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かぎろひの君  作者: 蒼 唯
夏の終わり
1/8

 もう……最期だ、と言わんばかりに蝉が鳴く。


 そんなまだ蒸し暑さの残る頃。彼らがこれ程までに煩く鳴いているのは、限られた時間の中で新たな生命をのこすという使命を全うする為らしい。

 少し前に見たテレビ番組で得た知識は一応あるが、この声を聞いているとどうしても実はもっと人間的な感情が込められているんじゃないかと思えてくる。

 例えば終わり往く夏を惜しんでいるとか、残り少ない自らの命を嘆いているとか。

「まぁ、そんなわけないか」

 穏やかでのんびりとした田園風景に向かってつぶやくと、彼らの叫び声が一層大きくなった気がした。

 取り留めもないことを考えていると、部屋のドアがノックされた。

浅倉アサクラ〜ちょっといいか?」

「あ、はい。どうぞ」

 返事をしながらドアを開けると、この小さな寮を営む高田タカダ家の次男で現寮長の良佑リョウスケ先輩が立っていた。

「お、もうほとんど片付いたみたいだな」

 良佑先輩は部屋の様子を見て感心したようだった。

「あと少しで終わりです。もともと荷物少なかったんで」

「ホントさぁ、昨日届いた時ビックリしたよ。皆で、コレだけ? って」

「大きい物とか両親の荷物は……叔父の家に置かせて貰ってます」

「そっかぁ〜。ま、あんまここでは気ぃ遣わなくて良いからな。みんな兄弟みたいなノリだし」

 励ますようにバシッと背中を叩かれる。

「ッありがとうございます。あ、それより何か用事があったんじゃ?」

 そうだった、と良佑先輩が焦る。

「今日浅倉の歓迎会も兼ねて夏の恒例行事やるからな!」

「夏の、恒例行事?」

「内容は来てからのお楽しみってことで、17時に食堂集合な。じゃあまた後で」

 颯爽と去って行くその背中を眺めながら、嫌な予感が頭を過ぎった。


 この町に引っ越して来たのは、母の死から丁度3ヶ月が経った昨日のこと。

 物心がつく前にはすでに父も他界していて、そのうえ親戚の話なんて一切聞かされていなかった。頼る身寄りはない、これからは1人で生きていくしかないのだと覚悟した矢先、俺の存在を知った父の弟夫婦が引き取ると申し出てくれた。

 ならば何故こうして荷解きをしているのかと言うと、突然の事で困惑気味な俺に気付いた叔父さんが高田寮を紹介してくれたからだ。知らない大人達との同居より、歳の近い子たちと生活する方が気楽だろうと。

 ただ一つ、週に1度は必ず叔父さん夫婦の家に顔を出してほしいと言われた。今後、一緒に暮らす暮らさないは関係なくして少しでもお互いの距離を縮められたら、という夫婦の希望が込められた約束事。

 そうして俺は、巡り巡って両親の故郷へと辿り着いた。


「そろそろ時間か」

 時計を見ると17時になろうとしている。タイミングよく片付けも終わったところで部屋を出た。



 ◆❖◇◇❖◆


 食堂へ着くと夕飯当番(手伝い)の良佑先輩と高田家四男で同級生の秀祐シュウスケ、それから高田兄弟の祖母で寮母のトキさんがテーブルにたくさんの料理を並べていた。

「あら、ゼンくん時間通りだねぇ」

 真っ先に気が付いたトキさんが声を掛けてくれる。

「はい。丁度片付けが終わったので。皆は、まだみたいだね」

「全員時間にルーズだからな。部活生多いのに」

 やれやれと秀祐がため息をつく。

 入寮したのが昨夜遅くだったので、トキさんとそこに居合わせた高田兄弟3人とは少し話をしたが、朝食も昼食も寮の皆は部活だったり用事があったりで1人で済ませたので、他のメンバーと会うのはこれからだ。

「俺も手伝います」

「お! 助かる。ありがとな」



 良佑先輩と秀祐に物の在り処を教えてもらいながら手伝っている内に、次々と寮生が現れ準備が終わる頃には皆が集合した。

「全員揃ったな? んじゃ冷めないうちに、いただきまーす」

 良佑先輩の声に続いて皆も手を合わせて食卓の挨拶を口にする。メインのおかずに手を伸ばしながら、慣れた様子で良佑先輩が司会進行を始めた。

「ほとんどの奴が浅倉と初対面だし、食べながら自己紹介でもしてこうか。改めまして俺から。基本ツッコミ担当の高田良佑です。この間まで野球部でした〜。好きな食べ物はとんかつです」

 好きな食べ物って、と続く先輩が呟く。

「3年の嶋総一郎シマ ソウイチロウだ。宜しく」

「短ぇな。ぃよ! 生徒会長!」

 すかさず良佑先輩が端的な自己紹介を茶化すが、総一郎先輩は至って冷静だ。

「オヤジかお前は。……まぁ勉強は出来る方だから、わからない所があったらいつでも聞いてくれ」

 本気で頭良いから、と秀祐が教えてくれた。

「次は僕かな? 同じく3年の木村快斗キムラ カイトです。陸上のスポーツ推薦がほぼ確定しちゃってて、練習で高校に行ったりするから寮にいない日もあるけど忘れないでね。好きな食べ物はチーズケーキです」

 好きな食べ物のくだりいらんだろ、と言う総一郎先輩の横から良佑先輩が補足する。

「カイキャプテンファンクラブがある程、女子に大人気です」

「元キャプテンね♪部活引退したのにずっと応援してくれて、ホントに有難いよ」

「出ました! 好感度高めぇなセリフ〜。キラキラしてんな〜ムカつくわ〜」

「僕って好感度しかないから♪良の魅力はその暑苦しさだよね?」

 サラッと笑顔で毒を吐くあたり、快斗先輩の恐ろしさを垣間見た。

「そうだな。良佑の暑苦しさにはよく救われる」

 その毒に大きく相槌をうつ総一郎先輩。

「何それ、2人して褒めてんの? 貶してんの? まぁいいわ。快斗と総一郎は来年からこっちを離れて首都圏の高校に行く予定で、寮か一人暮らしになるから慣れる為に4月からここで生活してんのよ。次、2年's大輔タイスケ〜」

 気だるそうな感じで自己紹介をする高田家三男の大輔先輩は、これが通常テンションらしい。

「うーっす。野球部エースの高田大輔」

「自分でエース言うな」

「あ、門限破った時のごまかし方法とかそういう類いのことは俺に任せろ」

「後輩に変なこと吹き込むな」

 こいつウチの兄弟一やんちゃだから気を付けて、と良佑先輩が小声で付け足す。が、その言葉を無視して3年生2人が名乗りを上げた。

タイちゃん、今度教えて」

「俺にも頼む」

「えっ!? 何、お前らが便乗すんの?」

 同級生のまさかの裏切りに良佑先輩は驚愕する。

「OK。じゃあ手始めに今夜ですね……」

「兄の話を少しは聞けッ。今夜何する気だよ!?」

 そんな4人の会話をぶった斬る強者も登場した。

「和菓子好きの平良紘タイラ ヒロです。一応帰国子女なんで、英語くらいは教えれるよ」

「ありがとうヒロ、察してくれて」

「あ、大丈夫でした? 僕いっつも空気読めないって言われるんで」

「今のはいつになく完璧だった」

 良佑先輩がGoodサインを送る。

「ヒロの家系は皆海外で仕事しててね。家族も親戚もほとんど日本にいなくて、一人暮らしさせるのは不安って事で寮住まい。1年'sは拓馬タクマからね」

「俺っスか? んーっと、あ! 憧れのカイ先輩を隣町からわざわざ追いかけてきた、陸上部の西沢ニシザワ拓馬っス。好きな食べ物はから揚げっス」

 から揚げを掲げながら満足そうな拓馬。

「そう言えばここにもいたな、カイキャプテンLover……」

 大輔先輩が呆れ顔だ。

「だから元キャプテンね♪でもこう見えて拓馬は、期待の新人だからね」

「そんな! カイ先輩から期待されたら、頑張るしかないっス!」

 目を輝かせながら拓馬が快斗先輩に応える。

「快斗が絡むと良佑以上に暑苦しいな、拓馬は」

 宗一郎先輩の一言に真っ先に反応したのはやはり良佑先輩だった。

「はい、今のは完全にけなしましたー傷つきましたー。拓馬も傷つきましたー」

「へ? 俺、傷ついたんスか?」

 ご飯をがっついていた拓馬はきょとんとする。

「はぁー拓馬は今日もアホだなー。和むわー」

「ねー。本当に何だろうね、このマイナスイオンは」

 またしても褒めてるのかけなしてるのか怪しいセリフを紘先輩が放ち、快斗先輩がそれに同意する。

 カオスと化してきた自己紹介に、痺れを切らした秀祐が声を上げる。

「あぁもうアンタ等長過ぎ! この通り変な奴ばっかだけど、いざとなったら皆意外と頼りになるから困った時は何でも言えよ。これからよろしくな」

「わ。あの小さかった秀祐が一番まともな発言して、何かちょっと感動」

「俺もう中1だっつの。ホントにオヤジか良兄は」

 最近オヤジ化がスゲーのよ涙もろいし、と言いながら良佑先輩が俺に振ってきた。

「最後は……もう名前で良いな、然!」

「えっと、浅倉然です。久しぶりにこんな大勢で夕飯を食べて純粋に楽しいです。これからよろしくお願いします」

 皆からもよろしく! と歓迎され、少しホッとした。そんな和気あいあいとしたムードの中、良佑先輩が締めくくる。

「ま、こんな感じでいっつも賑やかにやってるから、ホント遠慮とか無しでやってこうな」

「ちょっと! 俺をスルーすんなよ〜。高田家長男の優介ユウスケで〜す。ピッチピチの20歳で大学生やってま〜す」

 おふざけにずっと参加したそうだった優介さんがようやく乱入を果たした。そんな唯一の兄に良佑先輩が冷やかな目を向ける。

「あえて今まで触れなかったけど、何で兄貴がここにいんの?」

「いや〜実家にいたらさぁ、チビッ子たちが俺を取り合って喧嘩になるから。俺って罪作り〜♡」

「おもちゃにされてるの間違いだろ」

 大輔先輩が痛い所を突く。

「優さんが参戦したんだし、トキさんもどう?」

 皆の様子を微笑ましげに見ながら、ゆっくりと食事をしていたトキさんに快斗先輩が自己紹介を勧める。

「私かい? じゃあそうだねぇ。ここで20年くらい寮母をしてる高田トキです。高田寮に入った時点で、み〜んな孫みたいなもんだからね。良ちゃんと秀ちゃんが言った通り、遠慮なく頼ってきて良いんだよ? 然ちゃん、こちらこそ宜しくね」

 トキさんの言葉に自然と拍手が湧き起こって、自己紹介は無事終了した。



 各々食べながら談笑していると、良佑先輩から不意に尋ねられた。

「然、何か質問とかある?」

「質問ですか……あ、そう言えば良佑先輩達の実家ってすぐ近くなんですよね。どうして3人とも寮暮らしなんですか?」

「あ〜それはねぇ、実家の部屋数の都合上、高田家男子は中学生になると自動的に寮へ追いやられるのです」

 良佑先輩の説明に、ウチ大家族だからねーと優介さんが笑う。

 ごちそうさまでした、が聞こえ始めてきたところで良佑先輩が切り出した。

「さてと、食べ終わったところで……行きますか! あ、兄貴は俺らの代わりにばあちゃんの手伝いね」

「えー俺も行きたいー」

 優介さんが駄々をこねるが良佑先輩は安定のスルー。

「じゃあ優兄の代わりに俺が手伝う!」

 そんな兄たちのやり取りを見て秀祐が名乗りを挙げるが。

「「お前はダメ」」

 良佑先輩と大輔先輩がそれを容易く却下した。

お読みになって頂き、有難うございますヾ(´︶`♡)ノ

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