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揺れの原因、これか。
中々重たい剣を振り回すと、制御しきれずに地面着いてしまう。
それだけ。
たったそれだけで、空気が震えて近くの木が剣から放たれた風圧でへし折れてしまった。
「わぉ」
チャンバラごっこにでも使えるかな、なんておもったけど、こりゃダメだ。
「あちゃあ、折れちゃった」
スケさんが、へし折れてあらぬ方向に倒れた木を見ながら呟く。
「魔法剣?」
「さあ? 覚えてないからなんとも」
多分、魔法剣のひとつなんだろうなぁ。
それも、本来ならそれこそ博物館とか、研究所とかに収められるはずのブツだ。
あれかな、死者が冥府に行く途中で魔物を追っ払えるように短刀とか入れるけど、それなのかな。
スケさんの遺族が一緒に埋葬したんだろうなぁ。
今は火葬だけど、昔は土葬だったって聞いたことあるし。
あ、思い出した。
「デザインがめっちゃ伝説の聖剣っぽいんだ、この剣」
「エクステ?」
「なんか、有名な勇者が持ってたっていう、有名すぎる剣です。
美術の教科書かなんかに載ってた絵画に、似たような剣を持った勇者が描かれてて」
言いながら、携帯端末を取り出して、絵画の画像を検索する。
そして、出てきた絵画の画像をスケさんに見せた。
「これです」
「はー、この道具は本当に便利だ!
古の賢者以上の知識が詰まっている上、いつでも閲覧可能なんて!!」
えらく感動している。
携帯端末を開発、改良してきた人達が聞いたら泣いて悦びそうだ。
いや、スケルトンだから少し引くかな。
「たしかに、デザイン似てる。めっちゃ似てる。
ま、まさか、私が伝説の勇者?!」
「…………」
ノリがいいスケルトンの横で、自分はさらに埋葬用の魔物払いの短刀や武器について検索した。
小話として、その話はすぐに出てきた。
ネットの記事曰く。
一時的に、貴族、庶民問わず埋葬用の短刀のデザインを、有名な剣に似せることが流行ったらしい。
埋葬用には小刀もあるのだが、それも外側だけは、それなりに見えるデザインにしていたとか。
つまり、そういうことなのだろう。
見た目だけ聖剣に似せた、レプリカだ。
「ま、そんなホイホイ聖剣があったら有難みなんてないですよねぇ」
残酷な真実を告げると、スケさんがあからさまにしょんぼりしてしまった。
「ま、でも魔法剣なのはたしかだし。鑑定に出したらいい結果が出そうですよねぇ」
鑑定へのだし方わからないけど。
「あと、多分スケさんの御家族が入れてくれたのは確実だと思うので、そんなにガッカリするのもどうかと思いますよ」
「なってみたかった、伝説の勇者」
少し未練がましい言葉が聞こえた気がしたが、聞かなかったことにする。
いや、ちょっと待てよ?
「なってみます? 勇者?」
「へ?」
自分はスポーツバッグから、携帯ゲーム機を取り出す。
ふた昔前の機種だ。
そして、ゲームソフト。
伝説の勇者、その話をモチーフにして作られたRPGである。
対戦機能も、オンライン機能もない。
一人で遊ぶために作られたゲームである。
ストーリーを進め、敵を倒し、最終的には勇者となるゲームである。
それをスケさんに見せて、説明する。
スケさんはやりたそうにウズウズしていた。
本来なら目玉があったであろう、今は文字通り何も無い場所、そこから楽しそうな視線を感じた。
結果、スケルトンはふた昔前のRPGにどハマりした。
完全に沼に沈めることに成功した。やったぜ。