39品目
「不思議な魔物でしたね」
「そうだな……なんで、透けて見えるんだろうな」
姿さえ見えてしまえば、メビウスにとっては雑魚としか言えない魔物だったようで簡単に解体されてしまう。
生肉を片手にしているメビウスにセフィーリアは顔を青白くしながら声をかける。
彼女の魔法を使っていた時の自信ありげな表情とは真逆にあり、メビウスはため息を吐くと魔物の羽根を手に取った。
すでにセフィーリアの魔法が解けてしまってはいる事や血液に染まっているためか透明に見入る事はない。
理由がわからない現象ではあるが考えている時間もないため、もう1度、ため息を吐くと部位を選んで馬車の荷台につめ込み始める。
「あ、あの。この運べない魔物のお肉はどうするんですか?」
「運べないからな。今回はしっかりと処理したから味も良いのにもったいないな。まあ、魔物を狩りに出るといつもの事だからな。あまり気にするな。今回の狙いは煉獄鳥と月光草だから」
大きめの馬車を用意したとしても荷台には入りきらない量であり、セフィーリアは首を傾げた。
メビウスももったいないとは思っているもののどうしようもならない問題のようで割り切っているようである。
ただ、セフィーリアは簡単に割り切れないようで血でも汚れていない羽根を手に取ると太陽の光に透かす。
日に透かされた羽根の色は目には映るが透けて見え、彼女は不思議そうに首を傾げる。
「この羽根って何かに使えないんですかね? ブロムさん、防具にしてくれないでしょうか?」
「魔物に見つからなければ簡単に近づいて魔法を使えるか?」
この羽根に有効的に使える事はないかと思っているようでブロムに持ってあげてはと言う。
その意見にはメビウスも賛成のようで頷くが素直ではない性格のためか、彼の口からは嫌味が漏れる。
嫌味にセフィーリアは小さく肩を落としてしまい、メビウスはそんな彼女の様子に申し訳なく思ったのか頭をかいた。
「別にバカにしているわけじゃない。魔法が使えるなら使えよ。魔物相手で怯むのは仕方ないにしても経験していればそのうちなれるだろ?」
「な、なれるでしょうか? なれたら、私もメビウスさんみたいに魔物に向かって行けますかね?」
落ち込ませてしまった事に気が引けてしまったのかメビウスは魔法を使えるなら、有効利用できるようになれば良いと言う。
セフィーリアは顔をあげて聞き返すとメビウスは小さく頷いた。
彼の態度にセフィーリアの表情が明るくなると彼はその顔を1度、見た後、何事もなかったかのように作業を続けて行く。
頷くだけではなく、言葉で示して欲しかったようでセフィーリアは少し不満げではあるがいつもとは違う彼の反応に少し自信が出てきたのか両手を握り、気合を入れる。
「……やっぱり、もったいないですね」
「良いんだよ。魔物の死体は腐れば大地にも良い肥料になるし、肉食獣のエサにもなるからな。この間のヒュプノパイソンの毒で荒れた土地も時間が経てば荒らされる前より、良くなっているさ」
メビウスの選別から漏れた魔物に肉は放置されている。
その様子にセフィーリアは納得が出来ないようで首を捻っているがメビウスは気にする必要などないと言うと馬車に乗り込んで行く。
セフィーリアは慌てて彼に続いて馬車に乗り込むとメビウスは馬車を走らせるがなぜか行く先は先ほど出て行った村である。
「メビウスさん、村に戻るんですか? せっかく、ここまで来たのに」
「今回は煉獄鳥と月光草が目的だからな。あまり荷物があっても邪魔だからな。元々、煉獄鳥を狙うのにこの辺をうろついているだけなんだ。それくらいの時間はあるさ。集まっては見たものの、魔物を狩るほどの実力はない冒険者でも雇って王都に運んで貰うさ。費用はオーミット家持ち出しな」
引き返し始めた馬車にセフィーリアは小さく首を傾げた。
メビウスは口ではこんな物と言っていたくせにやはりもったいないと思っていたようで狩った魔物を運んで貰う気のようである。
セフィーリアは先ほどの言葉は何だったんだろうと思いながらも、口には出せないようで苦笑いを浮かべてしまう。
「でも、考えるともったいないですよね。メビウスさんは魔物を狩っても多くの部位を無駄にしているんですよね」
「悪かったな。仕方ないだろ。この国は街道整備だって力を入れてないし、税金を搾り取るしか考えてないんだからな」
セフィーリアが同行している魔物討伐は2度とも馬車であり、通常ならメビウスは狩った魔物のほとんどを捨てていると考えた時、無駄にしているのだと気づく。
メビウスは国がある程度、仕事をしてくれれば少しは便利になると言うと彼女は表情を暗くする。
その様子にメビウスは失敗したと思ったようで頭をかいた。
「……申し訳ありません」
「別にお前を責めているわけじゃないだろ。それより、簡単に落ち込むのをやめろよ」
セフィーリアは政が上手く行っていない事を謝るのだがメビウスは元々、彼女にそのような力がないと言う事は理解している。
魔法を使っている時くらいに自信を持ってくれれば良いと考えているメビウスはため息を吐くのだが彼の言葉にセフィーリアの表情は更に暗くなってしまう。
「……だから、落ち込むなよ。俺の口が悪いのは今更だろ。これだとまるで俺が責めているみたいじゃないか」
「すいません」
責めてなどいないとメビウスはセフィーリアに言うのだが彼女から返ってくる言葉は謝罪の言葉である。
彼女の様子に困ったのはメビウスであり、どうすれば良いかと眉間にしわを寄せるのだがどちらかと言えば彼は竜の焔亭の二代目として年上の常連客達に甘やかされているため、落ち込んでいる同年代の女の子を励ます手段など思いつくはずもない。
こんな時にターニアでも居れば軽口でも叩いて場を和ませてくれると思いながらも彼女は同行しておらず、役立たずな叔母の顔を思い浮かべた彼は責任転嫁で舌打ちをする。
ただし、落ち込んでいるセフィーリアにとってはその舌打ちは更なる精神攻撃でしかなく、彼女の放つ空気はどんどん重たくなって行く。
 




