とある一人の悩める陸上男子
1.
「…ハッ……ハッ…ッッ!」
走る…。走る。100mという地上ではかなり短い距離を。
あっちでは意識などした事もないが、100mというのは存外、すぐ届きそうで届かない。難儀だな。しかし土が少々堅いな…人間はこんな所で走るのか。難儀だ。実に分からない。
「カイ!お前、最近調子いいなぁ。ちょっと前まで県大会のこと引きずってると思ってたが、ようやく吹っ切れたみたいだな!」
煩い…お前など知らん。と言いたい所だが、こいつは友達のケンゴ…らしい。俺の幼なじみで俺を陸上に誘ったクラスの人気者…らしい。なぜか俺のことを『カイ』と呼び、それがクラスに伝播し、めでたく(?)俺は『カイ』という称号をいただいた。
ま、恐らくだが、"宿主"の名をもじったものであろうな。身体の記憶を辿るとそのような記憶がある。
だが、名付けをされたのなら、目の前のこいつが主人か…しかし、記憶ではかなり対等な態度を要求していると見える。今はそれに従うとしよう。
「…ん…ありがとう」
言葉少なめに答える。最初こそ"宿主"と俺の性格の乖離に難儀したが、今では上手いもんだ。
「じゃ、そろそろ終わりにするか。…おーい!今日はもう終わりだ!一年は柔軟終わったら片付けなー」
…やはり人間というのは年功序列を気にするのか…いや、構うまい、単に実力主義が年齢主義に変わったと思えばいい。それにあっちでも歳を食ってる奴は大体強かったしな。
思えば一ヶ月前、"こいつ"に憑いた時も現代社会の技術に驚いたものだーーー……