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マナツノヒルノユメ  作者: akihu
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カミカクシ

気が付くと見覚えのあるテラスにいた。

いや、正確にはいるような気がしたが正しい。

確かに人が2人くらい立っていられるほどの足場がありその形状には見覚えがあるものの何やら岩質が違う。

さっきまで花崗岩の岩を登っていたのにいまは砂岩の様な岩のテラスの上に立っている。

目の前を見ると確かに自分が打ち込んだハーケンが二枚あるただしどちらも錆びついてはいるが。

少し動揺していたので深呼吸をして気持ちを落ち着かす。

改めて冷静に自分の置かれた状況を整理してみる。


装備はハーネスにカラビナやスリング類が少し、腰にはハンマーが吊るしてあり足は履きなれたクライミングシューズ、スポルティバのミウラ。

服装は下はタイツに半ズボン、上は長シャツの上に合羽を羽織っていて頭にはヘルメット。

ザックはなくなっていたがほぼ登攀中の格好そのままだ。


とりあえずハーケンにスリングでセルフビレイをとり周りを見渡してみた。


眼下には草原が広がり森もちらほら見える。

家畜の様なものも見えるので放牧をしているのかもしれない。

遠くの方には山脈が続いているのも見える。

すぐ真下の方を見ると町があった。

ただ足元に広がっている空間は膨大だ。

体感的におそらく1000mくらいの標高差はあるだろう。


「...。」


とても言葉が出なかった。

自分の置かれている状況を理解しようと必死にに考えてみたがあまり考えはまとまらない。

ただ昔大峰山地の沢に入る前に宿を取ったことがあった。

その時宿の主人が神隠しの伝説について語っていたのを思い出した。


「神隠し...。まさか?」


そんな途方もない可能性しか頭には浮かんでこなかった。


なぜこんなところにいるのか考えることは後でもできるが今は安全な場所に移動するのが先決だと感じた。


下を見ると垂直に近い壁になっておりそんなところを1000mもクライムダウンするのはまず不可能だろう。

ハーケンはないしカムも一番小さいのが一つだけロープもなくなっており下りは無理だと悟った。


それなら上はどうかと見渡してみるとやはり壁にはなっていたが斜度が若干ゆるい気がする。

また右手にはゆるめの尾根が続いているのが見えた。

ということはこのまま山頂へ抜けることが出来ればあの尾根を下って下山できるかもしれない。

そんな希望がすこし芽生えた。


だがロープによる確保なしでどうやって登っていくか?問題はそこだった。


「フリーソロしかないのか。」


フリーソロとは命綱無しで行うクライミングのことである。

当然落ちれば即死はまのがれず大変危険なのでほとんどやる人はいないしやっても普通はかなりの安全マージンを取ったりロープを付けて登りこんだルートに限られる。


ざっと見て一番近い部分でも5.10位のグレードはありそうで登るにしたがって傾斜がゆるくなるとしても危険なことには変わりない。


太陽は真上にあり気温は高い、だが日が傾いてこれば当然暗くなりヘッドライトをザックごと失くした今では夜間行動はまずできず気温だって下がるかもしれない。

そうなると壁の中でのビバークとなるがビバークの用意がない現状ではそれは避けたい。

つまり日が暮れるまでの数時間のあいだに山頂まで抜けなければならないのだ。


「要は落ちなければいいんだ。行くしかないか。」


そう呟いて目の前のハーケンを回収して意を決して登り始める。




同時に山岳小説「クライマー」も連載中です。興味がある人はぜひ読んでみてください!

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