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「ラングラドの指示で俺の援護を第8騎士隊がする? ……なんのためにだ?」
「……言いたい事は良くわかります。私達だってメビウスさんの食材調達について行ける自信なんてありません」
セフィーリアの予感は正しくロイックは自分が率いる騎士隊を襲った悲劇を話し始めた。
しかし、メビウスは同情する事無く、それどころか足手まといを押し付けられたと不快感をあらわにする。1度、メビウスの食材集めに同行したロイックは自分達が足手まといだという事は充分に理解しているようでただ肩を落とす事しかできない。
「やっぱり、監視が必要と思われたんでしょうか?」
「付いてこられると思っているのか?」
「で、ですよね」
ラングラドの思惑がわからずに首を傾げるセフィーリアではあるがその言葉には説得力など何もないため、彼女の顔は引きつるだけである。
実際問題、メビウスの食材調達に第8騎士隊が同行しようが下手をすればメビウス以外は全滅するのは目に見えている。確かに第8騎士隊はお荷物部隊とは言われているが他の騎士隊と同様に有力貴族の子息子女で構成されており、全滅などしてしまえば問題が起きるのは容易に想像が付く。
「……嵌められたか?」
元々、貴族連中は竜の焔亭に良い感情など持っていない。第8騎士隊は有力貴族の子息子女とは言え、お荷物部隊に配属されるような者達であったとしても騒ぎを起こす程度の捨て駒くらいには充分に利用価値はある。有力貴族達にとってお荷物の子息子女を排除し、目の上のたんこぶである竜の焔亭に責任を擦り付けた上で攻撃をする名目を手にする事が出来るのだ。
メビウスはラングラドの思惑が竜の焔亭をつぶす事もあり得ると思ったのか眉間にしわを寄せるがセフィーリアとロイックは意味がわかっていないようできょとんとしている。
「何かあったんですか?」
「気にするな」
「な、なんでしょうか?」
メビウスのつぶやきが聞こえたのかセフィーリアは首を傾げるが完全に決まったわけではない事や元々、自分もラングラドを利用しようとしているためか彼女の質問に答える事はない。
ただ、食材調達にロイック達が付いてくるのはメビウスにとっては都合が悪く、ロイックに向かい鋭い視線を向けた。その視線に彼は怯んでしまったのか声を裏返す。
「邪魔だから付いてくるな」
「私達だってそうしたいんです。それができないくらいの命令なんです」
「そうか。無視しろ。これで用件は終わったな。さっさと帰れ」
第8騎士隊など邪魔だと切り捨てるメビウスだがロイック達にも逆らえない何かがあるようで彼はどうにかして欲しいと言いたげである。
それでもメビウスはバッサリと切り捨てるとロイックを追い払うように手を払う。
「メビウスさん」
「……良いから帰れよ。勘違いしているみたいだけど、別に俺はあんたの味方ってわけでもないんだよ。命令が大切なら勝手についてきて勝手に全滅しろ。命が大切なら付いてくんな。それだけだろ」
ロイックは自分達の立場を理解して欲しいと彼の名前を呼ぶが最近になって付き合いができたとは言え元々、騎士隊を含めた貴族達に良い感情を持っていないメビウスが相手である。
第8騎士達がどうなろうが興味ないと言い切られ、ロイックは助けを求めようとするがこの店の中で彼を助けようとするものはセフィーリアだけである。それも彼女はすでに常連客達に半ば強引に引きずられて行った後であり、援護のない彼は肩を落として店を出て行く。
「面倒な事にならなければ良いけどな……間違いなくなるか?」
メビウスはその背中を見送った後、小さくため息を吐くと店の仕事を再開する。




