66品目
「いらっしゃいませ……た、隊長、どうしたんですか?」
「メビウスさん、これはいったいどういう事なんですか!?」
「あ? 用件を話せよ。これじゃ、わからない」
ラングラドからの提案を受けると承諾して3日経った時、騎士鎧を身にまとった男性が勢いよくドアを開けた。
ドアを開けたのは以前にセフィーリアが所属していた落ちこぼれの第8聖騎士隊長のロイックであり、彼の慌て方にセフィーリアは首を傾げる。
ロイックはセフィーリアの相手などしている余裕などないようでカウンター内にいるメビウスに詰め寄るが彼は何しに来たか容易に想像が付いているようで面倒だと言いたげにわざとらしいくらいの大きなため息を吐いた。
「わからないじゃないですよ。オーミット家が後ろ盾になるって言うのはどういう事ですか?」
「どういう事も何もそのままだ」
「そのままじゃ、わかりません」
彼が竜の焔亭に顔を出した理由はメビウスの思っていた通りであり、別に話す事でもないと言いたげに追い払うように手を払う。
しかし、ロイックはただ事じゃない事が起きているんだとカウンターを叩く。彼の様子からしっかりとした説明がないと帰らないと言う気概が見える。
ただ、それはロイックの都合であり、メビウスは答えるのが面倒だと言いたげに眉間に深いしわを寄せた。
「だいたい、なんであんたに話さないといけないんだよ。まったく関係ないだろ」
部外者には用はないとメビウスは店の仕事を再開する。
彼の態度にロイックは困ったように肩を落とすが彼にもここで引けない理由があるのか話して貰えるまで粘るつもりのようでカウンター席に座り、わざとらしくメニューを覗き込む。
メニューを見ていれば少なからずお客様であるため、メビウスは眉間にしわを寄せながらも彼の前に水の入ったグラスを置くと余計な話をしないと言いたいのかグラスを磨きだす。
「あ、あの。メビウスさん、隊長」
「セフィーリア、詳しい話を聞かせてくれませんか?」
「え? あ、あの……詳しくと言われてもラングラド様が何を考えているかなんて私にはわかりませんよ」
ロイックは話しかけるタイミングを見計らっているのか、ちらちらとメビウスへと視線を向けるのだがメビウスは完全に無視を決め込む。
2人の様子に常連客達は空気が悪くなるからどうにかしろとセフィーリアに合図を送り、彼女はしぶしぶと2人に声をかけるとロイックはメビウスから話を聞くのをあきらめたのか標的をセフィーリアへと向けた。
セフィーリアは矛先が自分に向けられるとはまったく思ってもいなかったのか慌てて常連客達に助けを求めるが彼らは当然のように彼女を見捨てる。
「わからないでは困るんですよ」
「す、すいません」
彼女の答えではロイックは何の問題解決にもならなかったようで大きく肩を落とす。
その様子は今回の件でロイックも問題に巻き込まれているようにも見え、セフィーリアはいたたまれなくなったのか深々と頭を下げると視線でメビウスへと助けを求める。
メビウスは眉間にしわを寄せるも関わる気もないのか声をかける事はない。
「せめて、話を聞いてください!!」
「別にあんたには関係のない事だろ。ラングラドが条件を出してきて、その条件がこっちに都合が良かったから飲んだ。それ以上もそれ以下もない。あんたには関係ない話だろ」
「……あの隊長、ラングラド様が第8騎士隊に何か言ってきたんですか?」
ロイックもかなり焦っているのか、カウンター内で聞こえないふりをしているメビウスに向かって声を荒げるのだが彼は関係ないと切り捨ててしまう。
話も聞いて貰えないため、肩を落とすロイックの姿にセフィーリアはラングラドが関係しているのではないかと聞く。




