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思った以上に、自分は墓地を気に入ったようだ。
路地裏でも畑でも田んぼでも工事現場も悪くは無いけれど、なんというか、本当に、これでもかというほど人の気配がしないのだ。
風に揺れる木々のざわめきに、程よい木漏れ日。
それまではなんだかんだ出ていた授業も、サボる日は出なくなっていった。
週に一回、二回だったサボりはいつしか週二回に固定され、そのうちの一回は完全に自主的に一日中休み、もう一回はそれまで通り半日で帰るようになった。
完全にクラスでも影が薄くなっていったけれど、誰もそのことを問い詰めようとはしなかった。
クラス担任も、一日丸々休む時は電話で連絡していたからか、あまり突っ込んでもこなかった。
体調悪そうな演技が功を奏しているのだろう。
まぁ、他の日はきちんと授業に出ているし、提出物も期限内に出している。
成績だって悪くない。
墓地で遊んでいたのは事実だが、この前の中間テストでは、クラス、学年ともに一位をとった。
生活態度さえよくしていれば、突っかかってこられないとは本当だった。
今日も今日とて、自分は先祖代々の墓の前にレジャーシートを敷いてゴロゴロと小説や漫画を読みふけり、ゲームをしていた。
積みゲーも、ようやく三分の一が消化されてきた。
しかし、まだまだ三分の二も残っている。
ピコピコと十字キーやら他のボタンやらを押しまくり、操作する。
時折、ついつい熱中しすぎて口が悪くなってしまうが、それを咎める人は、ここにはいない。
「くそっ、硬ぇ!」
現実なら、勇者が活躍したとされる時代から続く冒険者にでもなればできるモンスター討伐。
それをゲームである意味お手軽に経験出来るのだから、楽しい。
こういったジャンルの娯楽は荒唐無稽で、楽しいに限る。
それでも、中ボスくらいになってくると中々手強い。
やはりもう少しレベルを上げるべきだろうか。
「むむぅ」
水筒に口をつけて麦茶をガブガブ飲む。
唸りながら、攻略のための戦略を練る。
攻略サイトに行けば倒し方が載っているのだろうけれど、自分はそういったところはあまり利用したことがなかった。
だから、今回も利用しないでクリアしようと必死だった。
さて、どうやってこの中ボスをぶっ殺そうかと考えを巡らせていた時だ。
トントン、と小枝が肩に当たるような感覚を覚える。
「?」
風に飛ばされた枝でも落ちて来たんだろうか?
そう思って振り向く。
すると、ボロきれに身を包んだ骸骨がすぐ側にいた。
「…………」
「……あ、あの」
骸骨から声のようなものが漏れた。
「あ、アンデッドだーー!!??」
しかし、それよりも自分の叫びの方が大きかった。
骸骨のモンスター、スケルトン。
それがボロきれを纏って、自分の肩を叩いたのだ。
パニックにならずにいられるだろうか。
熊やキラーベアも怖いが、至近距離の骸骨もなかなか迫力があって怖かった。
「ち、ちょっと落ち着いてくださっ」
「ぎゃあああ?! 喋ったーーーー???!!!」
持参した水筒を投げつけ、近くにあった小石や小枝を投げつける。
「いたっ、痛いっ! ちょ、物を投げつけるのをやめてください!!」
スケルトンが慌てて、しかし、投げつけられている小石とかから逃げるように避けながらそう言ってきた。
「わ、わたし、スケルトンじゃないですよ!
に、にんげん、ですって!!」
そう言って、持っていたらしい鞘に収まった刀剣を地面に置き、両手を上げて危険性が無いことを示してくる。
「え、人間?
嘘だ! 人間は骨になってまで動くことなんてない!!」
言いつつ、自分は自称人間のスケルトンを見た。
たしかに、地面に置いた刀剣以外は武器らしい武器を持っていないように見えた。
そもそも最初から襲う気なら声なんてかけなくて良かったはずだ、と気づく。
すぐ近くまで彼? 彼女? とにかくこのスケルトンが来ていることに自分は気づいていなかったのだから。
「そ、そうですけど、その通りですけど、人間なんですって!
どうしてこうなってるのか、自分にもわからなくて」
不気味な骸骨から漏れてくる声は、既に涙声だ。
骨だから涙なんて出ていないけれど。
そこで、ようやく自分は物を投げるのをやめた。
「……わかんないって、あんた、どこの何さん?」
それでも、いつでも反撃できるように、小石は手放さない。
いざとなったら、ばあちゃんに教わった戦い方で、このスケルトンの骨を粉々にしてやる。
「え、あ、ごめんなさい。自分が人間だったってこと以外、思い出せない、です」
謝られても困る。
「……人間ってことは、この墓地で寝てた人?」
「たぶん、そうなんじゃないかと。
私、起きてすぐにフラフラしてたんで、どこで寝てたかは覚えてないんです」
ダメじゃん。
骸骨がしょんぼりと言ってきて、自分は即座に口には出さなかったけれど、そう突っ込んだ。