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50品目

「……どういう事だ?」

「メ、メビウスさん、ち、近づいて大丈夫なんですか!?」


 セフィーリアの指差した月光草を見たメビウスは眉間に深いしわを寄せる。

 その様子から魔物などを食材にしている彼にも予想外の事が起きている事は明白であり、セフィーリアは小さく息を飲む。

 しかし、彼女の心配を余所にメビウスは黄色く光り始めているつぼみへと向かって歩き出す。

 彼の行動にセフィーリアは声を上げるのだがメビウスは気にする事はなく、彼女は1人で待っているのが怖いようで怯えながらも彼の後に続く。


「月光草は食中花ってわけじゃないし、とって食われるわけじゃないだろ」

「そ、そうかも知れませんけど……あ、あの、メビウスさんは月光草がこんな事をするって知らなかったんですよね?」


 その様子は先ほどまで魔法で魔物と戦っていた人間とは同一人物には見えず、メビウスは大きく肩を落とした。

 セフィーリアはメビウスの言葉に月光草自体が襲ってくる事はないと思いながらもやはり不安のようで表情は暗いのだが目の前で起きている事は気になるようでメビウスの服を引っ張る。


「元々、うちじゃ、取り扱っていないからな。採取が面倒だし、たまにうちの常連客が持ち込んでくるから、それなりに知っているだけだ」

「そ、そうなんですか」


 実際、メビウスも月光草の採取自体は初めてのようで目の前で起きている事に不思議そうに首を捻っている。

 彼も何も知らないと聞き、セフィーリアの表情はさらに曇ってしまうのだがメビウスは気にする事はない。

 メビウスは月光草に手を伸ばそうとするがまだつぼみの状態のため、ここで花を落としてしまってはいけないと思ったようで手を止める。


「……まだ、魔力を吸い取っているのか?」

「そ、そうですね」


 手を止めた彼は振り返り、彼女に聞くとセフィーリアは周囲を見回してから頷いた。

 今も魔物達からは魔力が吸い取られているようでメビウスは少し考え込むと何か考え付いたのか頭をかいた。


「なるほどな」

「なるほどって、何かわかったんですか!?」


 小さく頷いたメビウスにセフィーリアは不安を拭えると思ったようで食いつくように聞く。

 彼女の様子にメビウスはため息を吐くと距離を取るのだがセフィーリアは早く不安を取り除きたいようで距離を詰める。

 何度か距離を取り、縮めると繰り返したメビウスは少しイラッとしたようで彼女の頭を軽く叩くとセフィーリアは何が起きたかわからないようで両手で頭を押さえてメビウスの顔を見上げた。


「話を聞きたいなら、落ち着け」

「は、はい」


 もう1度、距離を取ったメビウスは大袈裟にため息を吐いて見せる。

 セフィーリアはまだ何が起きたかわからないようだが、メビウスが困っている事は理解できたようで大きく頷く。

 その様子にメビウスは額を指でかいた後、闇夜に光る月を指差した。


「お月さまがどうかしたんですか?」

「月光草は月の魔力を帯びて花を咲かせる……ってのが嘘だったって事だろ」


 彼の指を追って月を見たセフィーリアが小さく首を傾げた時、メビウスはため息交じりで昔から伝えられている月光草の話が間違っているのではないかと言う。

 その言葉をセフィーリアはすぐには理解出来なかったようでしばらく沈黙が続くのだが徐々に理解出来てきたようで顔は引きつって行く。


「月光草が花を開かせるために必要な魔力は月の魔力じゃなく、魔物達の魔力って事ですか!?」

「たぶんな。月の魔力は魔物達を引き寄せるエサって事だろ」


 驚きの声を上げるセフィーリアだが、メビウスは興味なさそうにため息を吐いた。

 メビウスの冷静さにセフィーリアは納得が行かないようではあるが彼女は彼とは違い、実際に魔物達の死体から月光草に魔力が流れ込んでいるのが見えている。

 そのためか納得は出来なくても納得する事しか出来ない事も理解しているようでもう1度、月光草へと視線を向けた。


「……メビウスさんの言う通りだとしたら、なぜ、月光草は月の魔力で花を咲かせると言う話はどこから来たんですか?」

「そんな事、知らねえよ。俺だって魔力を吸い取っているって聞かなければこんな答えに行きつかなかったからな……何だよ?」


 月光草のつぼみは先ほどよりも大きくなっており、もうすぐ花を咲かせそうに見える。

 セフィーリアはメビウスの推測が正しかった場合に今まで広がっていた話は何だったのだと肩を落とした。

 メビウスはそんな事は知らないとため息を吐くのだが、彼の言葉にはセフィーリアを褒める物が含まれている。

 セフィーリアは彼の言葉に目を白黒させる彼女の様子にメビウスは怪訝そうな表情をする。その様子から彼は無自覚でセフィーリアを褒めたようであり、特に気にした様子などない。


「そ、そうですよね。メビウスさんはそう言う人ですよね」

「あ?」


 セフィーリアは残念だと言いたいのか大きく肩を落とす。

 彼女の様子にメビウスは意味がわからないようでセフィーリアを見下したような視線を向けると月光草が花咲くまでもう少し時間があると判断したようで持って帰る氷漬けの魔物の選別に移ろうとする。


「……なあ。魔力が奪われた魔物の肉って美味いと思うか?」

「ど、どうでしょうね? 月光草が美味しい原因が魔物達から奪った魔力だとしたら、味に変化はあるかも知れませんね」


 氷漬けの魔物を見ながら、メビウスは1つの疑問が頭をよぎったようでセフィーリアの方を振り返って聞く。

 その問いにセフィーリアはメビウスの料理の腕が問題ではないかと言う答えが頭をよぎったようで顔を引きつらせるが何とか無難な答えを引っ張り出した。

 彼女の答えにメビウスは小さく頷くもののやはり捨てて帰るのはもったいないと思ったようで頭をかく。


「……とりあえず、味に変化があるかも知れないから、それを確認するためにいろいろと集めるか?」

「あ、あの。メビウスさん、月光草は?」


 今後、月光草の採取する事を考えた時に多くの食材が手に入ると考えたメビウスは後々の事を考えて氷を砕きながら魔物を解体して行く。

 その様子にセフィーリアは本命をどうするのかと聞き返すのだが彼から返ってくる言葉は彼女が採取するようにと言う物だけである。


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