64品目
「……月光草ではやってくれたな」
「依頼は月光草の採取だろ。下処理は依頼に入ってねえよ」
メビウスの言う事ももっともだと思ったのか、ラングラドはゆっくりと口を開くが出てきた言葉は冷たく、この場を凍らせるのには充分である。
常連客達が息を飲む中、直接、その言葉を受けているはずのメビウスは依頼外の事をやるつもりはないと鼻で笑い、2人の間には妙な緊張感が漂う。
「……まあいい。それに関してはまた改めて、下処理をするように依頼を出せば良いだけだからな」
「あ? なんで、何度もあんな面倒なものを採りに行かないといけねえんだよ?」
「誰も採りに行けなどとは言ってはいない。必要なものは他にもあるからな厳重に保管してあるだけだ」
メビウスとのやり取りを無駄な時間と判断したようでラングラドは月光草に関しては改めると話しを終わらせようとする。
ただ、メビウスにとっては聞き捨てならない言葉であり、二度と月光草の採取は受ける気はないと言い切った。
しかし、月光草はまだオーミット家で保管されているようで、早合点をしたメビウスに常連客からは優しい視線が向けられる。
「うるせえ」
「うるさいのはお前だ。メビウス=ハートレット……本題に移るぞ」
「聞くだけは聞いてやる」
自分に向けられる生温かい視線にメビウスは常連客達を怒鳴りつけるがラングラドは呆れたように小さくため息を吐くとわざわざこんな場所まで足を運んだ理由を話そうとする。
メビウスはあまりラングラドと関わり合いたくもないようだがセフィーリアが関係している可能性もあるためか、追い返すわけにもいかないと考えているのかため息を漏らす。
「そうだな。最初に少しでもやる気になるように依頼を受けた場合のこちらからの報酬を提示してやろう」
「はいはい。そうですか。その優しさに涙が出てくるね」
「今後、私の依頼を受けると言う条件でオーミット家がこの店の後ろ盾になってやろう」
メビウスが依頼を受けないのはラングラドも困るのか、まずは受けた場合の彼の利点について話すと言う。
ただ、メビウスは彼の態度が気に入らないのか投げやりに返事をするとラングラドは淡々と条件を告げた。
その条件はこの国でかなりの権力を有しているオーミット家が竜の焔亭の後見になると言う物であり、かなり破格の条件ではあるが、それは裏を返せばオーミット家がメビウスに首輪を着けると言う物である。
「あ? 俺に首輪を付けようって事か?」
「バカを言うな。貴様は首輪を付けようがすぐに引きちぎるだろう。私は無駄な事はしない」
「そうだよな。メビウスに首輪付けたいならフィーちゃんを嫁にするって条件を出した方が確実だよな」
メビウスは出てきた条件に当然、面白くない顔をして跳ね除けようとするがラングラドは鼻で笑う。
2人の間には再び、緊張感が漂うが常連客の1人が茶化すようにセフィーリアがメビウスの首輪代わりだと言い、その言葉に常連客達は賛同するように笑った。
その言葉にセフィーリアは顔を真っ赤にして否定して回るが常連客達にとっては彼女の反応が面白いのであり、彼女をからかう言葉が止まることはない。
「……欲しいのならくれてやるが」
「あ? あいつを物みたいに言うなよ。それに縁を切ったんだろ。あんたにはあいつは関係ない人間なんだろ」
「確かにそうだな。おかしな勘繰りは必要ない。私はある目的のためにいくつか欲しい物がある。それを集められるのは貴様しかいないと評価している。後は先ほど、この店に来ていたような愚かな人間が目障りなだけだ……答えは次回までに考えておくと良い」
常連客達に遊ばれる妹の姿にラングラドは小さく眉間にしわを寄せて条件に彼女を付けても良いと言う。
その言葉にメビウスは少し頭にきたようで不機嫌そうにセフィ―リアとラングラドは関係のない人間だと言い切ってみせた。
ラングラドは最もだと思ったのか小さく頷いた後、言いたい事は言ったと判断したようでメビウスに考えておけと言い、店を出ていってしまう。
「考えておけって……好き勝手言ってくれる」
そんな彼の後姿を見送ったメビウスはラングラドへの不快感はある物の、悪い条件ではない事は理解出来たようで面倒だと言いたいのか乱暴に頭をかいた。




