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43品目

「……ま、待ってください」

「最初は荷物を持つって言ってなかったか?」


 山道を進むにつれて坂は急になって行き、セフィーリアはメビウスから遅れて行く。

 彼女は息も絶え絶えになっており、メビウスは振り返ると彼女の顔色の悪さを見てため息を吐いた。


「す、すいません」

「少し休憩だな」


 責められていると思ったセフィーリアは足手まといになっているためか、泣きそうな表情で頭を下げる。

 泣かれると面倒だと考えたメビウスは頭をかくと背負っていた荷物を地面に下ろす。

 休憩の提案にセフィーリアは地面に直接、腰を下ろしてしまうのだが、メビウスの目には休憩が終わっても彼女が歩けるようには見えない。


「……困ったな」

「すいません」


 セフィーリアの疲労度にメビウスの口からはため息が漏れる。

 その言葉は彼女の耳にも届いており、セフィーリアは申し訳なさそうに肩を落とした。


「別に責めるつもりはない。元々、無理があると思っていた場所だからな。それより」

「な、何をするんですか?」


 無駄に落ち込む彼女の姿にメビウスは怒っているわけではないと首を振ると荷物から何かを取り出した後、彼女のブーツを脱がそうとする。

 突然の彼の行動にセフィーリアは何が起きたかわからずに顔を真っ赤にして声をあげるのだが、メビウスは手を止める事無く、ブーツを脱がせると彼女の足へと視線を向けた。


「あ、あの」

「……おかしな事を言うなよ」


 彼の視線にセフィーリアはもしやメビウスは素足に興奮するタイプの人間だと考えたようで不安げな表情をする。

 メビウスはなんとなく、彼女が何を考えているかわかったようで彼女へと鋭い視線を向けた。

 その視線にセフィーリアは身体を小さく縮ませた時、彼女の足にはひんやりとした感触が伝わる。


「ひゃう!? な、何ですか?」

「……薬を塗っているんだよ」


 足に伝わる冷たさにセフィーリアは驚きの声を上げる。

 メビウスは彼女がなれない山歩きに靴擦れを起こしているのではないかと思ったようで確認をしたようである。

 彼女の足はメビウスの予想通り、靴擦れを起こしており、セフィーリアの足に傷薬を塗り込んで行く。

 薬だと聞き、セフィーリアは大人しく薬を塗られているのだがくすぐったいのか時折、悩まし気な声が漏れてしまう。


「あ、ありがとうございました」

「効果は期待するなよ。あの酔っぱらいが調合した物だからな」


 薬を塗り終えたメビウスは若干気まずいのか、彼女から離れて薬をしまう。

 セフィーリアは傷薬を塗られた事で少し痛みが和らいだのか彼に向かい頭を下げるとブーツをはき直す。

 メビウスは彼女の素足に触れていたのが恥ずかしくなってきたのか視線を合わせずに誤魔化すように有効かわからないとため息を吐いて見せるが、傷薬はターニアが調合した物のため、効果を疑っているようにも見える。


「本当にお医者さんだったんですね」

「酔っぱらいだからな。酔えば酔うほどメスが冴えわたると言っていたぞ……さすがに悪質な冗談だと思うぞ」


 先日、ターニアが医者だと知ったセフィーリアはまだどこかで疑っていたようで苦笑いを浮かべた。

 信じられなくても仕方ないとメビウスはため息を吐くのだが、その言葉はかなり恐ろしい事を言っているため、セフィーリアの顔は引きつる。

 彼女の様子にメビウスは患者の治療をする時には酒を手放すだろうと言うのだが酒を手放している姿が思い浮かばないようで眉間に深いしわが寄ってしまう。


「……あの酔っぱらいの事は無視するぞ。それより、歩けそうか?」

「は、はい。大丈夫で……す」


 ここで話し込んでいても仕方ないと考えたメビウスは休憩と傷の具合を確認する。

 元々、オーミット家の問題に彼を巻き込んでいるため、セフィーリアは立ち上がろうとするのだが足に痛みが走ったようで頬は小さく引きつってしまう。


「説得力がないな」

「すいません」


 表情の変化にメビウスは当然、気が付いたようで眉間に額に手を当ててしまう。

 セフィーリアは痛みが酷いのか情けなくなったのかわからないが瞳に涙を浮かべた。

 彼女の様子にメビウスは困ってしまったようで頭をかいた後、この先、どうするべきかを考え始める。


「……大丈夫か?」

「は、はい。大丈夫ですけど……」


 考えた結果メビウスはセフィーリアを自分が運ぶと決めたようですぐに行動に移った。

 鉈を使って木の枝を落とし、縄を使って背負子を作り、荷物を抱えさせたセフィーリアを背負う。

 背負子に乗せたセフィーリアに向かい、メビウスは乗り心地を確認すると彼女からは問題ないと言う返事が有るのだがその声には不満の色が混じっている。


「何だよ? 尻が痛いとか言っている余裕はないぞ」

「こういう時って、普通に背負ってくれるとか……お姫様抱っことかじゃないんですか?」


 不満交じりの声にメビウスは乗り心地が悪いくらいは目をつぶれと言う。

 しかし、彼女の漏らした不満の声は女の子が憧れる運び方と違うと言う物である。

 その言葉の意味がわからないようでメビウスは首を傾げるのだが乗り心地に対する不満ではなかったためか歩き出す。


「わけのわからない事を言っているなら、周囲を見ていろよ。こっちは無駄な体力を使わないといけないんだ。あまり、周囲を警戒している余裕はないぞ」

「はい。わかりました」


 いくら、戦闘能力が高いメビウスと言っても、人を背負って歩くのは体力を使うようで動けない分、働けと言う。

 メビウスの反応がセフィーリアの望む物では無い事は彼女にも予想が付いていたようで大きく肩を落としながらも指示に従うと頷いた。


「それじゃあ、行くぞ。少し急ぐからな」

「は、はい。急ぐですか!? メ、メビウスさん、は、速いです!? お、落ちちゃいます!?」


 返事を聞いてメビウスは歩き始めるのだがセフィーリアを背負っているにも関わらず、彼の歩く速度はセフィーリアと一緒に歩いていた時よりもかなり速い。

 彼が歩を進める度にセフィーリアからは悲鳴にも似た声が上がるのだがメビウスが足を止める事はなく、山中には彼女の悲鳴が響く。


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