0002 邂逅…の予感(2)
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★★★
ちょうど一週間前、彼はインターネットで自分の住むべきマンションを探していた。
一応親からの仕送りもあるが、生活のすべてをそれに頼ることなど申し訳ないと感じた光宙は、バイト代だけで生活できそうな部屋がないかと思ったのである。
しかし、世の中は彼を気遣うほど甘くはない。立地条件のいいものは当然高く手の届くことはない上、マンションでも、1LDKで9万円弱、ワンルームでさえも6万円弱は掛かる。けちな彼としては、もっと安い所を選び、なるべく親に迷惑をかけたくないものである。
「やっぱり都心は無理か…。でも郊外なら」
そう思って色々探す光宙だが、なかなか彼の求める条件に合う所がない。いや、無くはないのだ。例えば、最寄り駅まで徒歩20分だったり、一時間に3、4本しか電車が止まらかったりするなど、とにかく不便すぎるのだ。運転免許証を持たず、自転車も手元にない彼としては、駅に近いところが最優先事項なのだ。
「無いのか……」
途方に暮れる光宙。
「仕方ない、アパートにも手をつけるか」
お金に余裕もなく、わがままをいっていられない状態にあるにも関わらず、マンションで独り暮らしがいいという、謎過ぎるこだわりを見せていた光宙であったが、仕方なしに探す範囲を広げる。
しかし、時すでに遅し。気がつけば、もう夕方である。
「こりゃダメか。しょうがない、親に頭下げて、間借りさせてもらえるよう誠心誠意お願いするしかない…………、ん?」
諦めようとしたその時、彼は見つけた。
「何々、ガス電気完備、エアコン取り付け済、最寄りの○○駅から徒歩8分、それでいて家賃月3万円……って、なんだこりゃ!条件良すぎだろ!!」
光宙の求めていた条件にぴったりで、しかもそれを上回る。
「絶対何か裏があるだろ…。いくら裏路地でスラムっぽい土地柄でも、外観がぼろぼろでも、それだけじゃないはずだぞ」
彼の言う通り、確かに駅には近いが、一本どころではなくて二本ぐらい裏に入ったところにこのアパートはある。風俗店が軒を連ねるような場所で、どうみても治安がよいというわけではない。さらに、建物自体も古ぼけた外見で、外装はハげ、瓦は落ちかけている。100年位昔の建物に見え、その上山奥の廃墟のような様相だ。
そして下にスクロールして彼は気付いた。
「……そうか、ここ事故物件じゃん。しかも前の持ち主のものほとんど置きっぱって、入るなって言っているようなものじゃないか」
そうなのだ。叫んでもキレてもどうにもならないが、彼の言うのは事実だ。このアパート、過去にここを借りた住民全てが――しかも8部屋全てで――失踪しているらしい。真相は不明だとか。
「いやダメじゃん。でもこれ以上にこんな良物件ないもんな、いやでも……」
さんざん葛藤し、悩みに悩んだ挙げ句、彼は決断した。
「よし、ここにしよう」
こうして彼はこのアパートにすむことを決めたのであった。
★★★
アパートを下見する日になった。電話をしたところ、今日を指定してきたのだ。光宙は張り切り半分、心配半分でこの日を迎えた。
「大家と会うのが怖いな。一体どんな人なんやろかい」
緊張すると若干言葉に方言が混じる光宙である。
実を言うと、このアパートは今時にしては珍しく、不動産会社との仲介を行わずに大家と直接契約を結ぶことになっているのだ。
このとき彼は気づいていない、このようなケースが非常に珍しいことに。
「着いた。そうか、ここが。いやでも本当に何でこんな場所に建てたんだろう」
彼はこのアパートの前に立ってそう呟いた。
ここは路地裏にあり、表からはかなり見にくいのである。
「しかもチャイム無いんかい」
チャイムがあるはずの場所は、かろうじてその部分だけ雨をを避けた痕跡のあるだけのようだ。他にドアノッカーも見当たらない。ドアを叩けというのか。
「とりあえず叫んでみるか」
「す、すみませーん、以前電話をした勅使河原という者なのですが」
とりあえず叫んでみる光宙である。
「はいはい、ちょっと待ってね」
ガチャリという音がして部屋から出てきたのは、物腰が優しそうな70歳位の老婆。年の割に腰はピンと伸びていて、一目見ただけで壮健だと分かる。
「初めまして、私先日お電話差し上げました…」
「そんな堅苦しい挨拶は抜きにしな。勅使河原くんだね。どうぞ中にお入り」
「あ、はい、お邪魔します」
そんなややありきたりな会話を交わし、大家の部屋に入っていく光宙と老婆。
やはりこのとき、緊張している光宙は気付いていない。
光宙は電話したときでさえ、いついつに訪問する、という予約しか入れてない(というか、先方の誘導で話す機会を得なかったのが正しいか)。それであってどうやって、その老婆は彼の名を知り得たのだろうか?
参考:マンションの価格については、某駅(そこそこ名の知れた、芸能人が多く住むような駅)のものを、LIFULL HOME'S様サイトから参考にさせて頂きました。
ちなみに、作者は住んでません。住めたらいいですけどね(苦笑)
タイピングが遅い故、更新が極めて遅れていて大変申し訳ないです。学業との両立のためにも、今しばらくお待ち下さい。
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