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虚に堕ちた少年  作者: 白銀色
1/2

始まりの日

元々書いてた話の改稿中にチマチマと案だけ練ってたやつを書いて見ただけです

不定期なので思い出した時に読んであげてください

たぶんたまーにひっそりと新話が更新されているでしょう

「ただいまー」


 誰かの返事も期待してなさそうに呟きながら、少年は薄暗い部屋に入る。

 ここは都心から離れた、とある街の、とあるアパートの一室。部屋番号は201。

 我が物顔で部屋を歩き回るのは、制服に身を包んだ高校生と思われる少年。


「ただいま、母さん」


 少年はそう言い、部屋の隅にある仏壇の前に正座して手を合わせる。

 手を合わせてしばらく経っただろうか。膝に手をつきながらゆっくりと立ち、ぽつりと呟く。


「ご飯にしよう」


 そうして、ビニール袋からガサガサと取り出したのは大量生産品のお弁当。



 本日のメニューは、セブンセブンのコンビニ弁当、鳥の竜田揚げ弁当だった。



 もそもそと弁当を食べ、学校から出された課題をやり、風呂に入って床につく。

 少年のいつもの生活サイクルだった。


「おやすみ、母さん」


 そして静かに眠りにつく。

 眠る少年は身じろぎひとつせず、只々眠っていた。














 春先の、まだ冷たさの残る空気と少々の暖かな日差しに刺激されたのか。

 まだ日も昇らない時間だと言うのに、まるで死人のように動かなかった少年は、スッ……と目を覚ました。


「おはよう、母さん」


 やはり挨拶は欠かさない。





 バナナとヨーグルトが毎朝の朝食。

 食事もすぐ終わり、黙々と黒い学生服を着て登校する。

 通学路をのんびりと歩く。まだ人は疎らで、通勤のために早く出た大人が忙しなく歩いているくらいだ。

 程なくして、自らの通う高校に着く。早すぎたのか校門は開いていなかったが、通りかかった教師について行く形で入っていった。


 少年は自分のクラスへと歩を進める。教室の札にぶら下がった教室名は──「2-C」。

 学年が上がってから毎日座っている席に座り、ポケッと虚空を見つめて時間を潰す。

 これが彼の普段の姿であり、周囲の人間からは「魂が抜けてんじゃね?」と噂されるほど生気を感じない(・・・・・・・)


 そうして時間が過ぎて、徐々に教室に人が増え始めていた。入ってくる学生らをチラリと見つつ、しかし何をするでもなく座ったまま動かない。

 更にしばらくした後、先生が来たようだ。

 先程のような意識すら感じない状態からは戻り、だが無表情のまま朝の連絡を聞く。


 今日一日の、面倒な勉強の始まりだった。
















 日が落ち始め、いい加減勉強用の体力が限界に達するであろう5時間目。授業終了の鐘が鳴り、最後に担任が締めて終わりにする。


「あー、最近この近くで不審者が出没してるらしい。学校から帰るときは寄り道せずまっすぐ帰りなさい」


 そんな言葉を聞いているのかいないのか、生徒たちは適当に「はーい」と返事をして解散。そして、部活へ遊びへと動き出す。

 少年も静かに、ひっそりと立って帰路につこうとした。


「待って」


 しかし、それを呼び止める声が。

 振り向くとそこには、見慣れた少女。


「……」


 少年が無言で振り向くと、少女はどうしてか悲しそうに傷ついたような顔をする。


「セイ、今日は……」


少女が何かを言いかける。すると、それを遮るかのように、少年は静かに言った。


「……秋山さん、いい加減僕のことは気にしなくていいんだよ。君は、アイツの彼女でしょ? ……それじゃあね」


 言うだけ言って、話はもう無いとばかりに身を翻して帰っていった。

 一人取り残された少女は途方に暮れたように立ち尽くす。


「未来―? 何してんの?」


「また幼馴染み君に振られたの?」


 そこに、友人と思しき少女が二人やってくる。


「春香、夏美……どうしてセイは私を避けるんだろう……」


「アンタに彼氏いるからでしょ」


「遠慮してんのよ彼は」


 何を分かりきった事を、と言った顔で春香と夏美は未来に言う。

 だが幼馴染みの少女は、終ぞ理解することなく首をひねるだけだった。

 だって彼女に、彼氏なんてものは居ないのだから。

















 幼馴染みから逃げた少年は、惨めだな……と自嘲しながら歩く。

 と、前方に彼を遮る様に立つ男がいた。


「よう、セイ」


「……なんだよ、ショウ」


 少年は無感情な瞳を向ける。

 それを受けてショウと呼ばれた男は優越感に浸ったような顔で語る。


「お前まだミクを煩わせてんだろ。言ったじゃねぇかアイツは俺のだって。証拠の動画も散々見せたよなァ?」


「……あれは君が勝手に見させた物だし、彼女が未だに手を焼こうとするのは僕の意思じゃない、勝手に付き纏ってるだけだ。自分のだっていうなら手綱握っててくれないか?」


 普段の少年を知っている人が見れば驚くだろう。彼が多少なりとも感情を露出しているのだから。

 そして、それを向けられたショウは面白くなさそうに舌打ちをする。


「ッチ。テメーがとっとと死ねばいいだけの話だろうが。ゾンビみてーに死んでないだけの生きる屍の癖によ。……まぁいい、今度また新しいヤツやるよ。それくらいのおこぼれは与えてやるよ」


「そんなものはいらないよ……興味もない」


 少年は静かに告げるが、ショウは何を勘違いしたのか、優越感が滲み出た表情をしていた。そうして、下品な笑い声を響かせながら、かつて親友だと思っていた屑野郎は路地の奥へ消えて行った。

 ただ立ち尽くし、ポツリと呟く。


「…………惨めだなぁ」
















 それから家に着いて、少年は少し寝た。

 いつものようにコンビニ弁当で夕飯を済ませ、学校から出された課題をやる。このルーチンワークじみた生活サイクルは、最早彼の精神を安定させるものとして役立っている。

 しかし、嫌なことがあった今日に限ってトラブルが起きた。


「……あ、ノートがない」


 課題をやる上で使っていたノートのページが無くなり、しかし買い置きはなかった。


「仕方ない、買いに行くか……」


 時計を見ると現在深夜1時過ぎ。もはや投げ出してしまいたいがそれはそれで後が面倒臭い。

 仕方なく気怠げに、のそりのそりと動き出す。

 まだ冬の残滓が残っているのか、外は肌寒かった。


(そういえばこの辺りで不審者が──って先生言ってたっけ)


 取り留めもなくそんなことを考えながら、コンビニに着きノートと、ついでに紙パックのカフェオレを購入する。ちょっとした気紛れだ。


 ちゅー……とストローで飲みながら帰路に着こうとコンビニを出た。そして、視界の端、暗い夜道のその先で、少年は何かを見た。


(なんだ……?)


 彼にしては珍しく、それにちょっとだけ興味が湧いた。だから柄にもなく追いかけて、そうして分かったのは


(女の子が──追われてる……?)


 どこかの私立高校の制服だろうか、この辺りでは見かけない綺麗なデザインの服に身を包んだ少女が、黒ずくめの男3人に追いかけられていた。


(不審者……ってもしかしなくてもあれだよね)


 突然の出来事ではあったが、冷静に対処しようと警察に連絡、110と打っていざかけようとした所で


「おい、貴様何をしている」


 男たちの仲間と思しき奴にバレた。


(──!?)


「まさか一般人に見られるとは……突然のことで申し訳ないが、君を拘束させてもらおう」


 そうして、あれよあれよと言う間に少年は虜囚となった。ついでに追われていた少女も捕まっていた。ぐったりして動かないあたり気絶しているのかもしれない。


「何なんだ、一体」


 少年の心にあるのは、この一言だけだった。少年のつぶやきに答えてくれる人はここにいない。

 そんな中、コツコツ……と靴音が響き、暗闇から新たに人が現れた。切れ長の瞳がとても美しい、そんな印象を抱く女性だった。

 彼女は現れるなり、捕まった少女を見て言った。


「ん、捕まえたのか」


「ええ、学園長。とんだお転婆姫でしたよ。こんなところまで逃げていたとは」


「ははは、それはご苦労だったね。私としても驚いたよ……で」


 学園長と呼ばれた彼女の視線が、拘束された少年に向けられた。


「この子は誰かな?」


「お嬢様を追っている姿を見られまして……警察へ連絡される危険があったので拘束しました」


「成る程ね……ん? 君は──」


 少年を見る目つきが変わる。まるで何かを品定めするかの様に鋭くなった。


「君の名前は、なんて言う」


「……天野。天野 静」


 それを聞いた彼女は、驚いたような表情をしたあと、目を覆い天へと顔を仰ぐ。


「嘘でしょう……なんであの人の息子がこんな所にいるのよ……」


「?」


 いまいち理解しきれてない少年──静に、「学園長」は告げる。


「ごめんね。君も来てもらうしかなさそうだ……バカ娘と一緒にこの子も連れてきて」


「ハッ、……は? よろしいので?」


「うん」


「承知致しました!」


「待ってくれ、僕は──」


「失礼、少年」


「──ガッ!」


 静の意識を落とした黒ずくめの人たちは学園長に敬礼をして、気絶した静と少女を車に乗せる。

 ……こうして、とある街に住む少年は忽然と姿を消した。しかし、騒ぎになる事なく、警察沙汰になる事もなく、ひっそりと彼の存在は消えて行った。

変なところあったら指摘くだしあ

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