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自分に声をかけてきたスケルトンことスケさん曰く、名前も覚えていないということだった。
呼ぶのに困ったので、とりあえずスケルトンからとってスケさんとなった。
逆に覚えていることは何があるのか訊ねてみた。
「そうですねぇ。アナタがもっているその携帯できるゲーム、機械はなったですね。
チェスとかカードとか、そういったボードゲームならありました。
あとは、そうそう、このお菓子。
クッキーとかはありましたけど、こんな不思議な素材には入ってませんでした。
あとは、この水筒も。
自分がおぼえてる限りだと、中をくり抜いた瓢箪、竹筒、動物の胃袋や膀胱を使ったり、革袋、ガラスや壺なんかに入れて持ち運んでましたよ」
スケさんが興味津々に、自分が持参したコンビニやスーパーで売っている菓子袋を見ながらそう言った。
「良ければ一枚どうぞ」
骸骨がクッキーを食べられるのかは謎だったけれど、とりあえずそう提案してみる。
「え、いいんですか?
ありがとうございます。いただきます」
と言って、菓子袋からバタークッキーを一枚取り出すと、口に放り入れた。
そして、食べ始める。
口に入れたクッキーは、粉々になって喉あたりを通って恐らく胃があったであろう場所まで落ちたかと思うと、そのままボトボトと地面に落下していった。
つまり、ちゃんと食べられていなかった。
「…………」
「……甘くて美味しいです」
微妙な空気になりつつも、スケさんがそう言ってきた。
痛覚と味覚はあるようだ。
「麦茶飲みます?」
悪ノリしてる自覚はあったけれど、なんとなく見てみたくて水筒も勧めてみた。
「いただきます」
今度はベチャベチャと、地面が麦茶で濡れることになった。
「……えっと、それで、なんでアナタはここでゲームをしてたんですか?
学生なんでしょう?」
すでに簡単な自己紹介は済ませてある。
そして、スケさんのことはあらかた聞いた。
と、なると、今度は自分の番なわけだ。
「ゲームだけじゃなくて、漫画や小説も読んでました」
そう訂正しておく。
そして、続けた。
「ここにいた理由ですけど、学校に飽きたんでサボって遊んでました」
「えぇ、せっかく学べるのに勿体ない。
勉学が出来るなんて、貴族の出なんでしょう?」
本当、どれくらい古い時代のスケルトンなんだろう、この人。
「中学校までは義務教育なんで、身分関係なく学校行けるんですよ、今の時代は」
スケさんは感心しっぱなしだった。
そうして、話して分かったのは、スケさんは自分のことだけすっぱりと忘れているのか記憶が消えているのか、とにかく覚えていないということだった。
自分が人間だったということ以外、本当に覚えていないようだ。
それ以外のことは、それなりに覚えていた。
とは言っても、こちらも飛び飛びだったが。
そうして、話しているうちにあっという間に日が暮れてしまう。
「それじゃ、自分帰ります。
また明日」
食い散らかして、ゴミとなった菓子袋と広げたレジャーシートを片付け、カバン突っ込んで肩から下げる。
それからスケさんにそう言って、その場を後にした。
そんな自分の背に、スケさんの慌てたような声が届いた。
「え、明日もくるの?!」
言外に、学校へ行けと言われているのは明白だった。
まぁ、この遊びに飽きたら行く予定だ。
と言うよりも、それなりに行ってはいるので大丈夫だ。