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「どうして、協会に登録してないんですか!?」
「この店を建てた時にいろいろと揉めたみたいなんだよ」
メビウスの父親とは直接あった事はないもののどうしてメビウスの家族は常識から外れた事を平然とするのかと言いたいようでセフィーリアは声をあげた。
ただ、メビウスもそこまでに至った経緯を深くは知らされていないようで頭をかくだけである。
「いろいろですか?」
「ああ。うちは元々、特殊な店だからな」
「でも、普通は冒険者のお店は両方に登録するんですよね」
採取するのが難しい魔物を食材にするお店。これは他のお店では見られない特殊な売りである。
その件で何か揉めた事はセフィーリアにも想像はついた。それでも協会に所属していないのには違和感がある。
多くの冒険者が集まる店は両方の協会に所属しているのだから竜の焔亭だけが認められないと言う事はないはずだ。
「普通はそうだろうな」
「でもしてなかったんですよね。それでメビウスさんがお店を継いだ時には食堂側の協会に登録したんですよね……両方登録しなかったのには何か意味があるんですか?」
父親が協会に所属していなかったのだから、メビウスも所属しないと言う判断もできたはずだとセフィーリアは思うも片方だけに所属した意味があるのかも知れない。
セフィーリアはメビウスの考えを教えて欲しいと彼へと視線を向けた。
メビウスは苦虫をかみつぶしたような表情をする。その様子から彼が店を引き継いだ時にかなり面倒な事が起きた事は容易に察する事が出来る。
「宿屋の方は俺1人じゃ何もできないだろうって言って、店を乗っ取ろうとしたんだよ」
「お店の乗っ取り? そんな事が出来るんですか?」
宿屋の協会がやってきた事を想い出したようで吐き捨てるように言うメビウス。
確かに竜の焔亭を乗っ取ることができれば魔物を食材として多くの利益を得ることができる。
ただ、セフィーリアにそんな横暴な事がまかり通るとは思えないようで首を傾げる。
「どっかのお偉い貴族様が裏で何か暗躍したみたいだぜ」
「……」
竜の焔亭に集まる常連客の多くはいくつもの国をまたにかける優秀な冒険者達であり、何があったかを簡単に調べ上げてしまった。
その言葉にメビウスの貴族嫌いの原因の1つだと理解したセフィーリアは顔を引きつらせるのだが、裏で暗躍した貴族には心当たりはない。
メビウスもセフィーリアが暗躍する事が出来るとは思えないし、直接、関わっていないためか特にその件に触れようとも思っていない。
「親父が生きている時は金に困った駆け出しの冒険者を雇って従業員にもしていたんだけど、それが問題だといちゃもん付けてきたり、嫌がらせしてきたりといろいろな。それで人を雇うのは難しくなったんで1人でもできそうな食堂の協会に所属したんだ。さすがに1人じゃ手が回らなかった時にアドバイスとかもくれたからな」
「嫌がらせ……」
竜の焔亭で雇っていた冒険者は駆け出しの冒険者達であったため、嫌がらせ行為は効果的であったようであり、店を手伝ってくれる人間はいなくなってしまった。
それでもこのお店の常連客達には全く影響などなかったようで客足が途絶えることはなかった。ただ、人を雇う事が出来ない状況ではメビウス1人で店を回す事は出来ず、1人でも何とか対応できそうな食堂の協会を選んだと言う。
ただ、セフィーリアはメビウスやターニア、そして、このお店の常連客達の性質上、宿屋側の協会に何もしていないとは思えなかったようで顔を引きつらせた。
「何だ?」
「あの。い、いえ、何でもないです」
「そうか? 必要な話はこれくらいだ。明日もあるんだ。さっさと寝ろ」
彼女の様子に怪訝そうな表情をするメビウス。セフィーリアは下手な事を言わない方が良いと判断して大きく首を横に振る。
メビウスはこれ以上は特に話す事はないと言うとセフィーリアに部屋に戻るように言い、自分の部屋に戻ってしまう。
 




