表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/16

 水筒に麦茶を入れる。

 次にスポーツバックも引っ張り出してきて、そこにコッペパンと麦茶の入った水筒、それと菓子を突っ込む。

 虫除けスプレーと、レジャーシートも準備する。

 もちろんゲーム機と読みかけの小説も忘れない。


 「こんなもんかな?」


 軽くチェックして、スポーツバックを肩から下げる。

 そして、家を出た。

 山の中にある墓地までは徒歩二十分ほど。

 学校までが一分なので、およそ二十倍の時間がかかってしまう。

 二十倍だ。

 きっと都会の人なら目玉が飛び出るほど驚くに違いない。

 墓への道は、主に二つ。

 自分の家の裏手から山に入る、登山コース。

 もう一つは、整備された道路から行くコース。

 所要時間は変わらない。

 違いは、車で行けるか行けないかだ。

 今の時期は恐らく心配はないが、念の為に腰にくっつけた熊モンスター避けの鈴がチリンチリンと、自分が歩く度に鳴っている。

 冬になると、普通の熊に混じってキラーベアなるモンスターが出るのだ。

 キラーベアとは、この辺に生息する普通の熊の二倍近い大きさのモンスターだ。

 気性は荒い。縄張り意識が強く、自分のテリトリーに入ってきたモノには見境なく襲いかかる習性がある。

 熊はともかく、キラーベアは音に誘き寄せられてくるんじゃないかって?

 どうなんだろう?

 少なくとも、熊と同じでキラーベアも人間に歯向かえば痛い目を見ることを知っている。

 なによりも、己と相手のテリトリーを明確に区分している節がある。

 代々それが受け継がれているらしく、山に餌が無くならない限り、この季節に人里へ降りてくることはない。

 少なくとも、この辺はそうだ。

 さて、自分が選んだコースは前者の登山コース。

 人目に付きにくいからだ。

 さすがに、寝巻き代わりのジャージ姿とはいえ車が通る道を歩いて、万が一にも大人に見つかったら元も子もない。

 プラスして、山菜が採れる時期ともズレていて、地元の人も使う登山コースは人と出会うことも少ないだろうし、万が一鉢合わせしてもすぐに薮の中に隠れられるという利点がある。

 けもの道として、道はたしかにあった。

 そこを、ずんずんと進んでいく。

 木漏れ日と、鳥だかモンスターだかわからない鳴き声が響いている。

 

 やがて、墓参りの人用に整備された駐車場に出た。

 予想通り、車なんて一台も停まっていない。

 そこを横切って、墓地へと向かう。

 墓地はいくつかのエリアに分かれている。

 古い順に、大昔の集落ごとの共同墓地のエリア。

 次に、各家庭の先祖代々の墓地エリア。

 そして、一番新しい墓地エリア。

 一番新しい墓地エリアは、家としての墓ではあるが要は個人の墓だ。

 駐車場から一番遠い、つまりは奥まった場所が一番古い共同墓地のエリアである。

 石畳が敷かれた道を、自分は黙々と歩いた。

 自分が向かうのは、二番目に古い先祖代々の墓のエリアである。

 たしかに、書き込みにあったようにとても静かだ。

 人の気配もそうだけで、モンスターの気配すらしない。

 虫と、鳥の気配の他は、近所で飼われているらしい首輪つきの猫とすれ違ったくらいだ。

 山の中にあるため、木々がいい感じに日陰になってくれるから、過ごしやすそうだ。

 

 数分もせずに、墓にたどり着いた。

 自分の家の墓まで行き、墓石を背もたれにピクニックよろしく持ってきた荷物を広げる。

 さて、ゲームをするか小説を読破するかそれが問題だ。

 そよそよと風が吹いて、心地いい。

 昼寝をするのも良いなぁ。

 少し離れた薮が風に揺れるのか、それとも猫が行き来するためか時折ガサガサと音を立てる。

 そういえば、墓地はモンスターに荒らされないように特別な魔法がかけてあるってきいたことあるな。

 なんて考えつつ、墓の前に敷いたレジャーシートに寝っ転がりゲームの電源を入れた。

 そして、セーブをしていた所から再開した。


 どこからか視線を感じたけれど、猫かなと考えて自分はゲームに集中した。

 そして、ゲームをしながらぼんやりと思い出した。

 この墓地、それも共同墓地よりもさらに奥にも墓があるのだが、そこもうちの墓だ。

 墓というよりも石碑だろうか。

 文字は潰れて読めないから、誰の墓かは傍目にはわからない。

 死んだ爺さん婆さん曰く、ここに引っ越して開拓した初代様の墓、ということらしかった。

 大昔、それもその初代様がここに初めて訪れて開拓をしたからか、祖父母の代までは、うちは大地主だったらしい。

 でも管理やら諸々が大変で、祖父母の代から少しづつ土地を手放していった。

 今は父さん母さんの代だが、畑仕事より外に出た方が稼ぎがいいからと、兼業農家へとシフトチェンジした。

 残った土地も、やはり少しづつ手放して行っているようだ。

 とにかく管理が大変なので、自分の代では必要最低限な野菜を作れる畑だけを残して、あとは手放す可能性もある。

 そうそう、その初代様の墓だけど、自分が生まれる何年も前に勇者の墓を探そうというブームがあって、その候補に上がったらしい。

 テレビが取材に来たこともあったとか。

 祖父が面白がって、取材を受けたらしい。

 結局、勇者が活躍したとされる時代と同年代の墓である可能性は高いけれど、所詮は開拓村の農民の墓だ。

 他の有力候補の墓の引き立て役にされて終わった。

 でも、それだけ古いものだということは証明されたので、それはそれで良かったのかなとも思う。

 掃除が大変だけど。

 どうせな先祖代々の墓と一緒にしてくれた方が、子孫である自分は墓参りの手間が省けて嬉しい。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ