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38品目

「メ、メビウスさん、魔物はどこですか? もしかして、もうどこかに行ってしまったのでしょうか?」

「……」


 セフィーリアはゆっくりと馬車を降りると剣を構えて上空を見上げるのだがその腰は完全に引けている。

 上空を見上げたものの彼女の視界には魔物を捕らえる事が出来ず、魔物は飛んで行ってしまったのではないかと言う希望的観測で言う。

 しかし、メビウスは弓を構えて1点を見つめており、セフィーリアは彼の視線の先を見つめる。


「あ、あの。メビウスさん、どこかに魔物がいるんですか? 煉獄鳥なんですか?」

「安心しろ。そこまで危険な物じゃない。ただ、あまり、会いたくはなかったな」


 メビウスの視線を追いかけては見たものの、セフィーリアの目では魔物を捕らえる事が出来ない。

 正体がわからないためか、彼女の声は震えている。そんな彼女にメビウスは心配する必要などないと言うのだが表情は真剣なものであり、セフィーリアはごくりと息を飲む。

 その時、再び、巨大な咆哮が響き、セフィーリアの身体は一瞬、震えるが引くわけにはいかないと思ったようで彼女は顔をあげて真っ直ぐに前を見る。


「あの、会いたくなかったと言うのはどういう事でしょか?」

「決まっているだろ。調理するのが面倒なんだ。下準備に失敗すると肉は硬くなるし、身もぱっさぱさになるんだよ。俺も良く失敗する」


 黙っていると不安に押しつぶされそうになるのかセフィーリアは声を震わせながら、魔物について聞く。

 メビウスから返ってくる言葉は彼女が予想していた物とは異なっており、セフィーリアは予想外の言葉に剣を落としそうになる。


「強力な魔物とかじゃないんですか!?」

「戦闘能力はあまり高くない。ただ、いろいろと面倒なんだよ……なあ、視界不良を起こす魔法ってあるか? 一時的に夜みたいにする魔法だ」


 怖がっていて損をしたと言いたいのか彼女は驚きの声を上げる。

 強力な魔物ではないとメビウスは首を振るのだが何かあるのか歯切れが悪く、メビウスが苦手にしている魔物だと言う事がわかる。

 メビウスは鋭い視線を向けながらも何か考え付いたようでセフィーリアに魔法に付いて聞く。


「あ、ありますよ。その魔法は割と得意です」

「良し、それならすぐに使え。さっさとしろ!!」


 目的がわからないものの、メビウスの言う魔法に心当たりがあるセフィーリアは珍しく自己主張して大きく頷いた。

 彼女の言葉にメビウスは迷う事無く、指示を出すが彼女は状況が理解できないためか行動に移れずにいる。

 メビウスはその姿に声を荒げるとセフィーリアは慌てて剣を鞘に戻すと両手を前に出して魔法の詠唱を始め出す。

 魔法の詠唱に反応するようにセフィーリアの足元には魔法陣が描かれて行く。


「へえ」

「あ、あの、どこに向かって使用すれば良いのでしょうか? 魔物はどこにいるんですか?」


 魔法は使えなくてもメビウスは魔力を察知する事は出来るようでセフィーリアの魔法に驚きの声を漏らした。

 その時、魔法が完成したようでセフィーリアの両手の前には黒い球体が浮かびあがる。魔法が完成した物の彼女はどこに向かって魔法を使って良いかわからないようで自信なさげな声で聞く。

 彼女の声にメビウスは言葉を失のだが、せっかくの魔法を無駄にするわけにもいかないためか真っ直ぐに構えていた弓を少し上に向ける。

 矢の先端が上がった事にセフィーリアはそれが彼の指示だと思ったようで魔法を放つ。

 放たれた魔法はしばらく直進するとはじけ飛び、周囲は闇に包まれてしまう。


「……本当に魔法の成績は良かったんだな。少しいろいろとやらせてみるか?」

「メ、メビウスさん、これで大丈夫ですか!? メ、メビウスさん、あの魔物はど、どこから現れたんですか? 先ほどまで居ませんでしたよね?」


 魔法の発動にメビウスは今までの彼女への評価を上げたようで驚きの声を上げる。

 セフィーリアは魔法が成功した事にほっと胸をなで下ろすのだが目の前に広がる暗闇の中、先ほどまでは存在しなかったはずの鳥型の魔物の姿が浮かび上がった。

 鳥型の魔物は鋭い視線を2人に向けており、殺気を放っているのだがメビウスの放つ気配に抑え込まれているようで攻撃には転じられないようである。

 メビウスと魔物の間に緊迫した空気が流れている。普段のセフィーリアなら、この空気に威圧されてもおかしくないのだが突然の事で状況が整理できていない。

 そのせいか威圧されるよりも驚愕が勝ったようで驚きの声をあげそうになるのだが何とか押し込むと声を震わせながら魔物について聞く。


「……最初からいた。太陽の光を反射したり、吸収したりして太陽の下では姿を消すみたいだ。どうしてか理由はわからない。まあ、気配はするから攻撃しようとすれば出来るけど、さっきも言った通り、姿が見えないと下準備がしにくい」

「そ、そうなんですか?」


 セフィーリアの質問にメビウスは簡単な説明をするのだが説明と言うよりも目の前の魔物を調理する事に興味が移っているようで彼の口元は小さく緩んでいる。

 魔物が放っている明らかな殺気に本来ならば命のやり取りが発生するはず、それなのに魔物と対峙している彼は自分が死ぬ事など微塵も考えていないようで純粋に料理を楽しもうとしているのだ。

 普通では考えられない彼の様子にセフィーリアは魔物への恐怖よりもメビウスの料理に対する情熱にドン引きしてしまっているのか顔を引きつらせてしまう。


「……まずは地面に落とすか?」

「へ? って、メビウスさん!?」


 飛んでいる状態では調理が面倒だと考えたようでメビウスは構えていた矢を放った。

 放たれた矢は一瞬で魔物の右の羽根を撃ち抜く。その矢の速さにセフィーリアは何が起きたかわからないようで呆然とするが片方の羽根を撃ち抜かれた魔物はバランスを崩し、ゆっくりと地面へと落ちてくる。

 その様子を呆然と見ている彼女に向かってメビウスから弓が投げ渡される。彼女は慌ててその弓を受け取り、何をするつもりかと声をかけるのだがメビウスは愛用の鉈を握ると魔物に向かって駆け出して行く。


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