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かぎろひの君  作者: 蒼 唯
冬の間
8/8

まーた前回からだいぶ間が……。

申し訳ございません_(꒪ཀ꒪」∠)_


※そしてたった今この回書き換え中でして、ちょこちょこ文章変わります……かたじけない( ´ཫ` )

 窓の外では雪混じりの冷たい風が、葉の枯れ落ちた枝先を通り抜ける。


 いつしか、そんな季節に変わっていた。


 あの日。

 意を決して千咲に会いに行ったあの日以来、俺は寝る前になると同じ記憶を反芻していた。


 まるで、千咲から聞いた事を繰り返し頭の中でなぞるかのように。




 ◆❖◇◇❖◆


「……来ては駄目だと言ったでしょう」

 俺の存在に気が付いた千咲は、出逢ったあの日と変わらず驚くでも複雑でもなく、眉ひとつ動かさない顔つきのまま呆れたため息を零す。

「君と、どうしても話がしたくて……会いたかったんだ。でももう、会えないと思ってた」

 また千咲が短いため息を吐いた。それが妙に悲しくて、気を紛らわすために俺はあえて明るい声を出す。

「あ、のさ! 俺、まだ名前を名乗ってなかったのを思い出してさ! 浅倉――」

「然」

 自分が発するはずだった名前を先に言われ、一瞬ビックリするも初めて会った時の出来事を思い出して勝手に納得した。

「!? ……あぁそっか、皆が呼んでたの覚えててくれたんだ」

 黙って肯定する千咲に、俺は脳内で組み立てていた話を続ける。

「それから、実を言うと……俺の父は君のお兄さん宮森千輝ミヤモリ カズキなんだ」

 俺は父の旧姓を知らずに育ったので、まだ慣れないその響きを口にした。

「母は、浅倉かすみ。って言っても両親と君との関係を知ったのはつい数日前なんだけど。この間ちょっと色々あって、弟さん……千悟さんの家にお世話になった時、君の事を教えてもらった」

 千咲は珍しく少しだけ驚いたような表情になった後、俺には分からない何かを悟ったようで目を伏せ返事をした。

「そう……。じゃあ、私が此処で火事に巻き込まれて死んだ事になっているのも、聞いたわね」

「あ、うん」

 〝死んだ事になっている〟と言うフレーズに疑問を持ちつつ俺は頷く。と同時に、その事実を本人に言わせてしまった事をひどく後悔した。

「でもこれは知らないしょう? 消息不明になったのは、私自らが望んだ事だったっていうのは」

「自らって、どうしてそんな……?」

「抗いたかったのかもしれない。色々なモノ全てに」

 押し寄せる疑問の渦を掻き分けながら、俺は千咲に問い掛ける。

「30年前、ここで何があったの?」

「私が話さなくても、何れすぐ知る事になるわ」

「それってどう言う――」

 聞き返そうとした言葉は千咲によって遮られる。

「もっと、別の事を聞きに来たんじゃないの?」

 図星を突かれ、全てを見透かされているような気がして吃ってしまう。

「えっと、いや、その……こんなの、本人に尋ねるのは変なんだけど、やっぱり千咲は」

 俺はこの質問を投げ掛けて良いものかギリギリまで迷った挙句、一つ息を吐いて言葉を紡いだ。


「幽霊、なんだよね?」


 彼女も会話の間隔を空けるように一拍置いて、答える。


「……分からないわ」

 意外な返答に困惑してしまう。

「え?」

「分からないの。今、この状態の私を幽霊と呼ぶのが正しいかどうか」

 そして千咲自身も困惑している様子だった。

「正確に言えば私はまだ死んでいない」

「死んでいないって、どういう事?」

 度重なる質疑に、千咲は諦めたようで説明をしてくれた。

「この、藤の木の力によって消えた者はその者が生きていたとして全うしたはずの寿命を迎える日まで、ここで実体のある人間でも無ければ、死者の魂でも無い、例えるなら幻影、残像のようなモノ……暖昧な存在として過ごす」

「そっ……か。じゃあ、曖昧な存在って言うのと遺体が見つかっていないのは、何か関係があるのかな?」

「えぇ、そうね……。その間は誰の目にも映らないし、死体も見つからないみたいだから」

 しかし、この発言には疑問が残った。

「ん? だとしたら、どうして俺には君が見えるんだろう?」

「いつだったか似たような事を言ったけれど、貴方は元々凄く敏感な人間なんだと思うわ。小さい頃からよくそういうモノを目にしていたんじゃない?」

 逆に問われて両親が話していたエピソードが脳裏を過る。

「あぁ、そう言えば俺、普段はそういう幽霊や妖怪ってのは分からないんだけど、小さい頃熱を出して寝込むと誰もいないはずの部屋の隅に知らないおばあさんがいるとか、変な生き物が宙を漂ってるとかうなされてたって。けど今は熱もないし、体調だって悪くない」


「本当に?」


 千咲の真っ直ぐな瞳で見つめられてギクリとした。そして、もう一度聞かれる。

「本当に、どこも悪くない?」

「……」

 問いただす彼女に対して、俺は答えを返せなかった。

 実際の話、倒れてからと言うものよく風邪をひいたり体調を崩す事が増えていたからだ。

 本当は気が付いていた。


 この藤の社を訪れる度に、身体が重たくなっているのを。


 でも、認めたくなかった。認めれば、千咲と会えなくなる確信があったから。

「悪くないはずがないわ。シロから聞いたでしょう? 藤の木が人の命を奪う事を。この辺りで事故が多発するのも、そのせいよ」

 彼女の念を押した言い回しに、俺はとうとう観念する。悪足掻きも付け加えて。

「うん、そうだね。確かに今はそうだ。調子が良いとは言えない。でも最初に君と出会った時は? どこも悪くなかった」

 しかし、言った通りの悪足掻きに過ぎず終わってしまう。

「心はどう? 心の不調は無かったと言える?」

「それ、は……」


 言葉に詰まってしまった俺を見て、千咲は何かを決意したようで大きく深呼吸をした。


「とにかくもう……ここへ来るのはこれで最後よ。分かったわね? かすみと兄さんが繋いだその命、大切にして」


 それは多分、早くに人生を閉ざした彼女の、心からの言葉だった。




 ◆❖◇◇❖◆


 この再生が終わる頃、俺はようやく眠りにつく。


 それを毎晩繰り返して、逃げ場のない現実をやり過ごしていた。今日もその繰り返しだと思っていたけれど、少し違った。

 眠りの淵に立った時、この季節では香る事のない匂いがしてくる。


 甘い、花の匂いだ。たぶんあの、藤の花。



 夢を見ているのだと気が付いたのは、自分の目に映る少女の姿を先日写真の中で見たからだ。


 あれは、母さん……。


 向坂家の写真立てで見た通りの姿の彼女は、春の終わりと夏の始まりが混ざった日差しの煌めく山道の中、鼻歌を歌いながら歩いて行く。


 ダメ。そっちへ行ってはダメだ!


 何度も何度も、強くそう叫んだつもりだった。

 でも、母さんの耳に届く事はない。その叫びが俺の心の中で念じられたものだから。


 彼女は迷わず進んで行く。俺も少し前に通った道を。


 突然、母さんが満面の笑みを浮かべて走り出した。向かう先には、俺も見慣れた人が立っている。

「千咲ちゃん!」

 藤の木の傍らに千咲の姿があった。

「かすみ……」

 振り返ってふわりと微笑んだ彼女は、駆け寄る母さんの名を優しい声で呼ぶ。

「また、香紫コウシ様とお話?」

 俺の知らない人物の話題が、母さんの口から出た。

「えぇ」

「ホント!? じゃあ今この近くに香紫様がいるのね?」

「そうよ。丁度、あの辺りに居るわ」

 千咲が指し示した方、目の前にそびえ立つ彼の木を2人して見上げる。その内母さんは千咲と藤の木を交互に見た後、ポツリと呟いた。

「私も会ってみたかったなぁ……。千咲ちゃんみたいに視えればよかったのに。あ! ねぇ、香紫様はどんなお姿をしてるの?」

 少し考え込む仕草をした千咲が、目に写っているであろうモノを言い表す。

「そうねぇ……香紫様は、紅みを帯びた紫色のこの藤の花で染め上げたような美しくて長い髪。それと同じ色を宿した目元は切れ長で、スっと通った鼻筋に似合った大き過ぎない上品な口元が高貴さも印象付ける、整ったお顔立ちをなさっているわ」

「へぇ〜。千咲ちゃんがそこまで言うって事はとてもお綺麗なんだろうなぁ」

「えぇ、凄く綺麗な方よ」

 深く頷いて千咲は母さんの言葉に同意した。

「それじゃあ、お社に居らっしゃるって言うハナ様は?」

 また別の知らない人物の名前が出てくる。

「ハナ様は9歳の可愛らしい容姿だけれど、ハッキリした目鼻立ちと振る舞いでもっとずっと大人びて感じるの。何より、陶器かと思う程白い肌によく映える瞳は青く澄んだ飴玉さながらで、フワフワした淡金あわがね色の髪は煌めく光の糸を集めた束で作ったって言われれば信じてしまうくらい……そう、まるで絵画から飛び出して来た天使」

「天使みたいなんだ! てっきり黒髪の日本人形を思い浮かべてた」

 母さんが自分の想像を口にすると千咲がフフっと声を上げて笑った。

「お着物なのは正解。確かにああいったお社からイメージするのはソッチよね」

「意外だったぁ……そうだ! お話は? いつもどんなお話を?」

 次から次へと尋ねる母さん。それに応える千咲は凄く楽しそうで、俺の知る彼女よりもずっと子どもっぽく感じた。

「ん〜、どんなって言われても至って普通の話よ。人間同士がする世間話と変わらないわ」

「そうなの?」

「うん。例えば私がその日あった事を話したり、香紫様から昔話を聞いたり、あとお社でハナ様も混じえて3人で言葉遊びをしたり。あ、それにハナ様にはね、よくかすみの話をするわ」

「えっ! 私の話を?」

 自分の名前が出てきて驚きながら聞き返す母さんに、千咲は笑顔で首を縦に振った。

「とても明るくて優しい大好きな私の親友なんだ、って」

「嬉しい。私も千咲ちゃんの事、大好きだよ。こんなに美人で頼りになって、自慢の親友」

 2人はこんな告白をし合い、穏やかな雰囲気を漂わせて愉しげに笑い合っている。



 そんな彼女達から俺の意識は遠ざかって、静かに夢から覚めた。

お読みになって頂き、有難うございますヾ(´︶`♡)ノ

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