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4品目

「……何があったんだ?」

「知らないよ。店に来たらすでにこんな感じだ……ターニアの姉さん、来てくれないかな?」

「確かにこの空気をぶっ壊せそうなのはターニアの姉さんだけだろうがあの人はこの時間はまだ夢の中だ」


 セフィーリアが店を手伝っているとメビウスの不味い料理を食べなくて済むため、開店前にセフィーリアが店の前にいたと言う話は常連客の間を一気に駆け抜けたらしい。

 そのため、セフィーリアの料理目的で多くの客が開店直後から店のドアを開けたわけだが店の隅では彼女が落ち込んでおり、メビウスは苛立っているのが見て取れる。セフィーリアの料理を期待したにも関わらず、出てくる料理はメビウスの苛立ちが反映されているのかいつも以上に不味く、この空気に耐え切れない客達はターニアの来店を願う。

 ただし、終始、酔っぱらいの彼女の朝は遅く、午前中に起きているわけがない。


「メビウス、フィーちゃんはどうしたんだよ?」

「本人に聞け。それより、注文しろよ。うちは寄合所じゃないんだ」


 すでに胃が彼女の料理を待ち受けているためか、客達もメビウスの料理を注文したくないようで意を決した客の1人がメビウスに声をかける。

 しかし、メビウスには彼女が落ち込んでいる理由など考える気もない。それどころか客達が注文1つしない事に苛立っているようで客達の前にメニュー表を押し付けるように見せる。


「いや、せっかく、フィーちゃんが来ているのにメビウスの料理を食う理由がない」

「何だと?」

「どうせ、お前がフィーちゃんを落ち込ませる事を言ったんだろ。お前が悪いんだから、お前が謝れ」


 メビウスの料理を客達は即座に否定し、彼の額には青筋が浮かび上がった。

 彼の機嫌が悪くなろうと客達に取ってはセフィーリアの料理の方が重要であり、店内にいる客達以外に店の外で席が空くのを待っている客達までメビウスに謝罪しろと声を上げる。

 

「何で俺が?」

「どうせ、魔物討伐の件でめちゃくちゃな事を言ったんだろ? 魔物討伐後のたぎった血を収めるのにはフィーちゃんの身体が必要だとか?」

「……あいつにはその話すらしてねえよ。だいたい、なんで、俺があいつを襲わないといけないんだ」


 客達の声に納得がいくはずのないメビウスは不機嫌そうに言う。

 セフィーリアが落ち込んでいる原因は先日、彼女が持ち込んできた依頼へのメビウスの物言いに違いないと客達は決めつけているようだが彼女とは今日は魔物討伐の話にもなっていない。

 ため息を吐くメビウスの様子に客達は顔を見合わせた後、セフィーリアへと視線を向ける。


「……なんで、魔物討伐の話をしていないんだ?」

「店を開ける前に話した方が良いと思って、詰所に行ってきたんだよ。そこで昨日、店にも来ていたロイックとか言うヤツに伝える事は伝えた。魔物討伐の事も何も会話が成立していない」

「そうか……」


 メビウスはセフィーリアが勝手に落ち込んでいるだけで自分は何も悪くないと言い切ると客達は目線で合図を送る。

 その合図に気が付いた女性の客達がセフィーリアの前まで移動すると強制的に彼女をメビウスの前の席に座らせてしまう。

 突然の事に彼女は目を白黒させるのだがメビウスと視線が合わさるとすぐに逃げ出そうとするのだが客達が彼女の身体を抑えつけて放さない。


「……何がしたいんだ?」

「いや、逃げるから。フィーちゃん、怖くないよ。メビウスが不機嫌そうにしているのはこいつの元々、装備された能力だから料理度下手と同じ物だから」


 逃げ出せずに目に涙を浮かべている彼女の様子に放してやれて言いたげにメビウスはため息を吐く。

 客達は自分達にも言い分があると言うとセフィーリアを落ち着かせようとするのだが、その言葉はメビウスへの罵倒でしかなく、彼の額には青筋が浮かびあがっている。

 それでも客達は誰もメビウスをなだめる事はせず、セフィーリアに魔物討伐をメビウスが受諾してくれた事を説明して行く。

 客達からメビウスが怒っていない事や魔物討伐を受諾してくれたと聞き、セフィーリアの表情から少しずつ緊張の色が薄れて行くのが見て取れる。


「ま、魔物討伐への協力、ありがとうございます」

「……まだ、協力するとは決まっていない。条件を押し付けてきただけだ」

「そ、それでも1歩前進ですから」


 客達から説明を受けたセフィーリアは勢いよく立ち上がると深々と頭を下げてお礼を言う。

 しかし、メビウスは礼を言われる状況ではないと一蹴してしまった。彼の様子に客達は大きく肩を落とすわけだが彼女は力なく笑いながらも両手を握り締めて頷いた。


「それじゃあ、用は済んだんだろ。さっさと帰れよ」

「何を言っているんだ。俺達はフィーちゃんの料理を求める。ほら、さっさと厨房をフィーちゃんに渡せ!!」

「メビウス、お酒、ちょうだい」


 彼女がいると客達が無駄に騒ぐため、用件が済んだと追い出そうとするのだが彼の料理など食べたくない客達はメビウスの言葉に従う気は無い。

 それどころか彼を厨房から追い出そうと声をあげる。客達の声に不機嫌そうに眉をひそめるメビウスの様子にセフィーリアはどうして良いのかわからずにオロオロし始めた時、お酒の瓶を抱えたターニアが入口のドアを開けた。

 彼女はメビウスの手綱を引ける数少ない人間であり、これでメビウスを厨房から追い出せると思った客達は声を上げる。


「……朝から酒とは良い身分ですね。お姉様」

「あ。フィーちゃんがいるのね。それじゃあ、おつまみも。メビウスも早く出てきなさい」


 自分の店の中にも関わらず、完全に敵地の様子に嫌味を言うメビウスだがターニアはセフィーリアを見つけて上機嫌で彼女におつまみを注文するとそれをきっかけにセフィーリア指名で料理の注文が入り始める。

 指名の声に彼女は戸惑っている物のこのままでは収集が尽きそうにない。困っている彼女を知ってか知らずかターニアはメビウスに厨房から出てくるように命令する。

 しぶしぶと厨房からメビウスが出るとセフィーリアは女性客に背中を押されて厨房に移動させられてしまう。

 困り顔の彼女ではあるが客達からの注文は一向に収まる様子はなく、彼女は小さく深呼吸をした後、メビウスが普段使っている包丁を手にして注文の料理を作り始め、メビウスは不機嫌そうな表情で客達にメニューやお冷を出して行く。


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