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7品目

「……という条件になります。出発は不都合がなければ3日後になりますがよろしいでしょうか?」

「……」

「何か問題があるんでしょうか?」


 メビウスがモップを買って戻ってくるとロイックは今朝、メビウスが突きつけた条件で問題ないと結論が出た事を説明する。

 その説明にメビウスは時折、掃除の手を止めて聞いているが説明を聞き終えた後に眉間に深いしわを寄せた。

 表情は何か言いたげに見え、ロイックは首を傾げて聞き返すとメビウスは頭をかいた後に真剣な表情をして言う。


「俺の方は別に出発はいつでも良い……2つ聞きたい事があるんだけど良いか?」

「はい。お願いします」

「1つ目は討伐対象の魔物だな。おい。どうして、目をそらす? まさか、わからないのか? 2回も討伐に出ているんだろう?」


 説明の中には討伐するはずの魔物の種別がなく、魔物を食材にしているメビウスには重要な話であり、詳細を聞く。

 彼の言葉になぜかロイックは視線をそらしてしまい、メビウスはイヤな予感がしたようで眉間に深いしわを寄せた。

 ロイックとセフィーリアには魔物に関しての情報は何も与えられていないようで言葉が続いてこない。


「……後は付いてくる騎士ってのが第8騎士隊になっているんだけど」

「わ、私達の隊では不満ですか?」

「いや、あんた達はさっきのバカ達と違ってまだ話が通じるから問題ない。ただ、手柄が第1騎士隊になるって言う意味がわからなくてな。あんた達が付いてくるんだから、普通、手柄はあんた達になるだろ?」


 2人の反応から魔物の種別はわかっていないと判断したメビウスはもう1つの疑問をぶつける。

 魔物討伐に同行するのはセフィーリアやロイックの所属する騎士隊のようだがなぜか魔物討伐を終えた名誉は他の騎士隊の物になるようになっている。

 メビウスは魔物の種別が説明にない事や同行騎士隊に悪意のような物を感じているようであるがその意味自体はわからないようである。ただ、彼の反応にロイックは困ったような表情をして笑い、セフィーリアの表情は曇って行く。


「……何かあるのかよ?」

「私達は出来損ないの第8騎士隊ですから」

「出来損ないね……自分で言うか、くっだらねえ」


 何かある事は簡単に察しが付き、メビウスが眉間にしわを寄せた。

ロイックは自分を含めた第8騎士隊の事を出来損ないだと言い、セフィーリアは何か言いたげではあるが黙って頷く。

 メビウスはくだらないと言いたげにため息を吐くと掃除が終わったようで掃除用具を片付け始める。

 彼の言葉にセフィーリアの表情はさらに暗くなるのだがロイックは何度も言われているようですでに諦めているのか苦笑いを浮かべている。


「だけどよ。自分達は付いてこないのに手柄だけ横取りって面白くないな」

「仕方ないのよ。第1騎士隊は名家のお坊ちゃま勢ぞろいだから、危険なところには行けない、行かせられないのよ。さっき、来たのも名前だけはこの国の将来を担う若い騎士達でしょ。強さで言えば第2騎士隊か第7騎士隊じゃないの? 第2騎士隊は貴族出身者でも手練れを集めた部隊、第7騎士隊は兵士達から実力者を吸い上げたはずよ。さすがに王様も騎士達の弱さに危機感を持ったんじゃないの?」

「家の名前だけで騎士かよ。この国の終わりも近いな……あれ、そう言えば、敗走した騎士隊はどの隊なんだ? まさか、その実力がある部隊が敗走したんじゃないよな?」


 ロイックの諦めているような笑い方にメビウスはどこか苛立っているようではっきりと自分なら面白くないと言う。

 その言葉にセフィーリアが何か言いたげな表情をするとターニアは騎士隊の実状を知っていたようでため息を吐いた。

 自分で倒しておきながら、騎士達の弱さにメビウスは眉間にしわを寄せた後、2度ほど騎士達が敗走した事を思い出す。


「1度目は新人騎士を多く組み込んだ部隊で連携が上手く行かずに敗走です」

「……騎士はそれを毎年やらないと気が済まないのか? 去年もそんな事をしていただろ」

「あの時は本当にご迷惑をおかけしました」

「それで、2回目はどうだったんだ?」


 ロイックは気まずそうに視線をそらし、1度目の敗走状況を伝える。

 メビウスは騎士隊が敗走して行くところに立ち会った事があるようで大きく肩を落とす。

 セフィーリアはメビウスがいつの事を言っているのか瞬時に理解したようで慌てて頭を下げるが今更、謝られる事だとはメビウスは思っていないため、2度目の敗走に付いて質問をする。


「2度目は第3騎士隊と第4騎士隊の混合部隊だったのですが……どちらが指揮権を持つかで揉めて、揉めている時に魔物からの襲撃を受けて敗走しました」

「……本当にどうしようもないな。その辺の冒険者を雇った方が楽に片付くんじゃないのか? それに第2でも第7は倒せるかも知れないんだろ? それならさっさと片付ければ良いだろ。使える部隊があるのに動かさないのは無駄だろ」

「そうなんだけど、きっと、いろいろと有るのよ。その部隊を動かせない理由とかね。まあ、その辺は私達、庶民には想像も付かないわね。付きたくもないけどね」


 聞かされる騎士達のバカさ加減にメビウスは大袈裟にため息を吐いて見せた。

セフィーリアとロイックは騎士の問題点は理解しているようではあるが立場上、頷く事が出来ずにいる。

 2人の様子を見たメビウスはもう1度、ため息を吐いて見せると実力のある騎士隊がいると知ったためか魔物討伐依頼が自分に来た事に疑問が生じたようで首を捻った。

 ターニアは新しい酒瓶を開けながらメビウスの疑問を笑い飛ばす。


「……確かに考えても仕方ないな。依頼を受けたからには俺はやるべき事をやるだけだからな」

「そう言う事よ。ただ、街を出るからには気を付けなさいよ」

「はいはい。お姉様、わかっていますよ」


 騎士達に何があっても部外者の自分には関係ないと言うが割り切れてはいないのか誤魔化すように頭をかく。

 甥っ子の言葉にターニアは小さく表情を和らげるが叔母として甥っ子の事を心配しているのか注意を促す事は忘れない。

 メビウスはターニアの気持ちをわかっているのかわかっていないのかおざなりに返事をする。


「それでは問題なしと言う事で報告させていただきます」

「ああ。それじゃあ、3日後にな」

「はい。それでは失礼します」


 依頼の条件をメビウスが承諾してくれたと判断し、ロイックは店を出て行くがなぜかセフィーリアは残っている。

 メビウスは首を傾げるものの、話す事があるのだったら自分から話してくると考えたようで厨房の中に入り、明日の仕込みの準備を始める。


「あ、あの。メビウスさん」

「メ、メビウスさん、そう言えば、彼らをどこに置いてきたんですか?」

「あ? 俺が外に投げ捨てた後に街の奴らが引きずって、どこかに運んで行ったぞ。どこかに捨てられているんじゃないか?」


 セフィーリアは何かを決意したかのようにメビウスを呼んだ時、勢いよくドアが開き、顔を青くしたロイックが戻ってくる。

 メビウスの反感を買い、外に投げ捨てられたはずの騎士は店の外に置かれていたと思っていたようで店を出たら騎士達がいない事に驚いたようだ。

 ロイックは慌てているのだが騎士達は彼らが思っている以上に庶民達に嫌われているようであり、メビウスはどうでも良さそうに言う。


「セ、セフィーリア、探しに行きますよ」

「は、はい。メビウスさん、ターニアさん、失礼します」

「はいはい。フィーちゃん、また、お店手伝いに来てね……忙しいわね。お酒を飲んでゆっくりすれば良いのに」

「……飲めない奴に無理やり飲ませるなよ」


 行方不明の騎士は第1騎士隊に所属している有名貴族の子息であるため、ロイックはセフィーリアに声をかけると2人では慌てて店を出て行ってしまう。

 ターニアは2人を見送った後に酒をカップに注ぐのだが結局、1日中飲んでいた彼女の様子にメビウスはため息を吐くと仕込みを続ける。


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