カント
流一は一定のペースで登り続けた。
だが簡単な個所が続きペースは乱れないがロープなしという緊張感が疲労となって蓄積され始めていた。
レストしたくなり岩の隙間に錆びついたハーケンを打ち込みセルフビレイをとって休憩する。
日は少し傾いてはいるが夏の容赦ない日差しが沢登りの格好をしている流一の体力を奪う。
しかし補給するべき水分はどこにもない。
「水不足でミイラになりそうだ。」
手で額の汗を拭うが全身の汗は拭けず脱水症状が進んでいく。
下を見るとスタート地点だったテラスは遥か下の方にありずいぶんと高度を稼いでいたことが分かる。
「もう少し、あと少し。」
自分に言い聞かせて再び登り始めるがやはり体が重くはじめほど動きにキレがない。
しばらく登るとルーフにぶつかった。
一帯ルーフになっているのでトラバースして行っても逃げれそうにない。
「直登しかないか。」
登りやすそうなラインを選び登っていく。
だがしかしホールドがどこにも無い様なな個所にぶちあたる。
必死に頭の中でムーブを組み立てるがどれもうまくいかない。
ルーフなので全身に力が入りあまり持ちそうにない。
そこで唯一のカムを岩の隙間にはめ込みカラビナとスリングをかけ簡易的なアブミを作りそこに足をかけ核心部を人工登攀で超えた。
「うぉ!!」
叫び声とともに勢いよく体を起こしルーフを超えて見せた。
すると傾斜はずいぶんとゆるくなり山頂と思われるピークが少し遠くの方にに見えた。
「やった!!」
流一は喜びの声を上げた。
水分不足と疲労でくたくたの流一だったが集中力を切らさなかった。
慎重かつスピディーに今まで登ってきたところよりも簡単な岩登りをこなしていく。
そしていよいよ山頂にたどり着いた。
山頂に着くと辺りは暗くなりつつあった。
遠くの山脈に日が沈みかけているのが見える。
同時に割りと緩やかな岩尾根が下まで伸びているのも見えている。
風はなく気温はそれほど下がってはいない。
「今夜はここでビバークか。」
服のファスナーなどをすべて閉め体温が逃げない様にして山頂の岩影で体育座りで夜に備えた。
あっという間に日が沈み星が出た。
想像していたよりも気温は冷え込まず快適だったが一人きりの夜は長い。
現状の意味不明な状況を整理したりしているうちに時間は過ぎいつしか寝入っていた。