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かぎろひの君  作者: 蒼 唯
秋の訪れ
7/8

いっちゃん大事な名前……間違っとるやないかい!!とゆー事で、書き直しました。爆

 白銀の言った通り迎えが到着したようだ。

 詩織さんが車から降りてくるのを、先程白銀が出て行った窓を通して確認した。

 それからすぐに、トキさんと詩織さんの会話が小さく聞こえ始める。その声は次第に大きくなっていき、内容がはっきりと分かるようにまでなると2人が部屋の近くに居るのだと察知した。なので、先手を打ってドアを開ける。

「あぁ然ちゃん、丁度良かった。詩織ちゃんが迎えに来たよ」

 部屋の前の廊下には予想通り、トキさんと詩織さんがいた。

「だと思って出て来ました。さっき目が覚めて車の音が聞こえたんで、そろそろかなと」

「通りでナイスタイミングな訳だ。それはそうと、具合はどう?」

 笑顔でツッコミを入れる詩織さんだったが、直ぐに心配そうな面持ちになる。

「また少し眠れたのでさっきより気分は良くなりました」

「そう、良かった」

 俺の体調の変化を知った詩織さんは心からの安堵を見せた。そんな中トキさんが、別の気掛かりを教えてくれる。

「今日はどうする? 寮の皆、然ちゃんの事大好きだからねぇ。お世話するとか言って部屋への出入りが激しくなりそうなのよね。逆にゆっくり休めないかも」

 この情報に喜ぶ詩織さんが提案をする。

「然くん愛されてるみたいで嬉しいな♪  それじゃあ今日は丁度週に1度の約束の日だし、週末と併せて3日間ウチへお泊まりにしようか?」

「お2人のご迷惑でなければ……」

 それに対して不安を呟くと、有難い反撃を喰らう。

「迷惑な訳ないじゃない! 私達いつも然くんが泊まりに来てくれるの楽しみにしてるんだから!」

「そうだよ。私にも話すくらい2人共心待ちにしてるんだよ。な〜んにも変な心配しなくて大丈夫」

「なら、良いんですけど……。では今日からお邪魔させて頂きます」

 トキさんからの後押しもあり向坂家への宿泊が決定した。

「よし! そうと決まればまずは病院へ行こう。千悟くんも待ってるからさ」


 着替えと生活必需品を詰めたバックを抱えて車に乗り込み、トキさんから見送られながら寮を出発した。


 千悟さんが医師として勤める病院へ着くと受付を済ませてくれた詩織さんと共に、ロビーで名前を呼ばれるまで待機する。

「浅倉さ〜ん、浅倉然さん。8番診察室へどうぞ」

 談笑していると思いのほか早くお呼びがかかった。

「呼ばれたね。行こうか?」

「ですね」

 案内された診察室の扉を開くと、白衣を着た千悟さんが笑顔で迎えてくれた。

「やぁ、然くん」

「こんにちは。失礼します」

 挨拶をしながら千悟さんの前に置かれた丸椅子に腰掛ける。

「倒れたって連絡があって心配してたよ。特別な症状は無いって聞いたけど、今はどう?」

「今も特に何もなくて。ただ少し身体がダルいなってぐらいです」

「成程。じゃあとりあえず診させてもらうね?」

「はい」

 聴診器を胸と背中にあて心臓や肺の音を聞かれた後、口を開けて喉を診られる。

「うん、特に胸の音も異常ないね。綺麗な音だよ。喉の炎症とかも見受けられない。もしかしたら色々な事が一気に起きて疲れが出たのかもしれないね」

「はい……そうかもしれません」

「ちょっと微熱があるから、熱冷ましの薬で少し様子を見ようか」

「分かりました」

 診断が終わると詩織さんが口を開く。

「あのね千悟くん、今日から然くんウチにお泊まりになったよ」

「本当に!? いやぁ楽しみだなぁ。あ、然くんの具合が悪いって時に、はしゃいじゃダメだよね。ごめんね」

 聞くや否や歓喜に満ちた声を上げる千悟さんだったが、即座に状況を把握し直して謝る。

「いえ。俺も楽しめるように、早く治しますね」

「お! いいね。その意気だよ。じゃあ、自分の家だと思ってゆっくり休んでてね」

「はい、ありがとうございます」


 その後、処方された薬を貰い向坂家へ向かう。


 到着するなり昼食を軽く摂り、用法用量通りに薬を飲んだ。ベッドへ横になって一時すると睡魔がやって来る。そのまま眠気に身を委ねる事にして、俺はまた眠りについた。




 ◆❖◇◇❖◆


 微かな物音で目を覚ますと見慣れた寮の自室の天井じゃない事に一瞬混乱するも、直ぐに向坂家にいるのだと思い出した。

「然くん、起きてる? 入っても大丈夫かな?」

 ノックと同時に優しい声で尋ねられた。


 千悟さんの歩く音が夢見心地で聞こえてたのか。


 そんな事を考えながら返事をする。

「はい、どうぞ」

 部屋の扉を少し開けて、千悟さんが顔を覗かせた。

「どう? まだ身体怠いかな?」

「ダルさはほぼ無くなりました」

 こちらの様子を伺いながら、静かに入室する千悟さん。

「うん、本当だ。病院で見た時より顔色が随分明るくなったね。熱はどうだろ? 測ろうか」

 体温計を脇に挟んだのを見届けた千悟さんから問われる。

「食欲は?」

「沢山寝たんでお腹空きました」

「そっか、良かった。丁度夕飯の準備が整ったからさ、呼びに来たんだ。下に降りられそう? あれだったらココに食事持ってくるけど」

「大丈夫です。降りれます。色々と、気を遣わせてしまってすみません」

 頭を下げると同時に体温計が存在を主張する。

「いやいや。全然気なんか遣ってないから安心して。ただ単に然くんが居心地良く過ごせたらと思って聞いただけだよ。測れたね、何度かな?」

 脇から外して渡すと千悟さんが数値を見る。すると、ホッとした顔付きになった。

「よし、熱も下がったみたいだし、これなら本当に大丈夫そうだね」

「はい、行きましょう。それから、十分居心地良いですよ。向坂家」

「マジ? そう言って貰えると光栄だわ」


 そんなやり取りをした後、部屋を出て階段を下って行くとお腹が声を上げたくなる良い匂いが鼻をくすぐった。


「あ! 然くんこっちこっち!」

 匂いに誘われてダイニングの扉を開くと夕食が並んだテーブル越しに詩織さんが明るい笑顔で手招きする。

「然くんは上座ね。どうぞ」

 そう言いながら座りやすいように椅子を引いてくれた。

「ありがとうございます」

「今日は薬膳風ディナーにしてみました! 普通のご飯にしようか悩んだんだけど、身体にも良くて消化に易しい方が食べやすいかと思って」

 後ろを着いて入ってきた千悟さんが、自分の席に着きながら説明してくれる。

「詩織ちゃんは元々看護師だったんだけど、健康は美味しいご飯を食べることから始まるんだ! ってのが口癖でね。ある日突然病院を辞めたかと思ったら料理とか栄養学とか薬膳の勉強してて、いつの間にか病気の治療や予防効果を高めるメニューを発案するぐらいになってさ。ウチの病院はそのメニューを基に作ってるから、ご飯の評判良いんだよ。だから味と身体への配慮は保障する」

「そうだったんですね。詩織さんのご飯、いつも本当に美味しいので今の話を聞いて納得しました。しかも美味しいだけじゃなくて、その時食べたいなぁと思ってた物が出てきて、正直ビックリしてたんです」

 実際、心の中を読まれてるのかと思う程の的中率だった。

「ご飯の用意をする前に然くんの顔色とか調子を観て、プラス実際にお話してる中でこんなの食べたいんじゃないかなぁーっていうのを直感で作ってたんだけど、当たってて良かったー!」

「ばっちり当たってましたよ」

 本当? やったー! と、はしゃぐ詩織さんは心から喜んでいるようだった。千悟さんもそうだけど、2人は大人なのに無邪気さを忘れてなくて、常に笑いを絶やさないからこっちまで楽しい気分になれる。

「ま、でも美味しい物も食べたい物も大事だけど、やっぱり皆で楽しみながら食べるのが一番大切よね! だから然くんが、私達と楽しく食事してくれたらすごく嬉しいな」

「もうすでに楽しいですよ。ありがとうございます」

「よっしゃ! じゃ、冷めない内にいただきます!」

 千悟さんの気合の入った号令でディナータイムが始まった。




 ◆❖◇◇❖◆


 穏やかな夕食を終え、詩織さんが食後のデザートとお茶の準備を始めたので手伝おうと立ち上がったのだが、お客様はあっちで寛いでいて! とリビングに追いやられてしまった。

 しぶしぶソファへ向かうと、不意にテレビの横に飾られた写真立てが視界に入った。

「あ、コレって父さんと母さんですか?」

「そうそう! この間、家の片付けしてたら出てきてね。飾ってみたんだ。2人ともまだ若いでしょ?」

「はい。学生時代の頃の写真ですね」

「兄さんが大学生で、かすみさんが高校生の時だよ」

「へぇ……」

 会話をしながら近くで見ようと写真を覗き込んで、背筋が凍りついた。


 光の加減で影になって見えていなかったもう1人が目に映ったから。


「あ……の、それじゃあこの……母さんの隣に写ってるのは……?」

 一瞬千悟さんは驚いた表情をしたが、すぐに元に戻った。そして写真立てを手に取って、今度は懐かしそうに呟く。

「お父さんかお母さんから何か聞いた事があるのかい?」

「両親からですか? いえ、何も。ただ……俺の知っている人に、とてもよく似ていたので」


 そう。

 その写真の中では、出会ったあの日からずっと俺の脳内の殆どを占めている人にそっくりな女の子が微笑んでいる。


「へぇ。じゃあその人は、姉さんの生まれ変わりかもしれないね」

「え……お姉、さん?」

 千悟さんとほぼ同時にソファへ座りながら、内心の戸惑いを悟られないように聞き返した。

「うん。この写真の女の子は俺の姉で、然くんの叔母にあたる人だよ。もうそろそろ30年になるかな? 彼女が亡くなって。……いや、正確に言うといなくなって、かもしれない」

 写真立てを持った千悟さんの両手が、力んだ様に見えた。

「いなく、なった?」

 けれど、すぐに力は抜かれる。

「うん。寮の近くにある藤の社を知ってるかな?」

「はい」

「あそこで起きた火事に巻き込まれて亡くなった事になってる。……でも、あの現場から姉さんの死体は見つかって無い」

 聞きながら、以前学校で瑞穂が話そうとしていたのはこの事だったのかと思った。

「見つからないなんてそんな」

「おかしいでしょ? 瓦礫と建物の焼け跡は未だ崩れもせず残ってるのに、骨の1つどころか、衣服の破片も出てこなかった」

「近辺の山の中も探したんですよね?」

「もちろん。警察、親族、友人……沢山の人の手を借りてお社の周囲の山や近隣の集落とかも探したけど、手掛かりすら見つけられなかったよ」

 脳裏に1つの単語が思い浮かぶ。


「神隠し」


 自らが発言した癖に、胸の奥が針で刺されたようにチクリと痛んだ。

「知ってるんだね? その事」

「はい、クラスメイトから聞きました」

「そっか……。実を言うとね、あの火事の日にいなくなったのは姉さんだけじゃなんだ」

 そう聞いて、思い当たる人物がピンと来た。

「もしかして、父と母、ですか?」

「おぉ! ご名答。俺は3人とも神隠しに遭ったんだって思ってた、最初はね。けど、兄さんとかすみさんがこの町から出る所を目撃した人がいて、すぐに2人は違うって分かったよ」

「そうだったんですか」

「おまけに、半年程経って姉さん宛に兄さん達から手紙が届いたしね。全部任せてしまった事への謝罪と元気で暮らしてるって内容だったかな、確か」

「全部を任せて、ってどういう意味でしょう。家の事? でも、火事の事を知ってたみたいにも取れますよね。それに、どうしてこの町を出たんですかね。父さん達は」

「何か色々と重要な理由わけがあったんだと思うよ。俺は当時まだ幼かったし、兄さんや……ましてや姉さんのような力を持ち合わせていなかったから、詳しい話は教えて貰えなかったけど」

 千悟さんの口から意外な言葉が出てきて思わず繰り返した。

「力?」

「あぁ、そうだった。話していなかったね、俺達の血筋の話を」

「?」

 血筋と聞いた俺の顔には疑問符が張り付いているはずだ。

「俺達の血筋はね先祖代々、巫覡ふげきの家系なんだ」

 今度の聞き慣れない単語も先程と同じように繰り返す。

「巫覡……」

 察した千悟さんが簡単に説明してくれた。

「神に仕える人達の総称だよ。うちはあの藤の木に宿る神様を祀って仕えてたんだ」

 過去形な事に違和感を抱きつつ質問をする。

「え? お社に御神体が祀られてたんじゃないんですか? クラスメイト達がそう言ってましたけど」

「あーそれは違くて、本当は藤自体が神様なんだ。今では藤の木だけど、元々は別の木が御神木だったし、もっと昔に遡るとまた別のモノが御神体だったらしい。まぁその事に気が付いたのも姉さんなんだけどね。だから、この町の人は昔御先祖が広めた事を未だに信じてるみたい」

「お姉さんが?」

「姉さんはとても強い力を持っていてね、物心がつく前から普通の人には見えないモノと交流していたみたいだし。小学生になる頃には神託を受ける程だったそうだよ」

「神託って神のお告げみたいなものですよね?」

「そうそう」

「それを小学生で? 凄い」

「姉さんの力は本当に凄かったよ。兄さんも姉さん程では無いけれどおかんなぎとして仕える事が出来る人並み以上の霊感はあった。ただ3兄弟の中で俺だけは全然ダメでね」

 どうやら自虐しているようで、肩を竦めて笑う千悟さんはそのまま話を続ける。

「巫覡の人達が集まる寄合いなんかがある時“、兄さんと姉さんからよく来ては駄目だって言われてて、あの頃は力が無いから除け者にしてるんだろうと思ってた。でも今となれば、俺を危険な目に遭わせないようにしてくれてたんだって理解出来る」

「そうですよ。守ろうとしてくれてたんですよ、きっと」

「うん。それにね、あの火事の真相を知るうちの血を引く者や仕えてた者は皆、事故や病気で亡くなってしまったから」

 さっき千悟さんが過去形を使ったのはこれが理由なのだろう。

「嘘……」

「だから今ではもう、当時の真実を知る者はいなくなってしまった」

 千悟さんは写真の中の少女を指で優しく撫でた。

 そんな彼を見て、俺は1つ深呼吸をする。そしてようやくずっと聞こうか迷っていたことを口にした。

「千悟さん……あの、お姉さんのお名前、聞いても良いですか?」

 この質問を言葉にする時、心の奥底で祈った。ただの思い過しでありますように……と。でもまた、頭の片隅で不思議と確信した。


 恐らく、あの名前を聞くことになるだろう。


「あぁ……、千咲だよ」


 その名前が千悟さんの口から発せられた時、心臓を鷲掴みされたような感覚に陥った。

 確信していたはずなのに。

「千年咲き誇る、あの藤の花のように美しい人になりますように、って意味が込められてるんだ。皮肉にも、肖って名付けた木がある場所で神隠しに遭うなんてね。けど、弟の俺が言うのもなんだけど、その名の由来通りとても美しい人だったよ」

 俺は写真の中の彼女を見つめながら言った。

「……分かります。凄く綺麗な人です」

 それは心からの台詞。

「有難う。きっと姉さんも、そう言って貰えて喜んでるよ」


 後から千悟さんが教えてくれた。彼は向坂家に婿養子で入ってるから今は苗字が変わってしまっているけれど、旧姓は〝宮森〟なのだと。


 千悟さんの姉は、宮森千咲。



 今、俺が1番会いたいと思う人。




 ◆❖◇◇❖◆


 予定通り週末は向坂家で過ごした。

 その間、父さんと母さん、それから千咲の思い出話を千悟さんが覚えている限りたくさん聞かせてくれた。


 週明けには登校出来る程回復して、普段通りの日常に戻る。


 いつもの生活を過ごした数日の間で、気持ちの整理をした。そうしてやっと、また千咲に会いに行く決心がつく。


 寮の玄関で靴に履き替えながら感じ取った。

 この扉の向こう側では、随分と肌寒さを感じさせるようになった風が、紅く色付き始めた木の葉を揺らしている。

 あの夏の終わりの日より、ずっと重たくなった足取りで立ち上がり俺はドアノブを回した。

秋の訪れ、完結。


お読みになって頂き、有難うございますヾ(´︶`♡)ノ

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