8品目
「メ、メビウスさん、おはようございます。結構な荷物ですね」
「仕方ないだろ。魔物が何かもわからないんだ。捕らえるのに必要な道具って物もあるんだよ」
「そ、そうですよね。必要な準備ですよね」
「……それより、ずいぶんと集まるのが早くないか?」
魔物討伐出発の朝、メビウスはいつも食材採取の装備を整えて集合場所である王都の西の門に移動する。
約束の時間より、早く到着したのだがすでにセフィーリアとロイックは集まっており、2人以外にも騎士鎧を身にまとった者達が10人ほど馬車に荷物を確認したり、積み込んだりと忙しそうに出発の準備をしている。
ロイックは今回同行する第8騎士隊の隊長であり、集まっている騎士達に向かい指示を飛ばしており、騎士達は逆らう事無く、指示に従っているのだが騎士達の多くは貴族出身者であり、わがまま放題の者達も多い。隊長とは言え腰の低い彼の指示に反発するのではないかと考えてしまったようでメビウスは不思議そうに首を傾げた。
そんな彼をセフィーリアが見つけて駆け寄ってくるのだが荷物の多さを見て不思議そうな表情をする。
情報が隠されているのは自分達が倒せなかった魔物を騎士以外の人間に討伐されるのが面白くない者達の嫌がらせにしか思えないため、メビウスは呆れていると言いたげに深いため息を吐く。
彼の様子に詳細を伝えられなかった彼女は気まずいようで視線をそらす。彼女に文句を言っても仕方ないと判断したメビウスは忙しそうな騎士達を指差して話をそらすとセフィーリアはメビウスの言いたい事がわからないようで首を傾げる。
「そうですか?」
「ああ。それに何度か騎士達が王都から出て行くところを見たけど、その時は付き添いだ。お見送りだとか無駄な人間が居たぞ……そいつらはまだか?」
「えーと、メビウスさんで今回のメンバーはそろいました」
メビウスの疑問は食材確保に行く時に何度か騎士達の出発と鉢合わせた事から来ているようでその時の事を思い出している。
彼が何度か見た騎士隊の出発の様子は平民のメビウスから見れば異質であり、これから以前に見た騎士達の横柄な態度を見せられると思うと頭が痛くなってきたようでげんなりとした様子で言う。
しかし、セフィーリアは言い難そうな表情をしてこれで全員がそろったと答えるがメビウスは彼女の言葉が信じられなかったようで眉間にしわを寄せた。
「本当に全員なのか?」
「は、はい……問題ありますか? やはり、人数が少ないと魔物討伐は出来ませんかね?」
「いや、そう言うわけじゃない。むしろ、役立たずは少ない方が良い」
セフィーリアは人数が少ない事にメビウスが不安がっていると考えたようでメビウスは騎士達を役立たずとしか思っていないようでどうでも良さそうに答える。
ただ、その言葉はセフィーリアにとっては傷つく言葉であり、彼女は肩を落とすがメビウスはまったく気にする様子はない。
「メビウスさん、早いですね」
「そう言っても俺が最後なんだろ」
「そうですね。もしよろしければ出発時間より早いですが出発してもよろしいでしょうか?」
彼女が落ち込んでしまった事でメビウスは話し相手もいなくなったためか騎士達の様子を眺めているとロイックが近づいてくる。
集合時間には早いがすでにセフィーリアから全員集まったと聞かされているメビウスは遅れてしまった事が気まずいようで頭をかいた。
ロイックはメビウスの様子に苦笑いを浮かべた後、気を使ったのか出発を提案する。
「俺は構わないけど……準備終わっているのか?」
「……終わっていませんね」
「とりあえず、手伝うか? 俺の荷物も積まないといけないだろうし」
「申し訳ありません。セフィーリア、あなたも手伝ってください」
「は、はい!? メ、メビウスさん、待ってください」
店主であるメビウスが留守の間は店が休みのため、メビウスは魔物討伐を手早く済ませて王都に戻って来たいのが本音であり、その提案は彼にとっては歓迎すべき物ではあったのだが騎士達は準備になれていないようで進行状況は進んでいない。
騎士達の様子にメビウスはため息を吐くと手伝いを買ってでると頭をかきながら、騎士達の下に歩いて行く。
ロイックはメビウスが騎士にあまり良い印象を持っていない事もあり、ちょっとした事で問題が起きても困るため、セフィーリアに彼の相手をさせようと決めたようで彼女の肩を叩いた。
セフィーリアは正気を取り戻したようで慌ててメビウスを追いかけて行く。背後から聞こえた彼女の声にメビウスは振り替えると眉間にしわを寄せて言う。
「……役に立つのか?」
「で、出来ますよ。きちんとお店だって手伝えているじゃないですか!? な、なんで、みなさん、そんな反応なんですか!?」
日頃、見ている彼女から旅の準備が出来るかを疑っているようである。
疑いの視線にセフィーリアは声を上げるが、彼女の声に騎士達は手を止めた後、ゆっくりと首を横に振った。
騎士達の反応から彼女の手際が悪い事は見て取れ、メビウスは大きく肩を落とす。
「そ、そんな事ないですよ。ほら、私、料理できていますよね? お店で役に立てていますよね?」
「……悪い。言いたくはないけど、料理以外できないだろ」
彼からの評価に納得がいかないセフィーリアは自分がいかに竜の焔亭で役に立っているかを伝える。
ただ、何度か手伝いをして貰っているメビウスは彼女の仕事ぶりを見ているようで険しい表情をして首を横に振った。
「メビウスさんのお店のお客さんの評判から少しは上がると思っていたんですが……セフィーリア、これ以上、騎士の評判を落とさないでくださいよ」
「お、落としていませんよ!? メ、メビウスさんも笑っていないで何か言ってください!?」
ロイックは騎士の評判を気にしているようでメビウスの店に彼女が顔を出している事は目をつぶっていたようである。
ただ、彼女の失敗が騎士の評判を落としているのなら考え直さなければいけないと思い始めたようで眉間に深いしわを寄せた。
セフィーリアはそんな事はないと味方を得ようとするのだが、助けを求められて彼は小さく口元を緩ませるとその声を無視して自分の荷物を用意された馬車に積み込んで行く。