56品目
「……で、どうするんだ?」
「俺的にはメビウスが厨房から外れるなら大歓迎なんだが」
「待て。従業員なら可愛い女の子だろ。男性従業員なんて必要ない!!」
この店で働きたいと言い始めた男性客を常連客の数名が店の端に移動させるとカウンター前では作戦会議が開かれ出す。
困り顔のメビウスとセフィーリアではあるがなぜか常連客達はこの状況を楽しんでいるようで結構な騒ぎになっている。
どうしたら良い物かと考えていたメビウスではあるが、常連客の騒ぎようにだんだんメビウスの額には青筋が浮かび上がり始め、セフィーリアはどうして良いのかわからず、オロオロとし始めるが常連客達の無責任な態度が変わるわけがない。
「……お前ら」
「メビウス、フィーちゃん、お酒ちょうだい……あれ? 何かあった? まあ、良いや。今日はこれにしよう」
「……」
常連客達の様子にメビウスの怒りが限界に達しようとした時、まるでタイミングを見計らったかのようにドアが開き、ターニアの緩い声が聞こえる。
店内にいた人間の視線が集中するのだが、状況をまったく理解していない彼女は特に首を傾げはするものの、特に気にすることなく、酒瓶が並んでいる棚を覗き込むと当たり前のように酒を選ぶ。
ターニアの様子にメビウスの怒りは抜けてしまったようで大きく肩を落とした。メビウスが疲れた顔をしていようがターニアには関係などなく、常連客達を避けていつもの席に座り、1人で酒を注ぐ。
「メビウス、そこ退いて。フィーちゃん、おつまみ、お願い」
「は、はい!? ま、待ってください。今、それどころじゃないんです」
「それどころじゃない? ……できちゃった? メビウス、責任取るのよ」
当たり前のようにメビウスを厨房から出るように言う。
セフィーリアは慌てて返事をするものの、今は問題を抱えている事もあり、ターニアに待って欲しいと言うのだが彼女は悪意のある勘違いをしたようでメビウスとセフィーリアを交互に見た後、ニヤニヤと笑う。
「ち、違います!?」
「……まさか、メビウスからフィーちゃんを奪いに来たの? メビウスの嫁は渡さないわ!!」
「ちょっと落ち着け!?」
最初、意味がわからかなったようだがターニアが何を言っているか理解した瞬間、セフィーリアは顔を真っ赤にして大きく首を横に振る。
そんな彼女とは正反対でメビウスはターニアの言葉をため息で否定すると店の端に移動させられている男性客を指差した。
男性客を見たターニアの頭の中ではなぜか男性客がセフィーリアに言い寄っていると思ったようで勢いよく席を立つと男性客に向かって行こうとする。
その様子にメビウスは厨房からカウンター席を飛び越えて彼女を押さえつけようとするのだが、ターニアは彼の腕をとるとメビウスを床に叩きつけた。
「メ、メビウスさん!?」
「……姐さん、相変わらずの強さだ」
「話をややこしくするな。この酔っぱらい!!」
この中では桁違いの強さのはずのメビウスが簡単に投げ飛ばされる様子にセフィーリアは何が起きたかわからないようだが、常連客達から見れば当たり前の様子なのか彼らに動揺はない。
叩きつけられたはずのメビウスも瞬時に立ち上がると彼女の前に立ち。再度、ターニアを押さえつけようと手を伸ばす。
しかし、ターニアはその手を弾き、2人の間にはおかしな緊張感が広がって行く。
「あ、あの?」
「フィーちゃん、長くなるから、ご飯作って」
「今日はメビウスが姐さんを捕えきれるかな?」
「無理に決まっているだろ。フィーちゃん、お酒貰うね」
セフィーリアはこの状況にどうして良いのかわからないようだが常連客達にはいつもの事のようで勝手に酒を出して2人の対決を観戦し始める。




