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42品目

「いやなら、戻るか? 俺は別にどうでも良いんだぞ」

「だ、大丈夫です。ここでしか月光草が採れないんですから、行かないといけないんです」


 馬車で山のふもとに移動するがその山はとても急であり、ところどころには崖と言っても良い場所まで見える。

 セフィーリアは今からこれを上らなければいけないないと理解して顔を引きつらせており、メビウスはため息を吐きながら意思確認をする。

 その質問は彼女には意地が悪い物でしかなく、泣きそうな表情をするのだが義兄であるラングラドからの指示は絶対のようで首を横に振った。


「そうか。それなら馬車を返すぞ」

「は、はい。あ、あの、私は何を持ったら良いんでしょう? ど、どうして、ため息を吐くんですか!?」


 彼女の返事を聞き、メビウスは必要な荷物を馬車から下ろすと雇った冒険者達に指示を出して馬車を戻す。

 戻っていく馬車をセフィーリアは名残惜しそうに見ているが遊んでいる時間は無いようでメビウスは下ろした荷物を背負う。

 下ろした荷物はすべてメビウスが背負ってしまったため、セフィーリアは自分も何かしないと思ったようだが、メビウスはそんな彼女を見てわざとらしいくらいに大袈裟なため息を吐いて見せる。

 ため息には明らかな悪意がある事は彼女にもわかったようでセフィーリアは声を上げるのだがメビウスは何か言うわけでもなく、1人で歩き出す。


「荷物を持つって言っていたはずだけど」

「す、すいません」


 急な坂道だけではなく、足場の悪さがセフィーリアの体力を削って行くのだがメビウスはまだまだ余裕がありそうである。

 息も絶え絶えな彼女の様子にメビウスはため息を吐く。それは彼が彼女の事を気づかって休憩だと言いたいようだがその口から出てくる言葉は優しさの1つもない。

 当然、セフィーリアは足手まといと言われていると感じてしまったようで肩を落としてしまうがメビウスは彼女が落ち込んでしまった理由がわからないようで首を捻った。


「ここから先はもっと坂が急になるからな。しっかりと休んでおけよ」

「は、はい……」


 岩に腰を下ろしたセフィーリアがなせ落ち込んでいるかをメビウスは少し考えるが考えてもわからなかったようで頭をかくと荷物から水筒を取り出して彼女へと軽く放り投げる。

 慌てながらもセフィーリアは水筒をキャッチすると水筒に口を付けるが気になる事があるのか視線は1ヵ所に向けられている。

 彼女の様子にメビウスは首を傾げると彼女の視線の先を追いかける。セフィーリアの視線の先には崖があり、なんとなく、メビウスは悟ったようで頭をかいた。


「安心しろ。今回はあそこは通らない」

「そうですか。良かったです……今回は?」


 彼女は崖を登るのではないかと不安になっているため、メビウスは心配するなと声をかける。

 その言葉でセフィーリアはホッとしたのか胸をなで下ろすのだが何かが引っかかったようで顔を引きつらせてしまう。


「何だよ?」

「今回はって事はメビウスさんは1人だとあの崖を登るんですか?」


 メビウスは彼女の様子に眉間にしわを寄せて聞き返すとセフィーリアは崖を指差しながら登れるのかと聞く。

 質問の意味がわからなかったようでメビウスは小さく首を傾げるのだがセフィーリアはそんなわけないと思いたいようで彼の次の言葉を待つ。

 ただし、その淡い期待はすぐに打ち砕かれる事になる。


「あれくらいの崖ならな。ただ、落ちると死ぬからな。お前と一緒じゃ、登れない。それも考慮して時間がないって言っているんだ」

「で、ですよね。私も頑張らないと」


 平然と自分1人なら崖を上ると言い切る彼の様子にセフィーリアの顔は引きつる。

 それでもすぐに落ち込んではいられないと思い直したようで大きく首を横に振って弱気を振り払おうとする。

 彼女の様子にメビウスは小さく口角を上げるのだがセフィーリアが気付く事は無い。


「そう言えば、メビウスさん、この山の上に月光草が生える場所があるんですよね? 魔物もやっぱり来るんですか?」

「来るだろ。空を飛ぶ魔物だっているだろ……何だよ? お前、鳥型の魔物だって見ているだろ。それに土の中を進む魔物だっている。何より、魔物は基本的に俺達よりもでかいんだ。人間には大変でも、魔物から見たらそうでもない事なんて多々あるだろ」


 山の上と言う事でセフィーリアは魔物が少ないのではないかと淡い期待を持ったようである。

 しかし、メビウスはすぐに彼女の期待を打ち砕いてしまう。

 セフィーリアは期待を裏切られてしまった事に力なく笑うのだが魔物との戦闘は最初からわかっていた事であり、落ち込んでばかりもいられないと水筒のふたを閉めて立ち上がる。


「もう良いのか?」

「はい。休んでいて間に合わなかったら大変ですから」


 立ち上がった彼女を見て、メビウスは意思を確認するとセフィーリアは気合を入れ直したようで大きく返事をする。

 ただ、彼女の返事にメビウスはセフィーリアが空回る気しかしないようで頭をかいた後、彼女から水筒を受け取ると荷物を背負い直す。


「それじゃあ、行くか? ……あ」

「あって何ですか!? 魔物ですか? 魔物が出たんですか?」


 再出発だと歩き出したメビウスだが数歩先に進んだところで足を止めてしまう。

 セフィーリアは魔物がいるのではないかと思ったのか足を止めると剣に手をかけて周囲を慌てた様子で見まわす。


「魔物は出ていない。なんか、背中に乗せてくれる魔物もいるって親父が言っていた気がしたな」

「そんな魔物がいるんですか? ……その前にそんな風に言う事を聞いてくれる魔物っているんですか?」


 彼女の慌てる姿にメビウスはため息を吐いた後、父親から聞いた話を思いだしただけだと言う。

 その話はセフィーリアにとっては興味深かったようで驚きの声を上げるのだがすぐに思い直したようで眉間に深いしわを寄せた。


「さあな。今のところ懐かれた事もないし、うちにとって魔物は食材だしな。ご同類を狩っている人間には懐かないだろ」

「で、ですよね」


 何度も魔物と対峙しているメビウスにも経験はないため、彼はため息を吐くと歩を進め出す。

 その言葉にセフィーリアは苦笑いを浮かべた後、慌てて彼の後を追いかける。


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