2. これが恋というものか
(なっ…なんて美しいんだ。白いワンピースをまとい、フルートを吹いている。こんな女子僕は知らない。)
少女の後ろから朝日の光が放たれていたかもしれないが、その光景は、天界の女神のようで、僕の心を魅了した。
歌姫ではないがそれっぽい感じだ。
だが、そんな時間もつかの間、フルートの不快な音により現実へと引き戻された。
吹くのを止めてもらうのと同時に、彼女に接触しようと話しかけることにした。
「あっ、あの…」
「………」
「あのっ、もしもし」
「………」
(おいおい、聞こえてないのかよ…)
「すーいーまーせーんー」
そう言いながら僕は少女の肩を叩いた。
「わぁぁぁっっ、ごっ、ごめんなさい!聞こえなくて…」
少女は振り返り、焦りながら僕にあやまった。
ここで、僕も何か言うべきだったのは分かっていたのだが、少女が振り返った時、僕の心に何か大きな衝撃が起こり、声が出せなくなっていた。
「あの……大丈夫?」
「はっ、はいいいぃぃ!」
(やばい、声裏返った……恥ずかしい死にたい……)
「ふふっ…っっ…くっっ………あはっ、あはははは!」
(うわあ……かわいい……)
僕は恥ずかしさのあまりこの場から逃げだしたかった。
だが、少女が笑っている姿がとても愛らしく、目を奪われてしまったのだ。
「あははっ………ごめんごめんっ。いきなりそれは反則だって。ふぅ……で、なんか御用でも?」
「うん……あの…さ…、その…フルート吹くのやめ…」
「ん?フルート?」
「いや、その…ふっフルート歴何年ですか?」
(いや、吹くのやめてもらうんじゃねえのかよ自分!でも嫌な思いさせそうだし、嫌われそうだからこれでいいか。)
「あーフルート?昨日からなんだよ」
「昨日?!そうなんですね…」
「うん」
会話終了。コミュ力は高い方だと思っていが、彼女の前では言葉が上手く出てこない。
あぁ、全く情けねえ。
「君さ、名前なんて言うの」
彼女の方から話しかけてくれるとは。ちゃんとしろ俺!
「片桐亜津真です」ニコッ
よし、まあまあだな。俺の微笑みも決まったはず。
「あつまくんね」
「うん。あの…名前教えて貰ってもいい?」
「あ、私?私は花夏、榎野花夏」
「はなか、えのはなか……」
(えの、えの…榎野?もしかして…)
「えと…もしかして昨日引っ越してきた?」
「あ、うん。そうだよ」
「あのさ、俺の家の隣に昨日榎野さんが引っ越してきたんだけど、その榎野さんの家がさベージュ色の壁で、2回に丸い窓がある家なんだよ。もしかしてそう?」
もし、彼女が僕の家の隣の榎野さんなら、とても嬉しいことだ。こんなにも可愛い子がとなりにいるのだ。
たぶん、これからの毎日が輝かしくみえるのだろう。根拠はないが、そう思えた。
「あー!私と同い年の男の子が隣にいるって聞いたけど、あつまくんのことだったんだ」
「え、同い年?じゃあ中2か」
「うん、同じ学校だ。やったね」
隣の家の榎野さんだけでなく、歳まで同じとは思わなかった。
二学期からの学校には彼女がいるのだ。
この絶世の美女が。
そう思うだけで、心が踊った。
だが、心配なことがある。
それは彼女が絶対にモテるということだ。
こんなにもかわいい子を僕の学校の人が黙るはずが無い。おそらく、告白の嵐だろうな。
そして何より彼女でもないのに、自分が誰よりも早く彼女と出会ったという優越感に包まれて、勝手に嫉妬して苦しみそうな自分が怖い。
『自分の一方的な感情を相手に押し付けるのが恋。
相手を思いやり、相手を一番に考えるのが愛よ。
恋愛においては恋より愛を取りなさい。その方がきっとあっくんも、あっくんの相手の人も幸せになれるわ。』
昔、母がこう言っていたことを思い出した。
だが、僕が幼かったせいもあるが、当時は恋と愛の境界線など理解できなかった。
本当は、今の僕にも理解できていないのかもしれない。
でも、前に彼女持ちの友達とかに聞いたとき、半年もったら長い方だって言ってたよなあ。恋愛って難しい。
「ところで、あつまくんは何をしにここにきてるの?」
おっと、現実に戻ろう。悩むのは後だ。
「ああ、この丘に毎朝くるのが、俺のルーティンなんだよね」
「そうなんだ。実は私もなんだよね」
「えっ?でも、昨日引越してきたって……」
「なーんてね。うふふっ。面白いなあ」
ああ、なんて可愛いんだ。
こんな気持ち初めてだ。
これが恋というものなのか?
うん、これが恋だ。
絶対恋だ。
よし、じゃあ……ん?
これからどうすればいいんだ。告白?それともデート?
誰か、年齢=彼女いない歴の僕に教えてくれ。
恋など初めてで、僕はどうすれば良いのかわからなかったが、とりあえず彼女と話そうと一緒に帰ることにした。
彼女のワンピースが風でたなびいて、パタパタと小さな音を鳴らす。その音さえも僕には愛おしく感じられるのだ。
この音ASMRよりもいいなあ……
録音して寝る時に流せば良い睡眠がとれそうだ。
彼女はとてもよく喋った。僕はそれを「へぇー」とか「そうなんだ」なんて素っ気ない言葉でかえしていた。
変なこと言って嫌われたり、悲しませたりしないようにと思うと、どうしても素っ気なくなってしまうのだ。
そんなこんなで気づけばもう家の前。お別れだ。
「今日はありがとうな。お、俺、花夏と会えて良かった……」
恥っず!キザいセリフよくいえたな自分。
で、でもこれでちょっとはいい所みせられたな。
「うん!私もだよ。これからよろしくね。あっくん」
あっくんなんて反則だろ。
かわいいかよ……
「ああ、こちらこそ」
「じゃあね。ばいばい!」
彼女はそう言いながら僕に笑顔を向けた。
その笑顔は、僕の心の中で煌めきを放っていた。
面白とおもっていただけたらポイント、感想等よろしくお願いします。(より面白い小説を書きたいと思っています。改善点や反省点があればお伝えください。素直に受け止め改善していきます。)