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終末の拝み屋 2

作者: あずびー
掲載日:2019/10/19

 終末の世界。崩壊した街並みで、病に苦しむ男が横になっている。

集落なのか、周りに数人の人間はいるが、医者はいない。

苦しむ人の横で、女性が泣きながら介抱するように、身体をさする。

平和な時代だったら、普通に病院と薬があり、ここまで苦しむ事はないだろう。

男が寝ている部屋に、七人の修行僧が案内されるように入って来た。

身なりはボロボロだが、その内の六人は屈強な体つきをして、腕に巻き付けるように、長い数珠を持っている。

一人だけが華奢で小さく、表情が分からない程の、大きなフードを被っていた。

六人の僧が、病人を取り囲むように立ち、読経を始める。

祈祷だ。科学、医学が発達したあげくの核戦争。人々は宗教に最後の願いを託す。

読経が響き、部屋の空気を変えていく。

一種の催眠状態になるのだろう、苦しんでいた男の表情がやわらいでいく。

 「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ」

フードを被った者がマントラを唱え、印を結びながら男の枕元に近づいた。

フードのポケットから壺を出し、中から紙包み取り出した。包みを男の口へと運び、水と一緒にのませる。

 「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ」

再びマントラを唱えられた後、六人の僧が一斉に読経を奏で始める。

崩壊した街並みに読経が響く。

屈強な男達が奏でる読経の中に、澄んだ声の読経が重なる。フードを深く被った僧の声だ。

太く響く読経の中で、一段高い音源を響かすように、澄んだ読経が街並みに流れる。

集落の人々が、涙をにじませながら、この読経に聞き入っている。

身体の病、心の病を癒す読経。

先程まで病で苦しんでいた男が、静かな寝息を立て、眠りに就いていた。

華奢な僧は、壺から先程と同じ紙包みを取り出し、女性に渡す。

女性は何度も何度も頭を下げ、出ていく僧達を見送る。

華奢な僧を囲むように、七人の僧が廃墟の街を後にする。

 「私には、一時的な安楽しか与えられない」

華奢な僧がポツリとつぶやいた。

 「何を言う、一時的でも彼らは救われている」

 「そうだ。皆、薬師様の読経を聞いて、一時的でも未来に希望が持てる」

足を止めた僧達が、華奢な僧「薬師」を励ますが、薬師はうつむいたまま、身体を震わせた。

 「でも、この世界に未来はあるのでしょうか」

薬師の涙が頬をつたい、地面に落ちた。 

 「大丈夫、あなたのような人がいる限り、未来はあります」

一人の僧が薬師と視線を合わすようにかがみこみ、薬師の頭をなでる。

 「信じましょう、未来を」

僧達は、廃墟の街を出、夕日が沈む次の廃墟へと足を速めた。





瓦礫が散々する崩壊した街を、五人の人影が走る。

その後を追うように、十人以上の人影が続く。

五人の人影が、後方の人影の視界から消えた。

崩れかけの建物の中に身を隠したのだ。

 「こっちだ!」

野太い声が響く。追っての方は暴力の匂いを身体に纏わせながら、五人の人影が消えた瓦礫付近にやってきた。

 「いたか?」 「いや、いない」 「くっそ! 何処へ隠れやがった」

瓦礫を蹴飛ばし、放り出しながら、追っての男達は四人の行方を探す。

    ガタン!

奥の廃ビルで、物音がした。

 「あすこだ!」

十人以上の男達が、一斉に音がした廃ビルへと走り出した。

 「薬師様、お逃げください!」

瓦礫の山から、一人の男が飛び出してきた。腕に数珠を巻き付けた僧侶だ。

 「マコラ! 駄目!」

澄んだ声が引き止めるが、男、マコラは追っ手の前へと姿を現す。

 「薬師様、今の間にあすこから外へ」

 「しかし、マコラが!」

動こうとしない薬師を、横にいた男が抱き上げ出口へと走る。

 「クビラ! マコラを放って行けないわ!」

 「駄目です。マコラの覚悟を無駄にしないで下さい」

 「でも! マコラが! 」

 「あなたは、この世の光なのです。奴らにあなたを奪われるわけにはいかない」

薬師を抱いたクビラの左右を、残り二人の男、アンテラとハイラが護るように出口へと向かう。

ハイラが先に出口へと回り込み、辺りを確かめてから先に外へと出る。周りの気配を探り、人がいないのを確認して、クビラへ合図を送る。

薬師を抱いたクビラが外へ出て、最後に後ろを警戒しながらアンテラが出てきた。

    ヒャハハハハハハハ!!!

頭上から笑い声が響く。四人が見上げると、五階の壊れた窓に大きな人影が見えた。

    ドスン!!

男は躊躇する事なく、五階から飛び降りてきて、四人の前に立ちはだかった。

大きな男だ。クビラ達も大きい方だが、この男は彼らよりも二回りは大きい。

 「鬼ごっこは終わりだ。そいつを渡せ」

 「薬師様を、おまえらには渡さん!」

 「ヒャハハ!  だったら奪うまでよ。 ノウボ・タリツ・ボリツ・ハラボリツ」

 「そのマントラは!」

 「オンシャキンメイ・タラ・サンダン・オエンビ・ソワカ!!」

晴れた空から、大男へと突きさすような光が走り、雷が落ちたような地響きが起きた。

大男が自ら光を発しているよに、身体全体が光に包まれる。

 「大元帥降纏術だいげんすいこうてんじゅつか?!」

 「さすがは十二神将、よく知っているな」

 「くそっ!  オン・クビラ・ソワカ」

地に薬師を降ろし、クビラが印を結ぶ。続いてアンテラ、ハイラもマントラを唱え始める。

 「無駄だ! 神将ごときの力、しかもおまえらは三人しかいないではないか! ワハハハ!」

 「神将をなめるな!!」 

 「うるさい! 小物が!」

天から再び光が落ち、地上からも違う色の光が放たれる。

光と言っても電気で照らされた光りではない。あくまでも光りと表現しているだけで、現世の光ではない。

天からの光りが、明滅するように激しくスパークした後、何事も無かったかのように静けさが訪れる。

静けさの中で、ヒャハハ! という下卑な笑い声だけが響き、フェイドアウトしながら遠ざかって行った。




 四輪駆動の車が瓦礫を拭いながら走り抜ける。

車内には運転をしている男の姿しか見えない。

男に行き先があるわけでは無さそうだ。ただ走っている。

目的を持っているわけでもない、ただ走っている。

ガソリンスタンドを見つけてはとりあえず補給する。この時代、ガソリンスタンドが営業しているという事はない。自分でくみ出し補給する。ポリタンクにも予備のガソリンを補充しておく。

そうやって男、宥英ゆうえいはここまで走ってきた。車は先の獄迦宗との争いで、集落を護った時にもらった車だ。

車が、かつて賑やかだっただろうと思われる、廃ビル群に差し掛かった時、助手席にふわりと降りてくる気配を感じた。

 「どうした?」

車を止めた宥英は助手席に声を掛けた。

助手席には十歳前後と思われる、ピンクのワンピースを着た少女が座っている。

少女は窓から見える、遠くの景色を見ていた。

宥英も同じ方を見て確認すると、視界の遠くで争う男達が見えた。

 「わずらわしいのゴメンだ」

宥英が関わるのを避け、車を発進しようとしたアクセルを踏んだ。

    キキッ!!

アクセルを踏んだ宥英は、次にブレーキを踏みこんだ。

ピンクのワンピースを着た少女が、いつの間にか車の前方にいたからだ。

 「おい、モモ!」

宥英はこの少女をモモと呼ぶことにしていた。たまにしか出てこないが、名前が無いと不便を感じるからだ。

 「厄介ごとはゴメンだと言っているだろう」

車を降りた宥英は、モモの前に来て、車に戻れと首で合図をする。

モモは生者ではない、地縛霊から浮遊霊になり、宥英について来ている。

少女は宥英の手を取ると、争っている連中の所へと引っ張って行く。

 「おい、俺は行かないぞ」

宥英は言葉とは裏腹に、少女の弱い力で引っ張られる。

 「わかったよ」

宥英は白い歯を少女に見せた。ここ最近見せ始めた、いや取り戻しかけている笑顔だ。

 「ここからあそこまでは遠い、車に乗れ、行ってやるよ」

宥英が車に乗り込むと、少女はすでに助手席にチョコンと座っていて、彼に笑顔を向けていた。

宥英は少女の頭を撫でると、車を発進させ、争う男達の方へとハンドルをきった。



 「何じゃ、お前は!」 「見世物じゃねえぞ! うせろ」

宥英が争う男達の前に車をつけると、暴力を纏った男達が罵声を浴びせ掛けてきた。

 「俺も関わりたくはないが、仕方なしだ」

宥英は車を降り、倒れている男、マコラの状態を確認する。

 「何を言ってやがる、お前も十二神将か!」

 「十二神将?」

 「こいつも、やってしまえ!」

男達が一斉に宥英へと仕掛けてきた。しかし宥英が相手の攻撃を受ける事は無い。

相手の攻撃を流し、カウンターをくらわしていく。かつての修業時代に学んだ拳法だ。

男達が宥英に押されかけた時、ビルの向こうで地響きが起き、太陽でない光が空気を揺らした。

 「おい、今のは朝照じょうしょう様だろう」

 「ああ、俺達も引き上げだ!」

地響きが合図のように、男達は宥英に背を向け、走り出した。

事態が把握できないまま宥英は、倒れているマコラに手をかざす。

 「お前は・・誰だ?」

マコラは腫れた瞼で宥英を見た。

 「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ」

宥英は答えずにマントラを唱え、ゆっくりと気を送るかのように、手の平を身体全体にかざしていく。

 「そのマントラは?!」

 「動くな、傷に響くぞ」

 「しかし・・」

宥英の忠告を聞かず、マコラは起き上がり、痛みを堪え廃ビルの裏へと足を運ぶ。

仕方なしに肩を貸し、宥英も廃ビルの裏へと向かった。

ビルの裏には、真新しい陥没があり、三人の男が倒れている。

 「クビラ、アンテラ、ハイラ・・・・」

 「大丈夫だ、生きている」

宥英は倒れている男達の状態を確認し、マントラを唱え傷を癒していく。

 「これは」

一番重症の男、クビラの状態を調べている時、手に壺が握られているのが見えた。

宥英が壺を取ろうとしたが、気を失っているはずのクビラの手は、しっかりと壺を握り放さなかった。

 「さすがは十二神将だ」

無理に壺を取る気のない宥英は、マントラを唱え、クビラ達の治療に力を入れた。

夕日がさしこむ廃ビル街で、夜を迎えるように癒しの真言が優しくこだました。



 「ようこそ、薬師様」

派手な内装の本堂で、派手な袈裟を纏った男が小柄な僧を出迎えた。

男の背後には、内装に引けを取らない、金色の薬師如来が祀られている。

 「私はこの寺、いや、宗派『極楽浄土新宗』阿闍梨の虞惹ぐじゃくです」

薬師はフードを脱がされ、寒いのか、自分の身体を自分で抱きしめながら、小刻みに震えている。

 「ほほほ、怖がらなくてもよいですぞ、薬師様。いや薬師ちゃんと言ったほうがよいですかな。まさか薬師の力を持つ人間がこんな少女とは」

薬師は、自分の身体を嘗め回すように見る虞惹の視線を嫌い、身を引いた。

薬師と呼ばれた少女、歳は十代半ばぐらいだろうか、色白で、腰まである銀色の髪を後ろで束ね、碧い瞳を虞惹に向けた。

 「クビラ達は?」

 「さあ、知りませんね。私は薬師ちゃんを連れてくるようにと指示しただけですから」

 「・・・・」

 「十二神将等どうでもよいじゃないですか。あなたはこれから、この極楽浄土新宗の本尊になって信者を増やしてもらいます」

 「何を勝手な」

 「ほほほほ、あなたに選択肢はありませんよ。あなたはもう、極楽浄土新宗の物ですから」

虞惹の言葉に、薬師は唇を噛んで下を向いた。

過去、薬師の治癒能力を狙い、様々な宗派が声を掛けてきたが、皆私利私欲が透けて見えいた。

中には力づくで薬師を奪おうとする宗派もあった。しかし、そんな連中から十二神将が命懸けで薬師を護ってきたのだが、いくつもの闘いで命を落としていき、今は四人だけになってしまっていた。

 「さあ、あなたには明日から、その治癒力で信者を集めて頂きますよ。今日だけは休ませてあげましょう、薬師ちゃん」

虞惹は最後の「薬師ちゃん」を強調し、薄ら笑いを浮かべながら本堂を出ていった。

派手な本堂で、声を殺して泣く薬師を、金色の薬師如来が静かに見つめていた。




 「薬師の力を持つ少女か」

五人の男達が、焚火たきびを囲み暖をとる。内四人は傷だらけの酷い状態だ。

 「ああ、薬師様はその力のせいで、いつも狙われている」

クビラは壺を見つめながら唇を噛んだ。本来なら、薬師をさらった奴の所へと、直ぐにでも救出に向かいたいのだが、この傷では返り討ちにあうのが目に見えている。

 「その壺は薬壺やっこか?」

 「ああ、よく知ってるな。それに先程の治癒のマントラ・・  お前はどこかの宗教家か?」

 「いや、ただの流れ者さ。それより、薬師をどうするんだ?」

 「もちろん救いに行く」

 「奴らを知っているのか?」

 「ああ、極楽浄土新宗だ。最近やたらと勧誘にきてたからな」

イラついた顔でハイラが薪に火にくべる。ハイラの怒りが焚火に移ったのか、薪がはじけ、火の粉があがった。

 「宥英と言ったな。薬師様救出に力を貸してくれないか」

マコラが、自分たちの傷を癒してくれた力を思い出し申し出た。

 「いや、悪いが俺はどこの宗教とも関わりたくないんだよ」

協力を求めてくるだろうと予想していたのだろう、宥英はマコラの誘いを迷う事なく断った。

 「そうか、無理を言ってすまない」

 「そうだぞマコラ、これは十二神将の問題だ、傷を癒してくれただけでもありがたい」

クビラが自信の身体を見る。大元帥降纏術を受け、本来なら死んでいただろう身体だ。傷はしばらく治らないだろうが、生きていれば薬師の救出に行ける。

 「宥英、ありがとう。俺達は少しの間傷を癒して、薬師様救出に向かう」

直ぐに救出に向かいたいだろうが、十二神将達は傷を癒し、確実に薬師を救出できる可能性がある方を選んだようだ。

 「そうか、じゃあ俺は行くよ」

宥英は、十二神将との関わりを早めに断ち切りたいのだろう、焚火から離れ車へと向かう。

 「ありがとう宥英」

クビラの声を背中に聞いた宥英は、振り向かずに片手を上げた。

パチリと薪のはじける音が、暗い廃墟に静かに響いた。



 「さあー、 病る者よ。癒しを求める者よ。我が極楽浄土新宗をあがめたまえ。さすれば病や傷は治るであろう」

車で走る宥英の耳に、遠くから騒めきが届いてきた。

クビラ達と別れて一か月以上が過ぎている。本来なら、別れた所から、かなり遠く離れていたはずだった。しかし集落を見つけるたびにモモが現れ、そこで足止めをくらい、まだ、そう離れた距離になっていない。

立ち寄った集落で、缶詰とその集落での産物を交換する。

モモが産物を食べれるわけではないが、餓死した彼女に、そんな食べ物を与えるのも供養になると思い、宥英が続けているのだ。そして何より、産物を与えた時のモモの笑顔は、彼の苦痛な過去を癒してくれる力があるようだ。

 「ここから数キロ先の所に、極楽浄土があるんじゃよ」

 「極楽浄土?」

ある集落の入り口で、老婆が拝んでいるのが見えた。

老婆によると、最近この先にお寺ができて、そこの本尊と言われる方が、病を治してくれるという。

しかしお布施と称する物が、少量の作物では足りないらしい。

仕方なし、ここから拝むだけでも効果があると思い、拝み続けていると話していた。

そのお寺の近くに、宥英がやってきたのだが、遠目にも見張りが厳重なのが分かる。

入り口で、それなりの値打ものを、差し出さないと入れてもらえないのだろう。

 「モモがここに連れてきたのか?」

車の中で声を発するがモモは出てこない。しかし、ここに導くように、モモが現れて集落をめぐっていた。

 「仕方ないか」

宥英は車を瓦礫の影に隠し、缶詰十缶を持って入り口に向かった。

 「これで入れるか?」

見張りの男に缶詰五缶を渡す。男は缶詰と宥英を交互に見た後首を横に振った。

宥英は残りの缶詰を男に渡し、様子を伺う。

男が首で入れの合図をした。とても僧侶とは思えない態度だ。

 「さあー 現世の薬師様です!」

宥英が門をくぐると、演出じみた声が聞こえてきた。

整備された本堂前の庭に、数百人の人間が手を合わせ、本堂が開くのを待っている。

かなりじらされる演出で、ゆっくりと本堂が開き、金、赤、紫などの鮮やかな刺繡で彩られた着物を着た少女が中から現れる。

 「さあー、薬師様。皆に奇跡を」

虞惹ぐじゃくが薬師に頭を下げた。

 「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ」

か細い声で薬師がマントラを唱えると、庭にいる人々を暖かい光が包む。

 「薬師様!  どうかこの子に奇跡の治癒を!」

子供を抱いた女性が薬師の前に走り込んできた。

子供は極度にやせ細り、意識があるのか無いのか分からない状態でグッタリとしている。

薬師が子供の状態を診ようと近づいた時、虞惹ぐじゃくの指示で僧が女性の前に立ちはだかった。

 「困りますね、お布施はありますか?」

虞惹が薬師に動くなと、目で脅した後に、ゆっくりと女性に近づいて行く。

 「ここに入れてもらうだけのお布施しかありませんでした。しかし、そこを何とかお願いします。この子はもう三日も食事が喉を通らないのです」

 「図々しいぞ女!」

僧が女性を突き飛ばした。宥英が子供を抱え倒れてきた女性を背後で支える。

 「乱暴だな」

 「何だと!」

       ドッドーーーーーーン!!!!

宥英と僧が睨みあった時、背後で大きな音がした。

 「襲撃だ!」「十二神将だ!」

入り口の門が砕かれ、四人の大柄な男達が入ってきた。

宥英は女性と子供を庇いながら、本堂の薬師の前へと移動する。

虞惹は宥英の動きを視界の隅に捕らえてはいたが、ゴタゴタの後に始末しようと思ったのか、無視して門の方へ向かった。

 「朝照じょうしょう!  居るか!」

虞惹が大男を呼ぶ。

 「キャハハハハハハ!!!」

笑い声と共に大男が姿を現し、十二神将の前をふさいだ。

 「生きていたのか、ポンコツ十二神将」

 「お前ごときの術で、十二神将は倒せない」

 「ならば、もう一度くらわしてやる! 我が、大元帥降纏術を」

朝照とクビラ達が睨みあう、朝照の背後で、少し距離を置いて虞惹が薄ら笑いを浮かべながら戦いを見ている。

傾きかけた天からの日差しが、本堂の前の男達の影を大きく伸ばした。



 「あんたが薬師かい?」

宥英が女性と子供を守りながら、少女の前へとやって来た。

 「この子を頼めるか?」

 「はい」

宥英の言葉に薬師は頷き、女性に子供を本堂で寝かせるようにと指示をした。

子供を薬師に預けた宥英は、睨みあう男達の方へと向かう。

 「あのー、 あなたは」

背後で少女の声がした。

 「気乗りしないが、乗り掛かった舟だ、あんたは、子供の治癒に専念してくれ」

宥英は薬師の治癒に、これからの戦いが邪魔をしてはいけないと思い、本堂の扉を閉めた。

窓明かりと、蝋燭の灯りに照らされた本堂で、薬師が子供の状態を確認する。

思っていたよりも、重い症状のようだ。

少女は印を結び、マントラを唱える。その背後で女性が涙目で祈りを続ける。

 「あの薬があれば・・・」

薬師は焦りの中で、小さく言葉を吐き出した。薬とは薬壺やっこうのなかで、薬師が精製した万能薬のようなものだ。

しかし今は薬壺がない、マントラの効果だけで、何とか治癒を進める少女の前、子供を挟んだ前方に、暖かい優しい風が吹いたかと思うと、空間を揺らすように、ふわりとピンクの服を着た少女が現れた。

ピンクの少女は、満面の笑みで壺を少女に差し出す。

 「これは、・・・薬壺やっこう

薬師が壺を受け取ると、暖かい風を残し、少女は姿を消した。

 「薬師様、どうされました?」

マントラが聞こえなくなったのを気にした女性が、薬師に声を掛けた。

 「いえ、何もありません。何もありませんが、この子は必ず助けます」

 「本当ですか!  ありがとうございます」

薬師は薬壺から薬を取り出し、子供に飲ませた後、再び印を結び、マントラを唱え始める。

西陽にしび刺す本堂に、少女の澄んだ読経の声が響いた。



 「オン・クビラ!」「オン・マコラ!」「オン・アンテラ!」「オン・ハイラ!」

十二神将の四人が自己のマントラを唱え、朝照へと仕掛ける。

大元帥降纏術だいげんすいこうてんじゅつを使わせない為に、一気に勝負に出たのだ。

 「十二神護稗攻じゅうにしんごはいこう!!」

クビラが剣を、マコラは斧を、アンテラは宝鎚ほうついを、ハイラは弓矢を、それぞれの神器で一斉に朝照へと攻撃をかける。

 「ノウボ・タリツ・ボリツ・ハラボリツ・・・・・・」

朝照は怪我が完全に癒えていない十二神将の攻撃をかわしながら、印を結び、マントラを唱える。

口元には余裕からか、相手を小馬鹿にしてような笑みが見える。

 「オンシャキン・タラ・サンダン・オエンビ・ソワカ!!」

      ドッスーーーーン!!!!

天からの落雷が落ちたかのような地響きる。十二神将が衝撃でバランスを崩し、その場に膝名ひざまづいた。

朝照の身体が、電気をおびたように発光している。その身体に向け、ハイラが弓を放つ。

しかし、矢は朝照に刺さる事なくはね返された。

クビラ、マコラ、アンテラもそれぞれの神器で仕掛けるが、朝照に傷一つつけられない。

 「キャハハハハハハ!  弱い、弱いなー  十二神将は」

朝照が光を放ちながら、跳躍しアンテラの前に立つ。アンテラは宝鎚を振り上げ、朝照へと振り下ろした。

しかし朝照の拳が先に、アンテラの腹にめり込む。次いで、マコラへと光の残像を残しながら走り、膝蹴りをくらわした。

大元帥降纏術で、朝照の動く速度が速くなり、ダメージも受けにくくなっているのだ。

 「本当に弱いな。十二神将。ケケケケケケ」

 「畜生・・・」

ハイラが下唇を噛みしめる。クビラの剣を持つ手が悔しさで震える。

四神将とも、闘う気力を失ってはいないが、朝照の光の鎧に対して策がなく、ただ怒りを震わせるしかなかった。

 「もう一度、十二神護稗攻を放てるか?」

クビラの後ろで声がした。

 「宥英!」

 「何だお前は!」

朝照とクビラの声が重なる。

 「十二神護稗攻だとー。あんな術、俺様には効かねーぞ。キャハハハハハハ」

 「お前は本当の十二神将を知らない」

 「なんだとー!」

宥英の顔面へと朝照が拳を入れた。宥英はクロスした腕でそれを防ぐ。

その後、朝照のキックが、瞬時に宥英の脇腹を襲う。宥英は脚を上げ、蹴りを防いだ。

 「面白れぇなあー、面白れぇ。お前も十二神将と纏めて殺してやるよ」

宥英との距離を、少し置いた朝照の身体の光が強くなる。

距離を置き、術のコントロールに集中したのと、宥英への怒りのせいだろう。

 「クビラ」

 「わかった!」

クビラがマコラ、アンテラ、ハイラを見る。皆頷き、印を結ぶ。

 「オン・クビラ」「オン・マコラ」「オン・アンテラ」「オンハイラ」

 「オン・バサラ・メキラ・アンニラ・サンテラ・インダラ・シンダラ・ショウトラ・ビカラ・ソワカ」

十二神将のマントラを、宥英が引継ぎ印を紡いでいく。

 「俺には効かねーと言ってるだろう」

跳躍して、宥英へと襲い掛かかる朝照にハイラが弓を放つ。矢を跳ね返し、そのまま宥英を襲うと思われた朝照が空中で一瞬止まり、地面に落ちた。

 「何だ、これは」

何とか立ち上がる朝照の身体に、数十の矢が刺さっていた。矢は幻影だったように数秒で消滅した。しかし、朝照の身体から血が流れている。

 「クビラ、参る!」

クビラが剣を構え朝照へと走る。 その後をマコラ、アンテラが続く。

 「しゃらくせいーーーーー   ノウボ・タリ・・・・・・・」

集中力を高めるためだろう、朝照が再び大元帥明王のマントラを唱え印を紡ぐ。

先程よりも、朝照を包む光が強くなる。光の鎧が強度を上げているのだ。

   キェェーーーーー

クビラの剣が朝照の光を切る。

   速い!

クビラの剣が何本もあるかのように見え、光の鎧を切り刻んでいく。

マコラの斧の重い一撃が、光の鎧を砕く。

アンテラの宝鎚が光の鎧を貫いた。

   グワァーーーーーー

朝照は包んでいた光が消え倒れた。

 「なぜ・だ、何故、鎧が・・・・」

 「これが十二神将の力だ」

倒れている朝照を、宥英が見下ろした。

 「お前の大元帥降纏術は自分自身のみを護る術。しかし、十二神将護稗攻は互いに力を与え、互いに力を高める術だ」

 「しかし奴らは四人しかいないはず」

 「薬師の周りには、常に十二体の神将がいるんだよ」

 「ちくしょ・・  ノウボ・タリ・・・」

朝照は再びマントラを唱え、印を紡ぎ始めた。

朝照の身体に異変が起きた。彼の足が青い炎で包まれだし、やがて炎は身体全体を覆う。

   グワーーーーーーッ!!

炎の熱さよりも、身体全体を針で突かれるような痛さで、朝照が悲鳴を上げる。

青い炎が勢いを増し、火の手が天へと昇りだした。

突風が吹き、炎がさらに勢いを増した後、炎は朝照と共に消えた。

 「大元帥に喰われたか」

分を超える力を使い過ぎたのか、大元帥明王の怒りをかったのか、朝照の身体と魂は、この世から消滅した。

宥英と十二神将達は、傾きかけた陽を受けながら、空を見上げた。



 「ちっ!」

朝照がやられたのを見て、虞惹が舌打ちをして、背中を向け走り出した。

 「待ちやがれ!」

後を追うクビラ達の前に札が三枚投げ込まれた。 呪符だ!

呪符は空中で三体の鬼へと変化する。獣の頭を持つ鬼だ。

鬼がクビラ達に襲い掛かる。

十二神将達はそれぞれの神器で、鬼を退治していく。

鬼の始末を終えた時、虞惹の姿は見えなくなっていた。

 「畜生!」

マコラが悔しがりながら、破れた呪符を拾う。

 「陰陽師か」

 「いや、呪禁道・・・・召喚鬼師か」

三人のもとにやってきた宥英が、札を受け取り、確認する。

 「みんな、それよりも、薬師様の所へ」

 「ああ、そうだな」

ハイラが弓を背中へ背負いながら、皆を促した。

クビラが本堂の扉を開けると、子供を祈祷する薬師の姿が見えた。

 「薬師様!」

 「クビラ、ハイラ、マコラ、アンテラ、無事だったのですね」

十二神将達の姿を見た薬師が、涙を流す。

 「その子供は?」

 「治癒を施した子供です、もう大丈夫でしょう」

子供の状態を確認しながら、薬師が久しぶりの笑顔を見せた。

 「その薬壺は?」

クビラが薬師が持つ薬壺を見て、自分の懐を探るが、見当たらない。

 「少女が届けてくれました」

 「少女ですか?」

首を傾げるクビラの背後、本堂の入り口に宥英の姿があった。

 「あの方は?」

 「彼は宥英と言います」

 「宥英・・」

 「薬師様を救出できたのも、彼のおかげです」

クビラが今までの経緯いきさつを薬師に説明していると、入り口から声が掛かった。

 「クビラ!」

宥英がクビラに、何かを投げた。クビラはそれを、片手でキャッチする。

 「俺はもう行くから、それは餞別だ」

クビラが受け取ったのは、木彫りの仏像だった。

 「護法童子、いや、護法神将だ。それで、今はいない神将の力をカバーしてくれるだろう」

背中を向けながら、片手をあげる宥英。その右側にフワリと、ピンクの服を着た少女が現れた。

少女は宥英の手をとり、薬師へと振り向くと、可愛らしい笑顔で小さく手を振った。

 「慌ただしい奴だな」

クビラが仏像を見ながら、白い歯を見せた。

十二神将達には死角になっていて、モモの姿は見えなかったようだ。

 「クビラ、ハイラ、マコラ、アンテラ」

 「はい」

 「私、未来への希望が見えました」

 「未来への希望?」

薬師は笑顔で涙を流しながら、両手を合わせ、本堂の入り口に頭を下げた。 

 「弥勒みろく様に会いました」

 「弥勒様に?」

 「はい、ピンクの弥勒様に」

少女の嬉し涙が、本堂に差し込む夕日に照らされ、茜色の宝石のような輝きを魅せた。

















































































































 拙い文章ですが、読んでくれた方、ありがとうございます。

終末での宥英の活躍はいかがでしょうか、次の話の構想も浮かんでいます。

自分よがりな小説ですが、楽しんで書いてます、読んでくれた方も楽しめたなら嬉しく思います。

                                      でわでわ!!

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