40品目
「……だから、彼女じゃない」
村に戻った2人は宿屋に戻り、状況を説明すると女店主を仲介として冒険者達に依頼を出した。
解体された魔物が村に運ばれたと言う事で宿屋の前には村民達が溢れかえっているのだが、見なれない物だったためか肉片を見た村民は顔を引きつらせ、魔物を狩りに来たと冒険者達はこれくらい自分達でも出来ると虚勢を張ったり、メビウスが竜の焔亭の五代目店主だと聞いて驚いたりと様々である。
その中でセフィーリアを口説こうとしていた年若い冒険者は顔を真っ青にして頭を下げる。メビウスはセフィーリアとの関係を否定するのだが彼女はかなりの人数に口説かれていたようで途中からはかなり不機嫌な物になっている。
「彼女だって言ってくれても良いのにね」
「わ、私は別に……あ、あのそれより、本当に大丈夫なんですか?」
女店主はすぐに依頼を受理し、依頼を出すのだが虚勢を張った者達はおこぼれなど受け取れないと言う。
そのため、メビウスからの依頼はこの村に到着する前に魔物に襲われて被害を受けた者や一獲千金を目指してきた物の実力不足を実感した者達に回された。
依頼を分配できた事に女店主は満足げな笑みを浮かべているのだがセフィーリアは冒険者に依頼を出すのが初めてのようで不安そうな表情をしている。
「何が心配なんだい?」
「大方、依頼を受け持った人間が持ち逃げしないかを心配しているんだろ」
彼女の様子に女店主が首を傾げると不機嫌そうな表情をしたメビウスが声をかけた。
彼の言葉は彼女の心配事を言い当てていたようでセフィーリアは困り顔で頷く。その瞬間、冒険者達の視線は一気に彼女へと向けられる。
その視線にはバカにするなと言う意味が込められており、向けられた視線にセフィーリアは身体を小さく縮めてしまう。
「言いたい事もわかるけどな。依頼品の持ち逃げなんかしたら、この世界では生きていけないからな」
「魔物のお肉の売り買いなんてやってくれる場所は限られているからね。それに今回の依頼主は悪名高い竜の焔亭の二代目様だよ。そんな事をしたら、そこで解体されている魔物と同じ結末よ。メビウス、この辺、貰って料理しても良いのよね」
メビウスはため息交じりで冒険者としての当然のルールだと言うと女店主は補足するように話し出す。
ただ、彼女の言葉には悪意のような物が見え、メビウスは彼女を睨み付けるのだが女店主は彼の視線を平然と交わすと運んできた魔物の肉を調理し始める。
女店主の態度にメビウスは舌打ちをするのだが彼女が気にする事はない。
「あ、あの。良いんですか?」
「勝手にさせておけよ。一応、うちの親父とも付き合いが長いから、魔物の調理は出来るし、どうせ、昼飯を食わないといけないんだ……何だよ?」
セフィーリアは当たり前のように料理を始めようとする彼女の姿に首を傾げる。
すでにメビウスは興味がないようで勝手にしろと言いたげだがセフィーリアは良く見た方が良いと思ったようで彼の腕をつかんでカウンターを指差す。
メビウスは彼女の様子に不機嫌そうな表情をして視線を移すとカウンター内には2人分の昼食には多いくらいの魔物の肉が運び込まれている。
それを見て、メビウスの顔は引きつり、セフィーリアはやっぱりおかしい事なんだと苦笑いを浮かべた。
「何しているんだよ!?」
「良いじゃない。あんたの親父は魔物を狩った後、運びきれないからって多くの人間にただで振舞っていたよ。あんたはそれくらいも出来ないのかい? けつの穴がちっちゃい男だね。だいたい、あんたが調理したらせっかくの食材を捨てる事になるじゃないか」
ここまで運んできたのは彼が選びに選んだ部位であり、当然、怒りの声を上げるのだが女店主は彼の言葉などまったく聞く気は無いのかきっぱりと切り捨てる。
父親の事を目標にしているメビウスには彼の父親はこんな事をしていたと言われる事に弱いようでメビウスは不機嫌そうな表情で黙ってしまう。
「フィーちゃん、メビウスも黙ったし、手伝って。竜の焔亭で調理しているんでしょ。昨日も助かったからね」
「えーと、はい」
メビウスを黙らせた事に気を良くしたのか女店主は楽しそうに笑うと量が多いためか、セフィーリアをカウンター内に呼ぶ。
セフィーリアはメビウスと挟まれると思ったようで困ったように笑うと彼へと視線を向けた。
文句はあってもすでにメビウスに反対する意思はないようで小さく頷き、セフィーリアは苦笑いを浮かべたままカウンター内に移動する。
「……ったく、休憩に来たはずがなんで働かないといけないんだよ」
「文句を言っていないでさっさと運ぶ」
料理が出来上がってくると村の小さな宿屋では人手など足りるわけもなく、いつの間にかメビウスまでも駆り出されてしまう。
不機嫌そうに料理を運ぶ彼の姿は接客業にあるまじき姿なのだが厄介な魔物を簡単に倒してしまった事や女店主の言う通り有名な竜の焔亭の店主であると知れば逆らう者などいない。
そんな彼をあごで使う女店主の様子に逆らってはいけないと言う空気まで店内に広がって行く。
「あの。メビウスさんはあれで良いのでしょうか?」
「何、焼きもち?」
不機嫌で不愛想な様子のメビウスなのだが、なぜか若い娘の冒険者達は彼の仕草に声を上げ始めるが声をかける事はない。
彼女らの視線にセフィーリアは何か通じるものがあったのか女店主に声をかけると彼女はセフィーリアの反応が楽しいようでくすくすと笑う。
ターニア以外から言われるとは予想していなかったようでセフィーリアは顔を真っ赤にする。
「ち、違います。私はメビウスさんの事を尊敬していますがそのような事は考えていません!!」
「ごちそうさま。そういう事にしておくわ」
自分の顔が赤くなってきている事にセフィーリアは気が付いているようでその想いを否定するように声をあげた。
ただ、その反応を見れば誰の目から見ても彼女の想いは明らかであり、女店主はニヤニヤと笑うと料理を再開する。
 




