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かぎろひの君  作者: 蒼 唯
秋の訪れ
5/8

 早朝から寮の台所と食堂では、トキさんによる料理教室が開かれていた。

「然くん! 焦げる焦げる!」

 どこか上の空だった俺は快斗先輩の声でふと我に返る。

「え? あ、うわっ」

 指で示された手元に目をやれば、フライパンの中で良い音を奏でる黄色い卵焼き。危うく焦げる寸前のそれを、慌ててパタンパタンと折り畳んで巻いていく。

「コレくらいならセーフでしょ」

 焼き具合を確認して快斗先輩が判断してくれた。

「ですよね? よかった、焦げなくて。有難うございました」


 こうして料理をしているのは、今日が月に1度の自分でお弁当を作って学校に持って行く〝お弁当の日〟だから。何を作るか決めるのも、買い出しも、調理してお弁当箱に詰めるのも、後片付けも、全て自分自身で行うのがルールだ。


「どういたしまして。もしかして朝早くてまだ眠い?」

「はい……。快斗先輩は眠くなさそうですね。他の皆も」

 朝から爽やかな風が吹く快斗先輩に眩しさを感じながら、皆を羨むと案外簡単な答えが返ってきた。

「ヒロと然くん以外は部活生だから、朝練とかで早起き慣れてるもんね」

「あ、そう言われてみれば紘先輩も確かに眠そう」

 快斗先輩とは反対側の隣にいる紘先輩が眠そうな声を出す。

「眠いよー。あと10分で良いから寝たいよー」

「急いで作れば少し眠れるんじゃないっスか?」

 時計を見て逆算した拓馬が、紘先輩に悪意の無い知恵を授ける。

「だよな? よっしゃ、さっさと作るぜ☆」

「そのテンションならもう寝なくて良くねぇ?」

 テーブルを挟んだ真向いで紘先輩を見ていた大輔先輩が、ハイテンションを指摘した。

「いや、寝る! 俺は絶対寝る! 寝る、絶対」

「どっかのキャッチコピーみたいに言うな」

 紘先輩の寝る宣言に大輔先輩のツッコミが飛ぶ。そんな皆のやり取りを聴きながら卵焼きを作り終えると、快斗先輩がしみじみ言った。

「てか然くん、めっちゃ手際良いよね」

「それに美味そう」

 良佑先輩が快斗先輩の横から顔を出し、俺のお弁当を覗き込む。

「母さんから結構料理を教わってたので。そうだ、卵焼き余りそうなので、良かったらお弁当に入れるか食べるかして下さい」

「ヤッターラッキー♪……うまッ」

「あー! 良兄ズルいぞ!」

 すかさず口へ頬張った良佑先輩に秀祐の文句が。

「よく食う奴だな。さっきは拓馬からしょうが焼きのお裾分け貰ってただろ」

「育ち盛りだからな、俺」

「全員そうだろーがッ」

 総一郎先輩への返事をもごもごしなからする兄に秀祐が正論を放つ。

「じゃあ僕はお弁当に入れさせて貰おっかな」

 そんな中でも冷静な快斗先輩は丁寧にお弁当の中に卵焼きを詰めた。

「さぁ皆、出来上がったら朝ご飯だよ」

 トキさんの言葉に皆それぞれ返事をして、自分の作業を進める。


 そうやって出来上がったお弁当を携え、朝食を済ませた後皆で学校へと向かった。




 ◆❖◇◇❖◆


 月日が流れるのは早いもので、藤棚へ行かなくなって3週間が過ぎようとしていた。

 相変わらず俺は千咲の事ばかりが頭を巡っている。 家にいても授業中でも、誰かと一緒にいても一人でいても。今朝だって寮の皆と賑やかに過ごしている中でも、卵焼きを焦がしそうになる程ぼーっと考え込んでしまう。

 千咲と白銀から言われたことの真意を思案しては、全てを理解出来ない自分が歯痒かった。

 こんな風に、考えても仕方のない事を考え続けるくらいならいっそ会いに行けば良いのだが、どうしてもそんな気にはなれなかった。と言うよりも、行ったところで千咲は居ないだろう。そんな確信があった。


「授業終わったぞ。おーい、然」

「ん? 何?」

「ん? じゃねえよ。授業終わったぜ!」

 終着点のない考え事をしている内に、午前中の授業が終わっていた。 秀祐の声で現実に引き戻された俺は周りを見渡すと、クラスの皆はもう各々の行動に移っていた。机を寄せ集めてすでに昼食を始めていたり、お弁当を持って別の教室に移動したりしている。何と言っても、月に1度の自らが調理した弁当を持って来るお弁当の日という事もあり、いつもの給食時より賑やかだ。

「うわ、本当だ。ごめん、秀祐……」

 俺も慌てて机の上を片付けた。

「然、最近心ここに在らずって感じ多いよな。朝も卵焼き焦がしかけてたし、何かあったのか?」

 どんな時でも元気で明るい秀祐に、心配そうな顔をさせてしまい胸が軋んだ。

「いや、何でもないよ。って言いたい所だけど、本当は凄い悩んでる」

「そっか。俺が聞いても大丈夫な話?」

 少し探るように尋ねられる。

「大丈夫だと思う。ただ、俺の頭の中できちんとその事を整理しきれてなくて……。だから、話せるようになったら話す。それでも良いかな?」

「いいとも〜! じゃなくって、無理して話そうとしなくて良いからな!」

「あぁ、有難う。どうにもこうにも行かなくなったら、文字通り体当たりで相談するかも。秀祐頑丈そうだから」

「そうそう、俺は頑丈だけが取り柄……っておい! 俺だって繊細なお年頃だぞ」

 ノリツッコミで明るさを取り戻した秀祐を見て少し安心した。

「ははは、秀祐って意外といじり甲斐あるよね」

「然は時々サディスティックだよな。まぁでも本当に、こう見えてどんな事でも受け止められるから、かかってこんかぁ〜い」

「流石にそのセリフは繊細なお年頃の人は使わないと思うわ」

「そうです! 俺は逞しい人間です!」

 秀祐のいさぎの良い宣言に二人して笑っていると、廊下から元気な声が飛んできた。

「浅倉くーん! ついでに秀祐も。今日外の方が気持ち良いしさ、一緒に中庭でお弁当食べようよ!」

 秀祐と同じくいつも明るい瑞穂が、元気に手を振っている。

「ついでとは何だ! 瑞穂!」

「ついではついでよ!」

「ああ? お前が俺と一緒に弁当食いたいだけだろ!」

「はあ? 自惚れんのも大概にしてよね! 誰がアンタなんかとお弁当食べたいもんですか」

 いつものことだけれど、未だに慣れない二人の喧嘩腰の会話の前で割って入るべきか迷っていると、よう子がフォローしてくれた。

「あー、この2人は昔からこうなのよ。もう放っておいて先に行きましょう、浅倉君」

 だが、その対応が二人は不満なようで。

「「こら! ツッコメよう子!」」


 3人の漫才に凄く元気をもらった。




 ◆❖◇◇❖◆


 お弁当を抱えて外に出ると、瑞穂が言った通り風が心地よかった。


「あ〜やっぱり季節は秋が1番好き!」

 中庭のベンチに4人並んで腰かけ、お弁当を広げると同時に瑞穂が言った。

「食欲の秋って言うからなぁ。食い意地の張った瑞穂にはお似合いだぜ。俺は断然夏。海! 川! 大好き!」

 秀祐はまた瑞穂が怒り出しそうなことを口にする。

「うっさいわね! 秀祐なんて夏になるとさらに暑苦しくてウザったいじゃない」

「な!? 良兄と比べれば俺はまだ涼し気な方だ!」

 秀祐は身近な人物を引き合いに出す。

「……そうね。良兄は秀祐以上、と言うか情熱的って単語も加わるから猛暑並なのよね」

 それに対して瑞穂は深く納得した。

「だろ? だから俺は───」

「それでもやっぱりウザったい」

「んだとぉ!?」

「まーた始まったわ。私はいつ二人の相手しても寒さで冷静になれる冬が好き」

「よう子……今日は一段と毒舌でいらっしゃる」

「つか、どんどん氷のように言葉が冷たくなってるよな」

 秀祐と瑞穂の会話を無視して、よう子が俺に聞く。

「浅倉君はどの季節が好き?」

「俺? 俺は、春かな。冬から春に変わる頃に吹く暖かい風に包まれると、何となく寂しい気分になるんだけど、でもそれが好きかな」

 俺の答えを聞いた三人は口々に感想を述べた。

「浅倉君てやっぱ繊細だよね」

「うん、何か清純って感じ。どっかの誰かさんとは大違い」

「確かに。どっかの誰かさんと違……って俺のことかいッ!」

 俺だって繊細だ! と言い張る大輔を、3人ではいはいと受け流す。


 久しぶりとなる外でのお弁当は、寮の皆と一緒に作り秀祐達と食べたという事もあってとても美味しく感じた。


 食べ終わって一息ついていると、何処からともなく声を掛けられる。

「おーい、そこのお若いのやー」

 声の主は良佑先輩だった。

「だからお前はオヤジかって。いや、オヤジ通り越してじいさんか」

「皆でバレーボールやらね?」

 総一郎先輩のツッコミを華麗にスルーして手にしたバレーボールを構える。

「良いですねぇ! こてんぱんにしてやんよ、良兄」

 良佑先輩の提案に誰よりも早く賛同したのは瑞穂だ。彼女は高田兄弟全員と幼い頃から親しくしている。

「言うじゃねぇか瑞穂。喰らえ、今中のスローカーブ!」

「それ、野球だから。てかマジでお前何歳だよ」

「俺、球技苦手……」

 この発言から良佑先輩の予想外な事実を知る。

「大丈夫大丈夫。良兄も野球以外の球技苦手だから」

「なのにどうして他の選択をするのかしらね。おバカさんなのかしら」

「苦手だからこそ熱くなれるらしい。訳が分からん」

「元々暑苦しいのに、困った兄だ」

「良兄だもん、仕方ないじゃない」

 移動しながら皆で愛ある陰口を叩いていると良佑先輩が叫ぶ。

「お前らー全部聞こえてるからなー!」

お読みになって頂き、有難うございますヾ(´︶`♡)ノ

宜しければ感想や評価、ブクマ登録もして下さると咽び泣いて喜びます*.+゜


この辺からめちゃくちゃ改稿始まるから、全然進まない。

激ノロ更新申し訳ございません。爆

(先に謝っておくスタイルw)

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