たばかりだった。アンはアッサムのミルクティーを入れていた。「シャーリー、もう一杯飲んでお行き」デニスが嬉しそうに「アルがなかなか似合っている帽子とマフラーをしてるじゃないかって言ってくれてね」と娘からのプレゼントを重宝している。三人でティータイムを過ごしていたら電話のベルが鳴った。アンが受話器口に出ると「ちょっと待ってね」と言って「シャーリー、ジェニファーからよ」と言った。シャーリーが受話器を取ると溌剌とした大きな声で「シャーリー、あたし。今から家を出るから5分くらいで着くからね」と言いシャーリーが「解ったわ」と言い終わらぬうちにジェニファーは受話器をがちゃんと置いた。ジェニファーらしいわねとシャーリーは思いながらキッチンに戻りミルクティーを飲み干した。5分きっかりに玄関の呼び鈴が鳴った。またしてもジェニファーらしいわねと思う。シャーリーとともに昔よく家に遊びに来ていた娘を一目見ようとデニスとアンもやって来た。「おじさん、おばさん、ご無沙汰しています」とジェニファーが畏まって会釈する。そこに立っていたジェニファーは昔の面影とは少し様相を呈していた。アンが少し寛容敵な言い回しで「あら、ジェニファー、ちょっとふっくらしたんじゃないかしら」と言った。ジェニファーは笑って誤魔化した。「それじゃ、父さん、母さん、行ってくるね」「二人とも気を付けてね」「それじゃ、おじさん、おばさん、失礼します」シャーリーとジェニファーがジェニファーのトヨタのカローラに乗り込む。車に乗り込むなりシャーリーが「ジェニファー、またちょっと太ったんじゃないの」と聞く。明らかに2年半前に帰省した時に再会し喫茶店でコーヒーを飲んだ時よりも5kgは増えている。ジェニファーは「ちょっとね、ほんのちょっとだけよ」とちょっとと言うワードを強調しつつはにかんで言った。「幸せ太りなんじゃないの」「シャーリー、それはちょっと違うわね。ア ル コ ー ル。俗に言う酒太りって奴よ」とジェニファーは小悪魔のように言った。「下心見え見えって客が来てストレスになっちゃうのよね。そのストレスの捌け口がアルコールって訳。ちょっと買い物してから行くわね」と言ってジェニファーは車を走らせた。5分くらいで着いた場所は町で昔からストラスバーグ夫妻が食料品や日用雑貨を個人で営んでいる商店だった。その商店はシャーリーやジェニファーも子どもの頃からよくお遣いに行っていた店だった。店内に入り冷えたカンビールをジェニファーが1ダースカートに放り込む。「ジェニファー、あたしこんなに飲めないよ」「任せておいて。そこはあたしがどうにかするから」完全に飲む気満々のジェニファー。冷凍ピザ、ポテトチップス、プレッツェル、チョコレートとジェニファーが放り込んでいく。「こんなもんかな」とジェニファーが言いレジで会計を済ませようとする。「おや、クレインさんとこのシャーリーとマクダーモットさんとこのジェニファーじゃないのかい?」ミセス ストラスバーグがびっくりしたように言う。「こんばんは、ストラスバーグさん。すっかりご無沙汰しています」シャーリーとジェニファーが改まって言う。「まあ、暫く会わないうちに立派なお嬢さんになって」昔の馴染みの客との再会を喜ばしく思うミセス ストラスバーグ。「今日は家に帰って来てるのかい?」会計をしながら聞くミセス ストラスバーグ。「はい、そうなんです」とあどけなく答えるジェニファー。最後のチョコレートをミセス ストラスバーグは「これはおばさんのおまけ」と言って会計には入れなかった。シャーリーとジェニファーは「おばさん、それは」と意見を唱えたがミセス ストラスバーグは「いいの、いいの。持ってお帰りなさい」と突っぱねた。「おばさん、ありがとうございます」とシャーリーとジェニファーが申し訳なさそうに言う。ミセス ストラスバーグは「あんた達、頑張んなさいよ」とエールを送り見送った。車に乗り込もうとした時には先ほどまで斜日だったのが地平線に沈みとっぷり日が暮れていた。ジェニファーの家に着くとジェニファーの母がリヴィングで大きな笑い声を出してTVを見ていた。この家にはジェニファーの母が普段は一人で暮らしている。ジェニファーには歳の離れた兄がいるが現在は結婚してモンタナに住んでいる。父親は幼少の頃に病気で亡くなったとシャーリーは聞いているが詳細のところまでは知らない。家からファーゴへの通勤も冬場の積雪の時に大変なのでファーゴにアパートを借り一人暮らしの母を気遣って頻繁にバッドランズに帰ってきていた。リヴィングを通る際にジェニファーの母に「こんばんは、おばさん。ご無沙汰しています」と言う。「あら、シャーリー。こんばんは。暫く見ないうちに素敵なお嬢さんになったわね。それに比べてうちのジェニファーったら肥える一方よ」「もう、母さんったら一言多いんだから」とジェニファーが機嫌を損ねる。「おばさん、今夜は一晩お邪魔します」「然程構ってやれないけどゆっくりしていってね」とジェニファーの母は言った。ジェニファーの部屋に入ると「先にシャワー浴びておいでよ、シャーリー。シャンプーとボディソープは適当に使ってちょうだい」と言ってビールを冷蔵庫にしまいに行く。シャーリーは言われたままに着替えやタオルを持って風呂場に行く。15分くらいで上がるとジェニファーが少し部屋を片付けていた。「ドライヤーは勝手に使ってちょうだい。あたしもちょっとシャワー浴びて繰るからくつろいでいてちょうだいね」と言い残し風呂場へ行った。髪を乾かし床に積み重ねてあるアメコミの『デアデビル』の一巻目を抜き取りページをパラパラと繰る。シャーリーはコミックと言う類の本は読まないが意外とおもしろいなと思った。ジェニファーがバスタオルで髪を拭きながら脇には冷えた缶ビールを半ダース抱えて戻って来た。シャーリーがドライヤーを手渡すと手短に髪を乾かした。ピールを一本シャーリーに手渡し「じゃ、再開にかんぱーい」とジェニファーがゴクゴクとビールを流し込んでいく。そんなジェニファーを見ていたらギリシア神話に登場する女戦士アマゾネスを彷彿させ我が頼もしき親友とシャーリーは思った。何だかハイスクール時代の修学旅行のような気分に舞い戻った気がした。ジェニファーはクラスのムードメーカーみたいな女の子でクラスの男子や女子から人気があった。体質が弱く内気なシャーリーを気遣ってクラスの行事などに積極的に誘ってくれていたのがジェニファーだった。そして二人はいつしか無二の親友となった。「もう出来てると思うからチョット待ってて」とジェニファーが部屋を後にする。2、3分して「シャーリー、扉開けてくれる」と部屋の前でジェニファーが言った。シャーリーが扉を開けるとボンゴレのクリームパスタと先ほど買った冷凍ピザを盆に載せてジェニファーが持って来た。「母さんが作ってくれたから食べてってちょうだい」「うわー、美味しそう。ありがとう、ジェニファー」とシャーリーは感激する。テーブルに並べてビールを飲みながら食事する。話題はもちろんジェニファーの彼氏の事。「どこで知り合ったの。そのルークって彼と」「ファーゴのバーで一人で飲んでたラサ、ルークも一人で来ててね。それで彼ったら何て言ったと思う?」「えー、そんなの解んないよ」「『友人と約束してたら急に来れなくなっちゃってね。金曜の夜だっていうのにさ。こんなにか弱い僕をこんな怖そうなおじさん達が一杯いるバーに独りぼっちにしようとするんだぜ。だから僕よりも強靱そうな君、僕の事守ってくんない?』って彼ったら言ったのよ。後から聞いたんだけどさ、その友人との約束ってのも出鱈目だったのよ。でもね、その時の彼がキュートで話もおもしろくてね。それで連絡先を交換して付き合いだしたって訳なのよ」「おもしろそうな人なのね。彼は」「そうなのよ。ちょっとふざけたような一面もあるんだけど仕事の製板工場でも真面目に務めていて誰からも好かれるしなによりもあたしにやさしいのよ」とジェニファーは惚気てみせた。シャーリーは無二の親友の幸せを共感し嬉しくなった。「来年には式場が決まれば挙式しようとおもってるからシャーリー来てちょうだいね。メアリーとルシンダも呼ぶつもりよ」「ええ、もちろん呼ばれなくても駆けつけるつもりよ。メアリーとルシンダも暫く会ってないなあ。スチュアート ケイシーは呼ばないの。彼はさぞ残念がるでしょうね」とシャーリーは悪戯っぽく言った。「え、何それ?何の話をしてるの」とジェニファーが不思議そうに尋ねる。スチュアート ケイシーはシャーリー達と同じクラスで小太りでにきびが多くておまけにあばたの痕跡が顔中に残っていた。スチュアート”ザ クレーター”ケイシーと言う異名を誇っていた。クラスの女子の人気ランキングでも断然、万年最下位を独走していた男子である。そして、いつも彼は汗臭かった。「実はね、あたし、彼からジェニファーに告白するのを手伝って欲しいって頼まれたの。ジェニファーが彼の告白を拒むのは目に見えていたし彼が振られるのも可哀想だったからあたしジェニファーには意中の人がいるみたいだから止めておいた方がいいわって言ったの」「えー、そんな事あったの。悪いけど何かあたしさっき食べたピザ戻しそうになってきちゃった」とリアクションするジェニファー。シャーリーが缶ビールを2本目を開けようとする頃にはジェニファーは4本目を飲み終えたところだった。残りの半ダースをジェニファーが取りに行く間にシャーリーも手洗いに立った。手洗いを済ませジェニファーの部屋に戻ろうとしたらリヴィングからジェニファーの母の笑い声がした。ちょっと立ち寄って「おばさん、晩御飯ご馳走になりました。美味しかったです。明日は朝早くに帰るつもりなのでお目にかかれないと思いまして。おばさん、おやすみなさい」と言った。「あら、そうなの。気を付けて帰るんですよ。また、遊びにいらっしゃいね。おやすみ、シャーリー」と返した。シャーリーが部屋に戻るとジェニファーは食べ終えた食器を片して菓子の袋を開封していた。夜はまだこれからよといった体勢を整えていた。ジェニファーがファーゴのレンタルビデオ店で借りてきたケヴィン ベーコン主演の『フットルース』のVHSを見ようと言ってきた。ビデオを見ながら「シャーリーは誰か思ってる人はいないの?」とジェニファーが尋ねる。「うーん、そんなに意識して男の人を見た事ないからなあ」「シャーリーは昔から内気だもんね」二人で昔の思い出や最近の身の上の話などしながら鑑賞していたら深夜1時を回っていた。「そろそろ寝よっか」とジェニファーが言った。酔いも回って眠たそうだった。「あたしのベッド、ダブルだから一緒でいい?」とジェニファーが言った。「いいよ」とシャーリーは言ってジェニファーの横にちょこんと潜り込む。暫くするとジェニファーの寝息が聞こえてきた。親友の幸せそうな惚気話を聞いて嬉しかったし恋愛もその内には自分も経験するのだろうかなという淡い気持ちに包まれながらシャーリーはいつしか眠りに落ちていった。

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