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52品目

「そう言えば、そうね……メビウス」

「まだ仕込みには時間がかかる」


 時間がかかると言われてターニアは不満そうに頬を膨らませた後、それでも何か出来るのではないかと思っているのか彼の名前を呼ぶ。

 しかし、メビウスは相手をする気などないようで一言で切り捨てた。

 甥っ子の冷たい態度にターニアはため息を吐き、2人の様子にセフィーリアは苦笑いを浮かべる。


「そう言えば、お兄さんは月光草を何に使ったの?」

「わかりません。あの、何かあるんですか?」


 しばらく、お酒を飲みながらメビウスの仕込みを見ていたターニアは月光草を求めたラングラドの目的を聞く。

 セフィーリアは何も知らされていないようで首を横に振るとターニアは小さくため息を吐いた。

 ため息に何か意味があると思ったセフィーリアは小さく首を傾げて質問をするとターニアは酒に手を伸ばそうとする。


「……話を途中でやめるなら変な質問をするな」

「変な質問って何? お姉さんはオーミット家の次期当主が月光草を何に使うか気になっただけ。ただの興味本位」


 何か感じたのかメビウスは彼女より先に酒を奪い取った。

 ターニアはただの興味本位とは言ってはいるがメビウスとセフィーリアには違和感があるように見える。

 2人からの疑いの視線にターニアは大きく肩を落とすのだがその手は取り上げられた酒へと伸ばされた。


「話すからお酒、ちょうだい」

「話してからだな。酔ったふりして誤魔化されたくはないからな」


 酒を渡すと同時に逃げられる可能性もあるため、メビウスは先に話すように言う。

 その言葉にターニアは不満げに頬を膨らませると良い年をした叔母の子供っぽい行動にメビウスは考える事があるようで眉間に深いしわを寄せた。


「だいたい、この程度の量で私が酔うわけがないじゃない」

「そ、そう言う問題でもない気がしますけど」


 甥っ子の態度が気に入らないのかターニアは駄々をこねるように言い、セフィーリアは本題からどんどん逸れて行く様子に苦笑いを浮かべる事しかできない。

 このままでは話は何も進まないと判断したようでメビウスは大きく肩を落とすと酒をターニアに返し、彼女は嬉々として酒を注いだ後、一気に胃に流し込んだ。


「……もう出さないからな。俺が留守の間にどれだけ飲んでいるんだよ」

「ほら、このお店の留守を預かる事は立派なお仕事でしょ……と言う事は経費で落ちる?」


 ターニアの飲みっぷりに脱力したメビウスは仕込みの続きをしようとして酒の在庫を確認して絶望したような表情をする。

 メビウスの様子にターニアも少しだけ悪い気がしたようで何か解決策を出そうとするが自分の飲んだ酒代をすべてオーミット家に押し付けようと考え付いたようで小さく口元を緩ませた。

 ただ、その考えは明らかに常識から外れており、メビウスとセフィーリアの眉間にはしわが寄ってしまう。


「さ、さすがに落ちないと思います」

「……絶対にそんなバカみたいな事を言うなよ。面倒な事になるから。しかし、発注しないと全然足りないな」


 ラングラドに酒代は経費と言えば冷たい罵声が突きつけられるのは容易に想像が付き、セフィーリアは懇願するように言う。

 メビウスはため息を吐くと酒の在庫の確認をし始めるが思っている以上に在庫数が少ないようで眉間のしわは深くなって行く。

 ラングラドからの依頼で結構な収入を見込めたはずなのに無駄な出費まで重なってしまった事にため息しか出てこない。


「それでターニアさんは何が気になっているんですか?」

「何を目的で月光草を求めたかよね。愛しい誰かにあげるとか、単純に食べたいって言うだけなら良いんだけど呪いを解きたいとしたら……ね」


 ラングラドがなぜ、月光草を求めたかの説明がないためかそこが気になっているのだとため息を吐く。

 呪いと聞き、メビウスはまだそんなバカな事を言っているのかと言いたげにため息を吐いて見せるのだが彼女が気にする事はない。


「まだ呪いだって言っているのか?」

「メビウスが信じなくても呪いと言われる物が存在する事は確かなのよね。それにもし呪いを解くのに使いたいのだとしたら、誰の呪いを解きたくて……後はその方法を知っているのかと思ったのよ」


 呪いなど信じないと言うメビウスにターニアは苦笑いを浮かべた後、不意に表情を引き締めた。

 その様子に何かあるとメビウスは面倒だと言いたげな表情をして頭をかくのだがセフィーリアは良くわからないようで首を傾げている。


「……呪いがあると仮定して何が問題あるんだよ。誰に使うかはそれこそ俺達の知った事じゃないし、呪いを解く方法に何かあるのかよ?」

「呪いってね。解く方法を間違うと面倒な事になるのよ。それにメビウス」


 ラングラドが月光草を何のために使うかなど興味がないメビウスだがターニアが引っかかっている事は理解できたようである。

 彼女は呪いを解くのに失敗した場合の事を考えているようでため息を吐いた後、メビウスへと視線を向けた。


「何だよ?」

「あんた、月光草の下処理ちゃんとやってないでしょ。そのせいで解呪の力が弱くなっていたら解ける呪いも解けなくなるでしょ」


 ターニアはメビウスがラングラドに渡した月光草の下処理を蔑ろにした事を聞いているためかせっかくの月光草が使えないのではないかと考えているようだ。

 月光草が意味のない可能性があると聞き、セフィーリアの頬は引きつって行くのだがメビウスはまったく気にした様子もない。


「メ、メビウスさん、どういう事ですか!?」

「あ? 依頼内容は月光草の採取だろ。何に使うかなんて俺は聞いていないからあいつの不手際だろ。それに呪いを解くのにしないといけない下処理の方法なんて知らねえよ」


 声を上げるセフィーリアではあるがメビウスは自分は言われた事はすべてやったと思っているため、悪びれる素振りはない。

 セフィーリアはこのままではラングラドの怒りに油を注いでしまうと思ったようで2人に頭を下げると急いで店を出て行ってしまう。


「フィーちゃん、転ばなければ良いわね」

「それこそ、知った事じゃないだろ」


 しかし、セフィーリアの背中を見送る2人にとっては自分達には非がないせいかその背中に何かを言う事はない。


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