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「メ、メビウスさん」
「まだ、慌てる時間でもないだろ……」
日が沈み始め、空が徐々に暗くなってくると周囲から魔物の唸り声が聞こえ始める。
その声にセフィーリアは不安げな声を上げるがメビウスはため息を吐きながら用意していた薪に火をくべて行く。
灯りがともされた事でセフィーリアは少し安心したのか胸をなで下ろすのだが彼女はそこで薪に火をくべていたメビウスの手が止まっている事に気が付いた。
彼は薄暗い空の1点を見つめているのだが、その背中からは先ほどまでの緩い空気とは違ったものが放たれている。
それは彼が周囲への警戒を最大限にしたと言っても過言ではなく、セフィーリアはこれから起こるであろう恐怖に背中が冷たくなって行くのを感じる。
「おい。炎を軽減する魔法を使え。軽減できるなら何でも良い。早くしろ」
「へ?」
メビウスは置いてあった荷物の場所まで走るとセフィーリアに魔法の指示を出す。
声をかけられた彼女は一瞬、何を言っているかわからなかったようだがメビウスは長く、彼女の相手をしているヒマはないようで空に向かい弓を構える。
セフィーリアは状況を理解しようと彼の弓で狙っている空へと視線を向けると薄暗い空に赤い光が浮かんでいるのを見つけた。
メビウスの様子と赤い光からセフィーリアの頭は1つの絶望を導き出してしまう。それは元々、メビウスが今回のターゲットにしていた魔物の襲来である。
「あの、メビウスさん、あれってもしかして……煉獄鳥ですか?」
「わかったなら、魔法を使え、月光草すべてを燃やし尽くされたいなら良いけどな」
セフィーリアは導き出したものを否定して欲しいようで泣きそうな声で赤い光が煉獄鳥かと聞く。
その言葉をメビウスは否定する事はなく、赤い光に向かい矢を放った。
放たれた矢は一直線に赤い光へと向かって行くのだが赤い光は2つに分かれるとその1つが矢を捕らえ、接触した瞬間、爆発が起こった。
「おい。早くしろ!!」
「は、はい!?」
爆発が起きたのを見てメビウスはがセフィーリアを怒鳴りつけた。
それは魔法への催促であり、彼女は返事をするとすぐに魔法の詠唱に取り掛かる。
詠唱とともに彼女の足元には魔法陣が描かれて行く。
魔法陣が描かれ始めた事に煉獄鳥は気が付いたようで赤い光はいくつにもわかれて行く。
その赤い光は魔法が発動する前に煉獄鳥はメビウスとセフィーリアを始末してしまおうと意思が見え、メビウスは舌打ちをすると次々と赤い光に向けて矢を放つ。
放たれた矢が赤い光と接触した物から爆発を起こして行く。
同時に矢を放つ事は出来ないため、爆発は徐々に2人に近づいてきており、爆風や爆音で地面が揺れ、熱風が吹き荒れる。
「メ、メビウスさん、完成しました」
「ああ……本当に届くのか?」
その時、魔法陣が描かれたようでメビウスとセフィーリアの足元から青白い光の柱が浮かび上がった。
青白い光の柱は水の力を持っているのか熱風を防ぐがあくまでも事前に攻撃を塞いだ上での余波であり、セフィーリアは少しほっとするのだがメビウスは険しい表情で弓を構える。
彼の表情には煉獄鳥の羽根で矢を強化したにも関わらず、矢が何度も消し飛ばされている事への焦りも出てきているように見える。
「あの、メビウスさん……大丈夫なんですよね?」
「大丈夫に決まっているだろ。何度も狩っているんだ。ちょっと、考えていたプランと外れたから慌てただけだ」
セフィーリアはいつも余裕な彼の表情が歪んでいる事に気が付き、心配そうに聞く。
メビウスは彼女の声に少し冷静になったようで軽口を叩くと深呼吸をした後、煉獄鳥と思われる赤い光へと鋭い視線を向けた。
その様子から先ほどまであった彼の堅さは取れているようにも見え、セフィーリアは足を引っ張れないと思ったようで気合を入れ直す。
「メビウスさん、私は何をしたら良いですか?」
「とりあえず、全力でこの魔法じゃないか? 攻撃防ぎきれないと辺り一帯火の海だからな」
熱風を防げた事や魔法にはやはり自信があるのかセフィーリアはメビウスに次の指示を仰ぐ。
その声にメビウスは緩い口調で恐ろしい事を言うと鉈を手にして青白い光の柱から出て行ってしまう。
「メビウスさん、大丈夫なんですか?」
「ああ。やっぱり、弓みたいな攻撃は性に合わない。それより、気を付けろよ。魔物は煉獄鳥だけじゃないからな」
光の柱から出てしまえば熱風や炎が彼を襲うのは明らかである。
セフィーリアは彼の身を心配して声をかけるが彼から返ってくる言葉は自分の身の方を心配しろと言う物である。
その言葉でセフィーリアは周囲を見回すと闇夜の中にいくつかの光を見つけてしまう。
「そ、そうですね」
「今のところ、あいつらも焼き殺されたくないからな。ただ、炎に強い魔物が近づいてくる可能性だってあるからな」
光は魔物の目が放っている物だと彼女も理解でき、声を震わせる。
メビウスはセフィーリアに向かい、危ないのは煉獄鳥を倒した後だと言う。
セフィーリアは顔を引きつらせながらも、その言葉でメビウスが必ず、煉獄鳥を倒すと思ったようで大きく頷いた。
「それじゃあ、さっさと狩って帰るか? あんまり遅くなると」
「ターニアさんにお酒、飲み干されてしまいますから、煉獄鳥の下準備にはお酒を使うんですよね?」
彼女が頷いた瞬間、煉獄鳥は2人に向かって火の玉を吐き出す。
メビウスは表情1つ変える事無く、その火の玉を鉈で斬り伏せてしまい、2つに割れた火の玉はセフィーリアの魔法に当たり、消え去ってしまう。
火の玉を斬り伏せてしまったメビウスの様子にセフィーリアは目を白黒させるもののメビウスが吐いたターニアへの悪態に大きく頷いて返す。
「それも結構良い物を使うんだ。飲まれるとそろえるのに時間がかかるんだ」
「それじゃあ、ターニアさんにお酒を飲まれる前に終わらせましょう」
彼女の返しにメビウスは小さく口元を緩ませると力強く地面を蹴り、煉獄鳥が飛んでいる方向に向かって駆け出して行く。
セフィーリアは彼の背中を見つめた後、自分に何かできる事を思いついたようで新たな魔法の詠唱に移る。




