51品目
「……メビウス、フィーちゃんに月光草の採取を任せて自分は他の魔物を集めていたと」
「あ? なんか文句でもあるのかよ」
月光草の採取を終わらせた2人は宝珠を使って無事に帰還した。
翌日、集めてきた魔物を食糧庫につめていたメビウスのところに酒瓶を抱えたターニアが現れて、セフィーリアとの2人旅行と決めつけていろいろと聞いてくる。
しかし、メビウスはただの食材確保の旅だと考えているため、反応は鈍い。
鈍感な甥っ子の様子にセフィーリアがかわいそうとため息を吐くターニア。メビウスは意味がわからないと言いたげにため息を吐くと食糧庫の整理を終えたようで頭をかくといくつかの食材を持って食糧庫を後にする。
「で、メビウス、月光草の下処理ってしてあげたの?」
「あ? 知らねえよ。月光草を持って来いって言われただけだからな。それに何に使うかは聞いてないんだ。余計な事をして文句を言われたくねえよ」
竜の焔亭に戻るとターニアはカウンター席に腰を下ろすとメビウスに聞く。
メビウスはラングラドにあまり良い印象もないせいか、どこか他人事であり、興味などまったくなさそうである。
「……フィーちゃんが責められていなければ良いけど」
「食う以外に使い道もあるんだろ。食うと決まっていないのに下処理していた方が文句言われるだろ。それに食うつもりならお偉い様なんだ。どうにでも出来るだろ……おい。俺がいない間にどんだけ飲んでいるんだよ?」
そんな甥っ子の様子にターニアは小さく肩を落とす。
メビウスは勝手に決めつけるなと言うと厨房のなかの酒の残量を確認して眉間に深いしわを寄せた。
彼が月光草の採取に出かけている間にターニアはずいぶんと店の酒に手をつけたようだが彼女はまったく気にするそぶりもなく、それどころか悪びれる事無く抱えていた酒瓶から酒を注いでいるのである。
その様子にメビウスは言うだけ無駄と判断したのか大きく肩を落とすと料理の下準備を開始する。
「煉獄鳥も捕れたの? それじゃあ、煉獄鳥の塩焼きに月光草のサラダね。煉獄鳥は焼くだけで良いわよ。メビウスが味つけするより、お塩ふった方が美味しいから」
「……」
煉獄鳥の肉を見て、ターニアは当たり前のように食事にしようとする。
彼女の態度にメビウスの額にはぴくぴくと青筋が浮かび上がり始めるが、話を聞く気などまったくないようで無視して煉獄鳥の肉をさばいて行く。
「メビウス、月光草に解呪の力があるって話だけど、どんな方法で使用するか知っている?」
「……まだ、そんな事を言っているのかよ。仮に呪いが解けるって言ったって真実かどうかもわからないんだろ」
しばらく、メビウスの様子を見ていたターニアは不意に手を止めて月光草の効果の1つについて聞く。
呪いを信じていないメビウスは手を止めると眉間に深いしわを寄せるのだがターニアは気にする様子もない。
「でもね。そんな噂だって信じないといけないくらいに追い詰められている人間だっているのよ」
「呪いが解けたら儲けものだって言うのかよ……いや、あいつの兄貴は噂なんて信じるような人種じゃないだろ」
それでもわらにもすがりたい人間はいるのだとターニアは少しだけ寂しそうに笑う。
彼女の表情にメビウスは1度、手を止めるとそう言う事もあるのかと考えるがラングラドの顔を思い浮かべたようですぐにそんな事はあり得ないと言う。
メビウスの言葉でターニアもラングラドの不機嫌そうな表情を思い浮かべたのかそれもそうねと小さくため息を吐いた。
「あ、あの。メビウスさんは御在宅でしょうか?」
「フィーちゃん、いらっしゃい」
その時、店のドアが遠慮がちに開けられ、セフィーリアのいつも通りの自信なさげな声が聞こえる。
すぐにターニアは笑顔で返事をすると中に入ってくるように呼び、彼女は1度、深く頭を下げるとターニアの隣のイスに腰を下ろした。
メビウスはめんどくさそうに小さく頭を下げた後、切った煉獄鳥の肉を酒に付けて行く。
「あ、あの、メビウスさん」
「何だよ? 兄貴に変わって報酬でも持ってきたか?」
セフィーリアはメビウスに何か聞きたい事があるようで声をかけようとする。
メビウスは煉獄鳥の下準備を終えたようで悪態を吐きながら他の魔物の下準備に取り掛かり始める。
彼の言葉にセフィーリアは申し訳なさそうにゆっくりと首を横に振った。
「ただ働きにならなければ良いけどな」
「フィーちゃんをいじめるんじゃないの。それに別に良いじゃない。旅の資金は出して貰ったんだし、帰還の宝珠のおかげであんたはあんたで予定より、多くの魔物を捕ってきたんだし、それより、フィーちゃん、煉獄鳥で何か作って、後、月光草もサラダにしてね」
メビウスが嫌味を言うとセフィーリアは小さく身体を縮めてしまう。
2人の様子にターニアは小さくため息を吐くとあまりがめつい事をするなと言った後、セフィーリアに煉獄鳥と月光草で何か作って欲しいと催促する。
セフィーリアは料理して良いのかわからないようでメビウスへと視線を向けるが彼の額には青筋が浮かび上がり、ぴくぴくと動いている。
「タ、ターニアさん、さすがに怒られる気がします」
「良いの。良いの。今回はかなりの儲けが出ているはずなんだから、このお姉様とフィーちゃんの食べる分くらいはどうにでもなるわ。それに解呪の力がある月光草は呪いを解くために食べてとかないといけないの」
メビウスの様子から彼が怒っているのは明らかであり、セフィーリアは諦めて欲しいと言う。
それでもターニアは気にする事は無く、駄々をこねるようにカウンターを叩く。
年甲斐もないターニアの様子にメビウスの青筋の動きは速くなって行く。
セフィーリアは2人に挟まれてどうして良いのかわからないようでオロオロとし始める。
「いい加減にしろ」
「そ、そうですよ。それに煉獄鳥は下準備をしっかりしないといけないはずですよね。で、ですから、今日は無理ですよ」
メビウスの言葉に彼がどれほど怒っているかセフィーリアは感じ取った。
その時、セフィーリアは以前に煉獄鳥の料理をした時の事を思いだしたようでメビウスの肩を持つ。




