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48品目

「魔物、襲ってきませんね」

「襲われたいのか?」


 月光草に魔力がたまる様子をセフィーリアは確認していたのだが、いつまで経っても魔物が襲ってこない事に彼女は声を漏らす。

 その声はどこか気が抜けているようにも聞こえ、メビウスは彼女を呆れたようにため息を吐いて見せるとセフィーリアはそんな事はないと大きく首を振って見せた。


「そ、そんなわけないじゃないですか。ただ、不思議に思っただけです。月光草に魔力が集まっているのはわかります。それも大量にこれを目的に魔物が集まっているんですから、たまり切った物を狙わなくても良いんじゃないですか?」

「それで煉獄鳥を返り討ちにした人間に狩られるか? 割に合わないだろうからな」


 この状態の月光草でも充分なのではないかとセフィーリアは声を大きくする。

 メビウスは煉獄鳥を倒すところを見ていた魔物は簡単には襲って来られないのだと言い、セフィーリアは何食わぬ顔で煉獄鳥の首を落とした彼へと視線を向けた。

 その視線にメビウスは怪訝な表情をするが特に気にするべき事ではないと思ったようで周囲を見回す。

 彼女の言う通り、魔物達は様子をうかがっている物の襲ってくる気配は感じられない。


「襲ってこないなら、それで良いだろ」

「そうかも知れませんけど……」


 メビウスはどこか違和感を覚えながらもあまり魔物ばかりに意識を取られてもいられないようで月光草へと視線を向ける。

 ただ、セフィーリアはメビウスほど簡単には割り切れないようでため息を漏らすと自分達を囲んでいる魔物の集団へと視線を向けた。

 魔物の集団からは唸り声も聞こえているため、その声で彼女は身体を震わせるのだが不安を振り払うように大きく首を横に振って気合を入れる。


「……襲ってくるとしたら、月光草の花が咲き始めた時ですかね?」

「咲くタイミングを見計らってくる場合もあるんじゃないか?」


 それでも不安は払しょくできなかったようで泣き出しそうな顔でメビウスへと声をかける。

 その様子は魔法を駆使して煉獄鳥と戦っていた人間と同一人物には見えず、メビウスは大きく肩を落とした。

 セフィーリアは自分が考えていたよりも早く魔物が襲ってくる可能性があると考え直したようで周囲を警戒するのだがその様子には余裕はまったくない。


「……お前、それは疲れないのか?」

「メビウスさんが自然体すぎるんですよ!?」


 メビウスの目には彼女が気を張りすぎているように見え、もう少し力を抜いた方が良いのではないかと言う。

 ただ、彼の言葉には配慮と言う物が存在しないため、セフィーリアは声を上げる。

 普段ならこのような声をあげない彼女が声を荒げる様子が魔物に囲まれている事で彼女の精神状態を追い込んでいるように見える。

 メビウスはなんとなくではあるが彼女の精神状態を理解しているようで責めるような事はしない。


「煉獄鳥ほどの魔物はいないんだ。どうにかなるだろ」

「そ、そうかも知れませんけど、この数の魔物の相手をしないといけないって考えると」


 それどころかメビウスにしては珍しく彼女に気を使ったようで煉獄鳥と戦った時の事を思い出すように言う。

 セフィーリアは声を荒げてしまった事で少し冷静になったのか肩を落としながら自信なさそうな声で話す。


「そこまで難しく考えるな。魔物は協力して月光草を採ろうなんてしていないんだ。お互いで潰し合う事だってあるからな」

「……それ、大丈夫だって言えます?」


 魔物すべての相手などする必要などないと言うメビウスだが、セフィーリアはこの場で起こる地獄絵図に顔を真っ青にする。

 セフィーリアはその様子を想像してみて欲しいと言う意味を込めて聞き返すとメビウスは少し考え込む。


「……特殊な仕留め方しなくて良い魔物が食材として簡単に手に入る?」

「そうじゃないです!?」


 考えた結果、メビウスは食材を楽に手に入れると判断したようで小さく口元を緩ませた。

 ただ、セフィーリアが求めていた答えとは異なっており、彼女は驚きの声を上げるのだがメビウスの表情は引き締まって行く。

 魔力を察知する事ができない彼ではあるが長年の魔物との戦闘で培った経験なのかわずかな魔物達の気配の変化に気が付いたようである。

 彼に遅れてセフィーリアも月光草の花に満ちる魔力を感じ取ったようで身体を震わせながらも剣に手をかけた。


「お前の剣の腕は期待していないから、最初から魔法で戦えよ」

「メビウスさんは弓矢の使い方を学び直した方が良いと思います」


 その瞬間、1匹の巨大な狼型の魔物が2人に向かって飛びかかってくるのだがメビウスは矢を取り、魔物に向かって投げつける。

 矢は一直線に魔物の額に突き刺さり、魔物は声を上げるまでも無く、絶命してしまうのだがその様子にセフィーリアの頬は引きつった。


「弓を引くヒマがあるなら、こっちの方が早いだろ」

「そ、そんな使い方できるのはメビウスさんだけです!?」


 魔物が1体倒れた事を皮切りに魔物達は一気に動き出す。

 メビウスは動き出した魔物に向かって次々に矢を放って行き、魔物を葬っていくのだが数が多すぎるためかすべての魔物を倒す事は出来ない。

 セフィーリアは殺気を放ち近づいてくる魔物の様子に涙目になりながら剣を構えるのだが完全に腰は引けている。


「それより、魔法で攻撃するか月光草を集めるのに動けよ。時間がないぞ」

「わ、わかっています……メ、メビウスさん」


 彼女の様子からすぐに魔物相手をさせるわけには行かないと判断したようでセフィーリアに月光草の採取に動けと言う。

 セフィーリアは大きく頷くと月光草採取に動き出そうと思ったようだが何かに気が付いたようで声を震わせながらメビウスの名前を呼ぶ。


「何だよ?」

「あ、あれ。何かおかしいです。さ、さっきの1番最初の魔物」


 襲い掛かってくる魔物の数が多いため、メビウスは不機嫌そうに聞き返す。

 セフィーリアは顔を真っ青にしながら、1番最初にメビウスの矢の餌食になった魔物の死体を指差した。

 メビウスは1度、視線を魔物の死体へと視線を向けるが特に変わった様子は感じない。


「何が言いたいんだよ?」

「す、すいません。な、なぜかはわかりませんけど、あの魔物の死体から魔力が奪われています」


 何も変化がないため、メビウスは苛立った声で返事をする。

 セフィーリアは慌てて何が起きているかを口に出すのだが魔力を感知できないメビウスには何が起きているのかまったくわからない。


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