プロローグ/目覚め
「……い。…まえ!…だい…ぶか……ったく…」
もうダメかな…。
「…か。いき…れで……かが………」
「めの……なれる…んがわ……か……える………うち……」
あ…一回で良いから腹一杯食ってみたかったな…
「わか…」
なんか浮かんでるみたいだオレやっぱ死ぬのか…
短い人生だったな…
はらへったなぁ…
はらへったなぁ……
はらへったなぁ………
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「栄養失調だな。とりあえず薬は投与した。そのうち目をさますだろ。」
「すまんかったな先生。いきなり来てもらって。」
「かまわんよ。しかしこの坊も幸運だな。お前さんの目の前で倒れるとは」
「拾ったのは若だよ。幸運なのは間違いなかろうがな。はっはっは」
ここはカティサーク家の一室
部屋にはゴツいおっさんが1人、メガネの初老の男が1人。
そして飼い犬となったばかりの薄汚れた野良犬だった少年がいた。
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「ここは…?オレ死んだ…んじゃ…?」
「起きましたか?」
横からの声に首を傾ける。
メガネをかけたつり目にキツい感じを受ける黒の服に白のエプロンをつけた女の人がそこにいた。
「ここはカティサーク家の医務室です。あなたはこのカティサーク家に拾われました。名前は言えますか?」
「ノブナガ」
「ノブナガですか。意識ははっきりしているようですね。食事を用意してます。起きれそうなら食べなさい。」
「はい…」
差し出された皿を恐る恐る受け取り、ノブナガは口を付け皿のスープを飲んだ。
「…やはりスプーンの使い方も知らないようですね。これは教育が必要ですね。」
おいしい…おいしい…おいしい…
久しぶりに食い物を食ったためかむせそうになりながらノブナガはスープを飲んだ。
目の端からむせたことによるものか涙をにじませながらノブナガはスープを飲んだ。
流れる涙を拭くこともなく、ただただ飲んだ。
飲み干してからも、しばらく余韻に浸るかのように、涙を拭くこともなく皿を見つめていた。
「今はこれくらいにしておきましょう。起き上がれるようなら、あなたを拾った若様に御挨拶に参りますよ。」
「はい。ありがとうございました。」
食い物は食わせてもらったが、あきらかに金持ちか貴族様の屋敷だろうこんなところにオレの居場所などないだろうし、若様とやらの気まぐれには感謝しなきゃな…
トットットと一人分の足音をたてながら長い廊下をキツめの女の人と共に歩き、1つの部屋の前に着いた。
コンコンコンコン
「レインシアにございます。よろしいでしょうか」
「入れ」
4度のノックと共に入室の許可を得てレインシアはノブナガを連れ入室した。
「レインシアどうした。」
中にいたのは筋肉の盛り上がりがすごい威圧感のある笑みを浮かべたゴツいおっさん。
しかしさっきの声はまだ幼い感じの声だったが…
「ん?おぅボウズ起きたのか。若、拾ったのが来てますぜ。」
後ろを振り向いたおっさんの影に綺麗な少年が居た。
年は7歳くらいか?見事な金髪に切れ長のやや吊り上がった猫目。高そうな服を着た少年がオレの方を見た。
「ん。気まぐれだったとがなかなかいい拾い物かも知れん。おい。こいつの名は何という。」
「ノブナガと申します」
「ふむ…かなり痩せているが才能自体はあるようだ。侍従見習いででもおいてやれ。」
「承知しました。」
ノブナガ1人を置き去りにしたままノブナガの取り扱いが決まったようだった。
「待ってください。ここに置いてくれるんですか?」
「黙りなさい。直答は許可されていません。」
「っ………」
軽い威圧感に思わず口をつぐむ。
「かまわん。自分のことだ。直答を許可する。」
「おぉ〜こえ〜こえ〜ボウズこのねえちゃんには逆らわね〜方がいいぞ」
威圧感が消えると共に軽い口調でおっさんが忠告する。
「ノブナガ。どうやらお前には戦闘に関する才能があるようだ。当辺境伯家は国境の守護者。才能のあるものはいくらでも欲しい。実際に使えるようになるかどうかはお前次第だが、しばらくはここに置いてやる。礼儀作法や戦闘技術を仕込んでやろう。」
何が気に入られたのかよくわからないが、オレはここに置いてもらえるらしいことだけはわかった。
「あ…ありがとうございます。」
「何だボウズ!泣いてんのか!はっはっは」
「ごめんなさい…ごべんなざい…ごべ…あじだどうごじゃいまず…」
「かまわん。」
オレは生きられる…生きていられる…
ただただそのことが嬉しかった。