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53品目

「メビウス、大変だ!!」

「開店前だ。入ってくるんじゃねえ!!」


 メビウスが王都に戻ってきて10日が過ぎた時、開店準備をしていると常連の1人が慌てた様子で店のドアを開けた。

 ただ、開店準備で忙しい彼にとっては知った事ではないようで手にしていたモップの柄で彼を叩きつけてのしてしまう。


「……メビウス、話くらい聞かないか?」

「あ?」


 店を訪れた常連客は1人ではなかったようで顔を引きつらせて後に2人の常連客が入店してくるのだが、開店準備の邪魔をされた事に気が立っているメビウスは不機嫌そうな表情で彼らを睨み付ける。

 常連客は開店準備を手伝うと言う条件付きで彼をなだめるとのされた1人をイスに座らせて店の清掃を手伝い出す。

 それでもメビウスは常連客が開店前に入店した理由など興味がないようで厨房に入ると料理の仕込みを始めて行く。


「……なあ、メビウス、俺達が開店前に店に来た理由が気にならないのか?」

「ないな。どうせ、いつも通りくだらない事だろ」


 まったく興味を示さない彼に常連客は肩を落とすのだがメビウスはくだらない噂話にはうんざりだと言いたいようでため息を吐くだけである。

 食堂の店主であるためかお客達の噂話は色々と聞かされている事でメビウスは今回もたいした事ではないと判断したようではあり、彼の言葉に常連客は頭をかくのだがどうやら今回の件はいつものくだらない話ではないようだ。


「今回は違うんだよ。フィーちゃんが大変なんだ?」

「あ?」


 持ってきた話はセフィーリアの事のようでメビウスの耳には絶対に入れておいた方が良いと判断したのか常連客はのされる事を覚悟して言う。

 彼女の名前にメビウスはまたおかしな事に巻き込まれると思ったのか心底嫌そうな表情をする。

 彼の様子は常連客達にはまったくの予想外だったようで顔を見合わせると大きく肩を落とすのだがそれでも話さないといけないと考えているようでメビウスへと視線を向け直した。

 しかし、メビウスの表情は変わる事無く、常連客は腰が引けてしまう。


「メビウスさん、セフィーリアを見ませんでしたか!!」

「あ?」


 その時、慌てた様子のロイックが勢いよく店のドアを開いた。

 彼はセフィーリアを探しているようなのだが、その表情には目に見える焦りの色が見える。

 ただ、メビウスはすでに常連客とのやり取りですでにかなりイライラしているためか入ってきたばかりの彼を睨みつけてしまう。

 睨みつけられたロイックは彼の眼力の強さに腰が引けてしまうのだが彼もひいては居られないようで恐怖を振り払うように大きく首を横に振った。


「……朝から、あいつが何なんだよ?」

「メビウスさん、セフィーリアがどこにいるか知っているんですか!?」


 開店前の忙しい時間に邪魔をされているせいか気分が悪いのだが話を聞かないといつまでも煩わしいと判断したのか苦虫をかみつぶしたような表情をしてセフィーリアの事を聞く。

 それをなぜかロイックはメビウスが彼女の行き先を知っていると勘違いしたようで前のめりになって聞き返す。

 しかし、それは彼の勘違いでしかないため、メビウスは勘違いするなとわからせるために仕込みに使っていた包丁の切っ先を彼に向けた。


「どこで聞き間違ったら、そんな話になるんだよ? 俺は王都に戻ってきた次の日以降、あいつとは会ってねえよ」

「そ、そうでしたか。それなら、彼女の居場所なんて知らないですよね……開店前の忙しい時間に申し訳ありませんでした」


 ロイックは自分の勘違いに気が付いて慌てて頭を下げた後、確認するように聞く。

 月光草を採って戻ってきた次の日にセフィーリアが店を訪れてから、彼女と会っていないのは事実であり、メビウスは首を振る。

 ロイックはメビウスなら彼女の居場所を知っていると思っていたようで何も情報がつかめなかった事に肩を落とすと店を出て行こうとする。


「待てよ。あいつが何かしたのかよ?」

「……ようやく、本題に入れる」


 いくら面倒事に巻き込まれてもさすがに見捨てるのは忍びなかったようでメビウスは眉間にしわを寄せながらセフィーリアに何があったのかと聞く。

 これで話を進められると思った常連客はロイックを引き止めると彼をカウンター席に座らせた。


「で、あいつの居場所とか言っていたけど、家出でもしたのか?」

「そうではありません。騎士の称号をはく奪されてオーミット家からも除籍処分をされてしまったんです」


 ロイックはセフィーリアの身に起きた事に何が何やらわからないようであり大きく肩を落として言う。

 彼の言葉が本当であればセフィーリアには行き場所などなくどこかで路頭に迷っている事になる。

 騎士として何度か野宿などをした事は有っても彼女は世間知らずと分類される人間であり、メビウスはさすがに問題があると思ったのか眉間に深いしわを寄せた。


「除籍処分って何をやらかしたんだ……よ?」

「わかりません。ただ、次期当主であるラングラド様の怒りを買ってしまったようです。メビウスさんと一緒にラングラド様からの依頼を達成したと聞いていたので」


 メビウスは除籍処分など滅多な事をしないとそんな処罰は起きないだろと言いかけるが彼にはセフィーリアがラングラドを怒らせるのに充分な理由に心当たりがあった。

 ただ、ロイックはその理由を知らないためか暗い表情をして首を横に振るが常連客達は何かに気が付いたようでジト目でメビウスを見ている。


「一先ず、私はセフィーリアを探しますので彼女が店に来たら、引き留めておいてください。お願いします」

「ああ」


 ロイックは彼女の保護を頼むと急ぎ足で店を出て行ってしまう。

 彼の背中を見送ったメビウスは常連客からの突き刺さる視線に何か感じ取ったようで面倒だと言いたげに頭をかいた後、いつもおススメの品を書いてある掲示板に『店員募集、住み込み可。ただし、面接有』と乱暴に書き込んだ。

 その様子に常連客達は素直じゃないと言いたいのかため息を吐いた後、自分達もセフィーリアを探しに店を出て行く。


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